気が付くと俺は居酒屋の隣にあるファミレスに居た。酔いつぶれた俺を田中がここまで運んでくれたんだろうか?


 しかしテーブルを挟んだ向かいの席に居たのは知らない女子高生だった。でも見覚えのある制服……俺の通っていた高校の制服を着た女の子。


 あれ?俺は高校生に戻ったのか?タイム・スリップ……あの振り子の五十円玉は催眠術ではなく、それを見た者を過去に飛ばすタイム・マシンだったのだろうか。


「そんなことあるわけないでしょ、おじさん」


 女の子は少しあきれた顔をした。俺はSF小説のような世界にいるのかと思ったが、どうやらここは現実世界のようだ。


「マインド・コントロールが必要なヤツがいるからって、田中に呼ばれたのよ」


 すでに怪しい状況なのに、ますます怪しくなってきた。


「ええと……君は?田中はどこに行ったんだ?」


 田中の知り合いであろう女の子は、俺の質問には答えずに続けた。


「さて、ここに……」


 そう言うと女の子は鞄の中から何かを取り出そうとした。今度こそ運気の上がる壺でも出てくるのか?買わないぞ。


「壺?なにそれ?……ここに渦巻き模様のメガネがあります」


 女の子はレンズの部分が白地に黒の渦巻き模様になっているメガネを取り出した。 


 なんだこれは?俺が知らないだけで最近の女子高生の間で流行っているのか?迂闊うかつに聞いておっさん扱いされるのはしゃくにさわるし……世の中に興味を持たないと、このままでは知らないことばかり増えて取り残されてしまう。


 女の子はメガネをかけると顔をゆっくりぐるぐると回し始めた。


「さあ、私の目を見て」


 俺は目の位置、つまり渦巻きを眺めた。


「おじさんはだんだん高校生の頃に戻る、だぁんだんあの頃の情熱が戻ってくるぅ~」


 さすが田中の知り合いだ。この子も悪ふざけが好きなんだろう。


 俺はその悪ふざけにつき合うことにして渦巻きをじっと見た。ぐるぐるぐるぐる。まだ酒が残っているせいか、すぐに頭がフラフラとしてそのまま机に突っ伏して、再び寝てしまった。



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