その1-2 これって恋なのかな。分からないよ(遥視点)

 「はあ……」


 またやっちゃった。

 こそっと隠れて、今喋ってた龍虎くんをちらっと陰から覗く。


「はあ……」


「はーるか!」


「ひゃっ!」


 ため息をついていた時に、後ろから突然を声を掛けられる。

 すっごく高い声を出してしまった。


「も~、あや! びっくりするでしょ!」


 私にそんなことをするのは、あやしかいない。


「ごめんごめん。てか今の声、可愛かったな~。もう一回言って?」


「やだ」


 こっちだって恥ずかしかったんだから。

 周りにも見られたし。


「で~? どうしたの? なんか元気なさげじゃん」


「そういうわけじゃ……」


 ちょっと見透かされた気分になって、さっとあやから顔をそむける。

 本当に鋭いんだから。


「ははーん」


「な、なに?」


 にや~としたあやの顔が、下から覗いて来る。


「当ててあげましょうか」


「なにをよ」


「ずばり、恋わずらいですな!」


「!」


 “恋”という単語に、顔がかーっと赤くなっていくのが分かった。

 やっぱり、そうなのかな?


「……」


「あれ、違った?」


 あやに、相談してみようかな。


「あ、あのねっ」







「じゃあね、遥ちゃん」


「う、うん!」


 龍虎くんとバイバイして、教室を出ていく。


 そんな顔しないで。

 私だって話したいけど、今はとても話せる状態じゃなくて……。


 それに、


「行きますかー、遥」


「うん……!」


 今日はあやとの会議なんだ。





 近くのファミレス。


 何日か前、龍虎くんと来たところとは違う場所。

 違う場所にしたのは……なんとなくっ!


「では、お聞かせ願いましょうか、お嬢ちゃん」


「な、なに、その話し方」


「雰囲気出るでしょう?」


「そうかなあ」


 占い師みたいな話し方になったあやに、今の状況を相談してみる。


「なるほどねー、うまく話せないか」


「そうなの。話したいのは……山々なんだけど」


「体育もすごかったもんねー」


「!」


 頬にちょっと熱を感じる。


「あれぐらいからでしょ、遥が話せなくなったの」


「……知ってたの?」


「あたしは、遥のことはぜーんぶお見通しだからね」


「もう」


 あやって、やっぱり鋭い。

 本当にぜんぶお見通しなんじゃないのかな、って思う。


「あと、それだけじゃないでしょ」


「! う、うん……」


「自分の言葉で言ってごらん」


「えっと……」


 本当にお見通しみたい。

 私も、自分で整理しながら言葉にしてみる。


「多分、話せないのって緊張しちゃってるからだと思うの」


「うんうん」


「理由を考えたら……なんとなく、分かるんだけど」


「そうだね。恋だね」


「も、もうっ!」


「ごめんごめん」


 あやのあまりの直球ぶりに動揺するけど、私も今の気持ちを言葉にして続ける。


「でも……分からなくって」


「ん?」


 ここで初めて、あやが不思議な顔をした。


「分からないって、どういうこと? 遥」


「えと、なんていうか……」


「ゆっくりでいいよ」


「うん……」


 なんて言えば良いのかな、この気持ち。


「状況から見たら、恋なのかなって自分でも思うの。でも私、今まで好きになった人がいなくて、それで……」


「なるほどね~。あやは、これが果たして恋なのかが分からないと」


「うん。あと体育できゃーきゃー言ってる人達を見てると、私にはとても出来ないって思っちゃって」


「ふむふむ」


「だから、本当に本気で恋してるのかなって、自分でも分からなくなっちゃって」


「ほうほう」


 うーん、とあやは少し見上げて考えた後、また私を見た。


「そういえば、遥の恋らしい恋って聞かなかったよね~。めちゃくちゃモテたけど」


「え? めちゃくちゃモテた……って私が?」


「そりゃそうよ~。何人にも告られてたじゃん」


「でも、あの人たちは本気っぽく見えなかったって言うか……」


「いんや~、本気の人もいたよ? 遥にフラれた奴をどんだけ励ましたか。あ、これオフレコだった」


「そ、そう……」


 あの人たちも、本気で恋してたんだ。


「ごめんごめん、話がれちゃったね。とにかくあたしは、遥のそれは間違いなく恋だと思う」


 あやが話しかけてきたので、こちらに思考を向ける。


「……そう、かな。でも、体育の人達は?」


「あれはファンみたいなもんだから。大事なのは遥自身の気持ちだよ」


「私の気持ち……」


 多分、好きなんだろうとは思う。

 まだ迷っているけど、あやもそう言っているし。


 てことは、私も告白したり……しなきゃいけないのかな。

 そう考えると、なおさら顔が赤くなった気がする。


「けどね、焦らなくてもいいと思う」


「?」


 あやがふっと笑った顔で、私を見つめてきた。


「遥は、賢いけどたまに抜けてるからね~。どうせ今、私も告白しなきゃとかって思ったでしょ」


「ど、どうして分かったの……」


「遥は意外と単純だからね。可愛いところでもあるけど」


「もう、どういみ意味っ」


 あやが「まあまあ」と手で抑えて話を続ける。


「けどね、絶対に告白する必要はないよ。付き合いたいなら……行くしかない気もするけど。あっち、相当モテるだろうし」


「うん」


「でも、大切なのは遥の気持ち。遥の今の気持ちが“好き”だって分かったら、龍虎くんとはどうなりたいの?」


「どうなりたい……」


 私は……。







「お、おお、おはよう!」


「え。お、おはよう」


 最近、龍虎くんからしてくれるまで出来なかった朝の挨拶。

 今日は自分から頑張ってみた。


 ちょっとんじゃったけど。


 ちらっと見ると、ふふっ、やっぱり驚いた顔してる、龍虎くん。


 先に登校してたあやの方をち見ると、「ぐっしょぶ」と親指をこちらに向けてきた。


 あやに言われて、あれから家でも色々考えてみた。

 私は、龍虎くんとどうなりたいか。


 やっぱり、付き合うっていうのはまだ私にはピンとこなくて。

 でもこれが恋なんだって受け入れると、今の状況にすごくモヤモヤして。

 

 だから今は、とにかくもっと龍虎くんと話をしたい。

 また、普通に話をしたり、放課後にカフェに行ったりしてみたい。


 だから、私からも頑張って話しかけてみる。

 嫌われてしまわないようにね!


「龍虎くんっ!」


「!」


 龍虎くんはちょっと驚いた顔をして聞き返してくれた。


「どうしたの?」


 やっぱり、かっこいいな。

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