003 幼馴染は悪役貴族

 どうも熱海 憧(旧)です。

 今はヒイロ・メリファー(新)をやってます。

 なんて風な自己紹介じゃ相手は混乱するだけだし、こっちも混乱しそうだ。

 というか今まさに混乱してるんだろう。


 ヒイロ・メリファー。それが今の俺の名前ってことらしい。

 年は十八の健康男児。赤茶の髪色。前髪がバッテンみたいにクロスしてるのがチャームポイントな、少年以上で青年未満。

 背は高く手足も長いが、人相悪くてガラも悪けりゃ口も悪いの三連コンボだ。

 特に目付きの悪さは酷い。鏡を見た時は、どこのチンピラだよ、とは正直に思ったくらい。なのになんかパッとしない顔つき。なんだよこれ。


 しかし、しかしだ。

 悪人相だったり柄の悪い主人公なんて、今どきいくらでも居る。むしろ人気のジャンルだろう。

 そんでヒイロって名前。いやもう、ニアピンじゃん。後伸ばすだけじゃん。

 さらに、サラ・メリファーって家庭的な妹まで居ると来ましたよ。

 あぁ、もうね、布陣整ってる。

 誰がどう見ても主人公です、本当にありがとうございましたぁやっほぉぉぉぉい!


「ねぇ。お兄ちゃん、なんか今日変だよ」

「あァ?」(変って?)

「だって、気味悪いくらい自分のこと聞いているし。どうしたの。三日続きの高熱で記憶も全部吹き飛んじゃった?」

「知らねぇ」(さ、さぁ。なんのことかさっぱり)

「あっそ。いいけどさ」


 やっべ、と内心で冷や汗を垂らす。

 ちょっと調子に乗ってあれこれ聞きすぎたせいで、サラにいぶかしまれてるらしい。

 そりゃそうだよな。むしろ兄貴の癖に誰だテメェなんていう奴に、よく答えてくれたよ。出来た妹である。メシも上手いし。

 でも、訝しみたいのは俺の方でもあった。

 もっともサラにではなく、俺自身の疑問点だけど。


「んでこんな口悪ィんだか」(なんでこんなに口悪いんだよ)

「は? あたしが?」

「俺に決まってんだろうがよ」(いや俺だよ俺)

「⋯⋯はぁ。お兄ちゃんの口の悪さなんて、今に始まったことじゃないじゃん。変なの」


 そう、これだ。

 さっきから喋ろうとしてる内容が一致しない。

 というか、滅茶苦茶乱暴な言葉遣いに変換されてしまうのは何故だよ。正直困んだけど。

 サラいわく、俺は元から口が悪いらしい。

 でも時々ニュアンスまで違う内容にまでなってるのが質が悪い。下手すりゃ誤解招くぞこれ。


(主人公にゃなれたみたいだけど⋯⋯思わぬ障害があったなぁ) 


 思った事を素直に伝えられないから、結構会話が大変。今後苦労しそうなのは間違いない。まだ湯気が残ってるシチューの残りを飲み干しながら、俺はそっと溜息をついた。


「というかお兄ちゃん、そんなにゆっくりしてて良いの? ルズレー様とショーク、そろそろ迎えに来るよ?」

「迎えにだァ? つか、誰だソイツら」(迎えにって⋯⋯それに、誰だろその人達)

「え、冗談でしょ? 二人は昔からの付き合いなのに?」

「はん、腐れ縁ってとこか」(幼馴染ってとこか)

「⋯⋯そう思うなら勝手だけど、口にしないでよ。特にルズレー様の前では⋯⋯っと。玄関ツツキの音だ。噂をすればだね」

「?」


 なんで様付け。あと玄関ツツキってなに。

 疑問を明らかにする間もなく、サラに玄関の方へと急かされる。


 しかし、幼馴染か。幼馴染と来ましたか。

 完璧じゃないか。主人公に幼馴染は付き物だ。

 ラブコメなら美少女幼馴染は鉄板だ。

 王道バトル漫画でも、美少女ないしは理解者的立ち位置のイケメンと相場が決まってるし。 

 期待に胸を弾ませて、コココンコココンと啄木鳥きつつきに突かれてるような音が響く方へ行けば、向こう側から扉が開いた。


「遅いぞヒイロ。嘴ノックが五度目を過ぎたから、つい開けてしまったじゃないか」

「ルズレー様。開けたのは俺っすけど」

「ショーク。貴族は手ずから戸を開けるものじゃない。これは平民の仕事だろう」

「へいへいっす」


 開くや否や、不機嫌そうな第一声。

 豪奢なマントを身に包んだマッシュルームヘッドの金髪男と、とんがり鼻で小柄な緑の短髪男。

 妹とは打って変わって、扉の向こうの二人組の第一印象はというと。

 なんていうか、こう。明らかに、見るからに⋯⋯


「⋯⋯悪人面な奴だ」(性格悪そう)

「「お前が言うなっ!」」


 外見だけならもう見事に悪役だった。

 しかも端役。なんという華の無さ。俺も含めて。

 幼馴染にしちゃ珍しい塩梅すぎないかこれ。ま、まぁ、中身はイケメンなパターンかもしれないし。別に美少女じゃないのを残念がってるとかじゃないから。うん。ほんとだよ。


「って、おい、なに突っ立っているんだ。というかお前、荷物すら持ってないじゃないか。さっさと準備して来い、僕を待たせるな」

「あ? 何の準備だよ?」

「⋯⋯寝惚けているのか。だらしがないぞ、これだから平民は」


 平民って。こいつも口悪いのか。尖ったキャスティングだな。

 正直少しイメージとの落差があって、若干落ち込む。

 けども、そんなルズレーから飛び出た一言に、俺の失意は一気に回復した。



「騎士養成学園『ヴァルキリー』に行く準備に決まってるだろ」



 騎士、養成学園、だと⋯⋯?


 んー。はい。はいこれロイヤルストレートフラッシュです。王道パターン入りました。

 拝啓女神様へ。ありがとう。次死んだら貴方に仕えますね。





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