その1-3 試合でも無双しちゃう?

 「「「龍虎く~ん!」」」


 俺の方が恥ずかしくなってしまうような声が聞こえるようだが、周りが注目しているので仕方がない。


 グラウンドはコート一面分しかないので、今試合をしている男子に自然と注目が向くのだ。


「とりゃっ!」


「「「きゃー!」」」


 俺が早くも二点目を上げると、黄色い歓声はより一層盛り上がる。


「ナイス! やるなあ!」


「そっちこそ、ナイスアシスト!」


 同じチームの太一とハイタッチを交わす。


「くっそ、なんだよあいつら」

「目立ちたがり屋がよ」


 相手チームの何名かが文句を言っている。


 そりゃそうだ、早々に3対0なんて試合をさせられて面白くないはだろう。

 それも女子がみんな見ている中で、あちらは完全にやられ役だ。


 一応、中学までのサッカー経験者が均等に分かれてチーム分けがされたが、その中でも太一はずば抜けて上手い。


 そんな太一と俺が同じチームなのは、ちょっと反則じみてるかな?


「太一は分かるけどよお、龍虎はお前まじでなにもんだ?」


 同じチームになった西川だ。


「なんていうか、たまたま動画でかっこいいプレー見ててさ」


「はあ? そんなんで出来たら苦労しねえよ!」


「あははっ! わりいわりい!」


 本当にその通りなんだけどなあ……。


≪まあ、ずるでしょうね≫


 はい、それには激しく同意します。


 今のところ、俺が2点で太一が1点だ。

 リードしていると言えばそうだけど、なんだか燃えないなあ。


『ピピー!』


 そんなことを考えていると、先生が笛を鳴らした。


『石川君、あっちのチームに入って!』


「え?」


 突然のチーム入れ替え。


『ごめんごめん、石川君が未経験者だって聞いてたからさ。ここまで上手だとは思わなくて』


「は、はあ」


 近づいてきた体育の先生が、謝りながら話しかけてくる。


『ということで、よろしく!』


「ええ……」


 よろしく、じゃないんだけどな。

 まあ、いいか。


「おい、太一」


「なんだよ」


 俺は振り返って、今度はこちらから宣戦布告をした。


「俺たちはこっから勝つぜ」


「面白え! 俺は0対0の気持ちでやるから、かかってこいよ!」


「おう!」


 そして、試合が再開される。

 体育のルールなので、残り時間は多くない。


「よし、みんな行こうぜ」


「「「……」」」


 あ……。

 今まで散々ボコボコにしてきた相手が、急に自分たちのチームに来たんだ、みんなもすぐには応じてくれな──


「よっしゃあ、やったろうぜ!」

「松原太一がなんだよ!」

「こっちには石川君がいるからな!」


「……へ?」


 どうやらさっきの沈黙は、歓喜の前に静けさだったらしい。


「はははっ!」


 なんだよ、男子高校生ってみんなこんな感じなのか?

 前世の俺は、こんな単純な奴らとも仲良くなれなかったのか。


 どんだけ偏屈になっていたんだよ、本当に。


 ノーズ。


≪はい、マスター


 全力。


≪了解しました≫





「あと一分だ! ここを止めれば引き分けだ!」


 最終盤、スコアは5対5。

 これを決めれば勝ちだ。


「やばい、龍虎だ! 止めろ!」


 ここまで5点全てを決めている俺に、当然複数人でボールを奪おうとしてくる。

 それじゃ止められない!


≪メッシ(世界最高峰の選手)です≫


「なにいい!」


 自分でもよく分からなかったが、ノーズに体を譲渡した瞬間にとんでもない動きをした。


 くるりと体を一回転、フェイントを二つ入れて目の前の三人をかわした。


「俺が止める!」


「太一……!」


 そしてキーパー前、最後の関門は太一だ。


 でも、甘かったな!


 そこはもう、


「シュート範囲だぜ!」


「うそだろ!」


 かなり遠いエリア、20mはあろうかというところから思いっきりボールを蹴る。

 コントロールは任せたぞ、相棒!


≪外すことはありません≫


 ボールを浮き上がりながら真っ直ぐに伸びていき……ゴール!


 ピッピー! 

 そして同時に試合終了のホイッスルが鳴った。


「「「うおおおっ!」」」


 味方チームが駆け寄ってくる。


「まじかよ、なんだ今の!」

「ありえねえって!」

「なあ、サッカー部入れよ!」


 俺の周りはわいわい集まり、いつの間にか胴上げが始まった。

 

 たかが体育で大袈裟な……いや、そのたかが体育でこれだけ盛り上がれるから、男子高校生って楽しいんだろうなあ。


「いやー、まじかよ龍虎。最後のシュートは恐れ入ったぜ」


 太一がこちらに寄ってきた。


「たまたまだよ」


「ばーか、たまたまで出来るかよ」


「「はははっ!」」


 一応、クラスの『スポーツが上手い人』にはなれた……かな?







 そうして一日が過ぎ、終礼がちょうど今終わった。

 生徒たちも徐々に席を立ち始める。


 今日も楽しかった~。

 さてと、帰るか。


 仮入部は……うーん、だるい! 明日!


 そうだ、今日も遥ちゃんと一緒にどこか寄ろうかな。

 俺は前の席の遥ちゃんに声を掛ける。


「遥ちゃ──」


 がたっ!


「え」


 話しかけようとしたところ、遥ちゃんが急に立ち上がって、こちらをちらっと見た。


「ごめん。また今度に……」


 かばんで顔の下部分を隠しながら、ぼそぼそっと呟いた後、遥ちゃんはぴゅーっと出て行ってしまった。


「な、なんだったんだ……」


 なんか、フラれた気分。


 しくしくしながら俺は一人で家に帰った。

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