チート的金儲け その1

その1-1 脱サラしたい山下さん

 準備、準備っと……。


「って言っても、何をすれば良いんだ?」


 学校の帰り道、明後日の山下さんとの約束について考えながら歩く。


 俺はゲームについては知っていても、所詮ただの一人のユーザー。

 ゲーム製作関連はもちろん素人だ。


 それなら本を漁るか。

 一人でゲームを作るまでは出来なくても、とりあえずノーズに学習させよう。


 俺は近所の本屋に寄った。





「ふむふむ」


 なるほどねー。

 こうやってキャラクターって動くのか。


 キャラクターが走っている時の胸の揺れなんかも、精工に作ってるんだろうなあ。


≪すぐそういうことを≫


 うるせっ、思春期男子なめんな。


≪中身はすでに成人でしょう≫


 男はいつまでもロマンを求めるものなんだよ。


≪……はぁ≫


「こほん」


 くだらない話はここまでにして、プログラミングってむずいんだな。

 専門用語やら横文字やらがいっぱい出て来て、なんのこっちゃって感じだ。


 学習できた?


≪今まで読み終えたところは完璧です≫


 さっすが!


 俺も疲れたし、暗くなりすぎる前に帰るとするか。

 明日、またちゃんと色々漁って購入するとしよう。


 そうして、本屋を後にする。


「ていうかさ」


≪はい≫


 ふと気になったことを、何の気なしに聞いてみる。


 何でノーズお前って学習が必要なわけ?


≪と、言いますと?≫


 だって「世界の頭脳」なんだろ?

 そりゃ中二病っぽい名前だなとは思うけどさ。


≪……≫


 あ、怒った?

 ごめんごめん。

 俺はかっこいいと思うよ、まじで!


 ともかく、そんなすごい存在なら最初から何でも知ってても良いんじゃないかなーって思うんだよね。


≪……≫


 あれ、回答無し?

 いつも甘々なノーズさん、今日は厳しめ?


≪そう作られたからです。私も、その名前も≫


 え、何だって?


≪なんでもありません≫


 こいつめ、脳内を邪魔ジャミングして何を喋ったか分からないようにしやがったな。


 まあ、いっか。

 それじゃ、明日もよろしく頼むぜ相棒。


≪はい、マスター


 一週間の疲れもあるので、今日はもう休もう。

 明日しっかり準備をして、日曜に臨むぞー。

 

≪……変わりませんね、本当に≫







「うわ、ちょっと緊張する~」


 日曜の朝。


 昨日連絡してもらった、ちょっとおしゃれそうなカフェを目の前にして、俺は若干おどおどしている。


 陰キャオタクだった前世を持つ俺でも、ネットを通じて誰かと会ったりすることはなかった。

 オフ会にも参加しようと思ったことはあったが、結局一歩が踏み出せず終いだった。


 でも大丈夫!

 今はイケメンで文武両道のスーパー石川龍虎なのだから!


「よし」


 山下さんはすでに到着しているとこの事だったので、覚悟を決めて中に入る。


「えっと……あ、あの人だ」


 DMダイレクトメッセージで伝えられた席に、自己紹介的に教えてもらった特徴と一致する人物がいる。

 メガネをかけた、いかにもサラリーマンの雰囲気がある二十五歳男性。


「ん?」


 俺がテーブル席の前に歩いて行くと、山下さんもこちらに気づいたよう。

 目が合ったので、俺の方から名乗る。


「あ、こんにちは。ドラゴンタイガーです」


 龍虎ドラゴンタイガー、名前そのままだが、これが俺のネット上の名前だ。

 かっこいい……とは思っていないからな!


「き、君が?」


「え、はい」


「そ、そう。随分とイケ……いや、なんでもない。今日はありがとうございます」


 座って、と手で促されるので俺も席に着いた。

 タイミングよくオーダーを聞きに来たお姉さんには、エスプレッソを頼んでおく。


「それで、早速なんだけど!」


「はい」


 山下さんは、若干こちらに身を乗り出してくる。

 勢いのある人だなー。


 何度かDMでやり取りする内に、「脱サラしたい」と心の声が送られてきたが、そういうことなのだろう。

 聞けば聞くほどに、労働環境は悪いみたいだった。


「何から……話そっか」


「はあ」


 「早速」からの繋がりが分からないのだけど、ちょっと必死な様子にくすっとなってしまう。


 決してバカにしているわけではないんだけど、


「まあ、焦る事もないですよ。今日はゆっくりと話しましょう」


「ず、随分と落ち着いているんですね……」


 張り切り過ぎた時の、前世の自分に見えてしまって共感した。

 言いたいことはいっぱいあるけど、何を話していいか分からないというか。

 

≪悪い人にも見えませんね≫


 同じく。

 予想通りというか、DMの雰囲気から伝わって来たまんまの人だった。


「では僕から」


 俺は、安心して準備してきた話をし始める。

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