Episode.18 Battle

 ……外人さん達に食い逃げされた後、店に取り残された私と冴子は、彼らの悪口を散々言って、それを肴にお腹の限界まで飲んで食べて、ちゃ〜んとアイツらの分のお金も支払って帰った。 


 ……まあ最後は冴子との女子会で楽しかったから『終わり良ければ全て良し』……ね。


 かなりお酒も入っていたので、その日は軽くシャワーを浴びただけでベッドに入った。 ……肌ケアをしなかったので何か違和感があったが、眠気がまさっていた。



使手恵してえ……使手恵………」


 むっ💢 


 以前も言ったが、私を本名で呼ぶのはロクな奴では無い。 私は無視し続けた。


「使手恵……使! 手! 恵!」


 むむっ💢💢


「使手恵! 起きぬか、このたわもの


 タワケモノ? ……良く判らないが、私をバカにしている言葉であろう事はニュアンスで判った。


「何よ! こんな夜中に誰よ!」……と、私が不機嫌にそちらを向くと……


 ぎゃあああぁぁぁ〜〜!


 タ! タコ!?


 真っ赤な『タコ』と目が合った!


「なっ! なっ! 何? 誰!?」


「……我こそは『蛸殴たこなぐりの諏打鼓すだこ』……其方そちの『祖』なるぞ!」


 ……よく見ると、頭に黒くて長い筒? をかぶり、昔風の着物を身に着け、手には木の板? しゃく? みたいな物を持っている。


 お……おじゃるまる!? 


 ……タコだと思ったけど、どうやらタコのお面をかぶっているだけのようだ。


 あ〜〜〜! こいつこそ、オニをタコ殴りにして、みかどだかミスドだか何だか知らないけど、そいつから『蛸殴』の姓を賜りやがった元凶か! (←相変わらず罰当ばちあたり)



「使手恵よ……麻呂まろなげかわしいぞ!」


 な? ナゲカワシイ?


「其方がしっかりせぬと、由緒正しき『蛸殴』の家名が絶えてしまうのだぞ! なのに何じゃ、その為体ていたらくは!」


 テイタラク?


 何だコイツ! さっきから意味の判らない言葉を使いやがって! 


 そもそもあんたが『蛸殴』なんて頓狂とんきょうな名前をミスド(←誤)からたまわるからいけないんじゃん💢💢💢


「何よ! あんたがこんなヘンテコな名字を貰った時、ミスド(←誤)にクレーム言ってれば、私がこんなつらい思いしなくて済んだのよ!」……と、私はご先祖さまに詰め寄った。


 酢ダコ(←失礼)は「何じゃ! 祖に刃向はむかうその態度は! ……そもそも其方に、世の全ての男子おのことりこになる『至高最上の美貌』を与えてやったのは、何を隠そう麻呂なのじゃぞ! 感謝されこそすれ、非難される筋合いは無いぞよ!」……と、反撃に転じた。


 が! 私も負けては居られ無い!


「ビボウだかゴボウだか知らないけど、そのせいで、ご町内で暴動が起きちゃったのよ! (本編 Episode.14 Chaos をご参照下さい)むしろ迷惑だわ! あんた、自分が『ご先祖様だ』って偉そうに言うなら、子孫を苦労させないように良〜〜く考えてから色々行動しなさいよ! タコ殴りにすっぞマジで💢」



「……! ……」


 やったあ! 私の迫力にされてか、酢だこが沈黙した。


「……で? 何しに来たの?」……と、私がぶっきら棒に聴くと……


「……いや……其方がそんなにもいきどおるとはついぞ思わなかったから、驚愕して忘れちゃった……」……と、酢ダコは鼻を鳴らして、さっきまでの元気はどこへやら……シュンとしてしまった。


 怒りに任せて、かなりドギツい言葉を酢だこに浴びせちゃったけど、シュンとしている姿を見ていたら、ちょっと……いや、かなり可哀想になっちゃった。


「……ごめんなさい……ちょっと言い過ぎちゃいました……」


「……い……いや……麻呂も其方に色々迷惑をかけていたようじゃ……謝罪致す……誠に相済あいすまぬ……」


「い……いや……頭をお上げ下され……。 私も、ご先祖さまに対して『ゴブレイ』を致しまして、誠に申し訳ありませんでした」……なんか、私もつられて変な言葉遣いになった。


 ……その言葉を聞いたご先祖さまは顔を上げた。


 ……! 


 お面が消え素顔だった。


 そのお顔はとても美しい微笑みを湛えていた。 


 ……我がご先祖さまながら、気高さの中に慈愛を含み、この世の方とは思えない程だった。 


 あ! ……この世の方では無かったわ!


……麻呂は、実は其方の『心』を計る為に、この世に参ったのじゃ。 人はおごり高ぶる性分を持っておる。 ……其方に与えた美貌により、其方が驕っておるようであらば、それをいさめようと思っておったが……其方は、人が失くしてはならない『思いり』をちゃんと持っておった。 麻呂は安心したぞ! ・き・かな


 ……! アカデミー賞を獲った某アニメの有名なセリフを残し、酢ダコ……いや、ご先祖さまは消えた。


「あ! ま! 待って下さい!」……私は、ご先祖さまともう少しお話がしたくて必死に手を伸ばした。


『ドサッ』という音と共に、痛みを感じて目が覚めた!


 ……痛たたた! 小学生以来、久しぶりにベッドから落ちちゃった!


 あれは、全部夢!?


 …………。


 ……ふふっ ご先祖さまも、心配してくれているのかも……ね。



『蛸殴』


 ……私が『大! 大! 大っ嫌いな名前』だったけど、今の夢のせいか『好きじゃ無い名前』くらいに、格上げになった気がした。


 私は手を合わせて……


『ご先祖さま……ごめんなさい……そして……ありがとうございます』と念じた。


 そして深夜だけど鏡に向かって、さっき省略してしまった肌のお手入れを始めた。


 ……せっかくご先祖さまが下さったこの顔とこの身体……大切にしないと、本当にばちが当たっちゃうもん……ね。


 うん! いつもよりお肌の調子が良い気がした。(←さっき、お店で良いものいっぱい食べたってのもあるけどね!)

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