第40話 素晴らしーのでーす☆


「素晴らしーのでーす☆」


 ヴィオが簡単の声を上げる。

 なにやら数値やグラフが表示されているディスプレイを見ていた。


「皆の心が一つになりまーした!」


 と両手を握り合わせ、喜んでいるようだ。

 同調シンクロ率でも表示されているのだろうか?


「これは奇跡でーす☆」


 満面の笑みを浮かべる。一方で生徒たちは、お互いに困惑していた。

 どう反応すべきか、分からなかったのだろう。


 お互いに様子を観察し――空気を読んでから発言しよう――と沈黙する中、


「そ、そうだな……流石さすがはオレたちだ」

「そうだ、そうだ――これはハゲの起こした奇跡……」

「わたしたちなら、できるって信じていたわ!」

「まあ、わたしは分かっていました。当然の結果です!」


 次々に声が聞こえてくる。


(こいつら、忖度そんたくしやがった……)


 実際に姿が見えていたのなら、俺から目をらしたはずだ。


(本当は『これじゃない』と思っているクセに……)


 しかし、再び次元展開リアライズしている時間も精神力エネルギーも、もうないだろう。

 この『猫耳ハゲ巨人』を動かすだけでも、精神力エネルギーを消費している。


「急いで、海へ向かわないと……」


 『漆黒の球体スフィア』同様、『アポカリプス』はこちらの物理法則を無視する。

 誰かが故意こいに植え付けた敵意により、真っ直ぐに日本へ向かうはずだ。


 日本で〈時空震〉を発生させ、データ化するための『攻撃だ』と考えた方がいいだろう。字は違うが、まさに『次元じげん爆弾ばくだん』である。


 同じ高位の次元に存在する猫耳ハゲ巨人でなければ、対抗できない。


「なら、オレに任せろ!」


 と〈風〉の四天王『風間かざま』が言う。そして、


「お前は切り札だ。今は温存しておけ」


 と俺を心配する。確かに、猫耳ハゲ巨人の姿になってから、疲労のようなモノを感じていた。肉体が存在しないのに不思議な感覚だ。


 やはり、強大な精神力エネルギーを扱うには、それだけ強い自我が必要らしい。

 れていない所為せいもあるのだろう。


 だが、それを差し引いても『発動の鍵』となっている俺の負担は大きいようだ。


「すみません、お願いします」


 と素直に言って、俺は操縦を代わってもらう。


「ふっ、任されたぜ……」


 風間がそう言うと同時に、猫耳ハゲ巨人を中心に風が巻き起こった。

 そして、猫耳ハゲ巨人は宙へと浮かび上がる。


 風の力が原因とは思えない。周囲を取り巻く風は、ただの演出のようだ。

 しかし、それでも巨体が浮き上がっている。


(これが『想像力イマジネーション』だろうか?)


 どうやら、操縦者が変わるだけで猫耳ハゲ巨人の性能は大きく変化するらしい。


『ニャア!』


 猫耳ハゲ巨人は一声鳴くと、一瞬にして遥か上空へと飛翔する。

 成層圏だろうか? 辺りは暗く、星が輝き、景色はまるで夜のようだ。


 そんな中、クラウチングスタートを決めると海を目指した。

 飛んでいる――というよりも、空を走っている。


『ウニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャ~!』


 黄金のボディが光り輝き、次第に速度が上がる。

 あっという間に、日本列島へ向け洋上を進む一隻の戦艦をとらえた。


 所属不明の戦艦――『アポカリプス』だ。

 周辺諸国か? 日本をねたむ大国の仕業だろうか?


 将又はたまた、日本による自作自演なのかは分からない。

 どちらにせよ、裏には大国がからんでいるはずだ。


 ヴィオの持つ科学力を確認するのが目的だろう。

 接近と同時に『アポカリプス』が赤く輝き始める。


 俺が目視したことで『認識』したからだろうか?

 それは強力な破壊の意思エネルギーを持っているようだ。


 放電するかのように、バチバチと赤い電撃のようなモノを周囲に発生させた。

 どうやら、向こうも次元展開リアライズする気らしい。


 こちらに対し、明確な敵意を感じる。

 俺以外の生徒たちも、それを感じ取ったのかもしれない。


 皆に緊張が伝わった。

 地上への衝突を避けるため、風間が減速する。


 ザッパーンッ!――と音を立て、着水する猫耳ハゲ巨人。

 そんな中、『アポカリプス』は船の形状を保つのを止めていた。


 青薔薇ブルームーンの時と同様に、赤い光の球体に包まれている。

 やはり、姿を変えるようだ。その一方で、


「悪い……誰か代わってくれ」


 と風間。精神力エネルギーをかなり消費したようだ。

 姿が半透明になり、消えかかっていた。


「海ということなら、オレしかいないだろう!」


 と〈水〉の四天王『水島みずしま』。なぜか服を脱ぎ、上半身裸で水中眼鏡をかける。

 そして、ピクピクと胸の筋肉を動かす。その姿を見て安心したのか、


わりぃ……少し休むぜ……」


 と風間が返す。そのまま、うつ伏せの状態になった。

 気を失ったワケではないが、無理をしていたようだ。


 動かなくなってしまった。

 それにしても『空を走る』など、俺にはない発想だ。


 いったい陸上部とは、普段どんな練習トレーニングを行っているのだろうか?

 俺の思考がれる中、


「任せておけ!」


 と水島。操縦の権限が移ったため、飛行能力が失われたのだろう。

 先程までの重力や空気抵抗を無視するような感覚が消失する。


「安心するでーす☆ 今の遣り取りで『腐女子オトメパワー』が集まり……」


 妄想力エネルギーが回復しまーした!――とヴィオ。


(その報告は要らない……)


 瞬間的に猫耳ハゲ巨人の『三角筋』『僧帽筋』『大胸筋』が膨れ上がる。

 そして、他の筋肉が呼応する。『上腕三頭筋』『広背筋』『大円筋』が膨張した。


「ナイスバルク!」「キレてる! キレてるよ!」

「仕上がってるね!」「はい、ズドーン!」


 そんな声が聞こえた気がする。

 これが『筋肉愛オトメパワー』のようだ。


「これなら、水中の敵とも戦える」


 とは水島。下半身よりも上半身を強化した筋肉。

 バランスは悪そうだが、これが理想形らしい。


 同時に彼は周囲を見回す。だが、そこに『アポカリプス』の姿はなかった。

 いや、相手はすで次元展開リアライズを終えたようだ。


 真っ赤に光る巨大な魚影を水中に確認する。

 『アポカリプス』は環境に適応したようだ。


 近くに生息していた生物の形を真似まねたらしい。

 しかし水島は、この状況を読んでいたようだ。


 動じる様子はない。それどころか、生き生きとしている。

 いったい水中の魚と、どう戦うつもりなのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る