第42話 世界の軍備再編成1

 日本で行われた会議では、まずWD-WPCの問題が話し合われた。それは当然のことで、銃器を使えないということになると世界中の軍備を再構築する必要があるのだ。現状のところ、未だ発展途上にある電磁砲を除いて全ての火器及びミサイルに至るまで飛ばすのに酸化剤を混ぜた火薬を使っている。


 更には、弾に火薬を詰めた爆裂弾及びミサイルの弾頭もWD-WPCの前には無力であり、加えて炸薬が大容量のものはWD-WPCを照射することで爆発する可能性が高いと考えられている。


 現在、最も強力な兵器は核爆弾であるが、これにしても核分裂物質を小分けにして、火薬の爆発の力で小分けしたそれをくっ付けて連鎖反応を起こす臨界量以上の量にして爆発させる仕組みだ。つまり、WD-WPCがあれば、その効力範囲の核爆弾は無力化または勝手に爆発することになる。


つまり、世界の武器は事実上火薬の存在の上に成り立っており、その火薬を使った武器は全てWD-WPCによって発火させられ無力化されることになる。ただ、やや安心なのは、WD-WPCの効果が火薬の量が少ない小火器のレベルであれば、爆発をしないで比較的ゆっくり燃焼することである。


 そのために、WD-WPCを使われても火器を所持している兵が大けがをする可能性は低いと考えられている。さらに、効力範囲に限界があると考えられている。効力範囲は、距離が比較的近い場合には距離の2乗に比例して大きな電力が必要になるということが確かめられており、現状では1㎞までしか実験されていない。


 WD-WPCを無効にする方法はまだわかっておらず、今のところ効果を遮る方法はない。ただ、その効果を受けない方法は、すでに小火器については小型推進と水ジェットWPCが完成して、小銃については試作されている。


 これは、銃身に回転させながら推進力をかけるWPCと水タンクから送られる水を水蒸気爆発させるWPCによって、銃倉から送られた銃弾を秒速800m以上で吐き出す。銃身は口径15㎜が最小限界なので、小火器としては大口径になるため、銃弾の運動量は12.6㎜の重機関銃を上回るが反動は小銃並みである。


 だから、タングステンを使った硬質鋼を銃弾に使って、極めて銃弾が貫通力の強い銃になっている。この小銃は銃床に水タンクとバッテリーを備えており、銃倉は薬莢が無いためにむしろ細いものとなっている。このように、小口径の銃については、WPC方式は火薬式より簡便で威力のあるものになる。


 一方で、この方法で大口径の砲やミサイルは発射ができても、弾頭を爆発させる手段がないために威力が大幅に落ちることになる。そして、現状のところWD-WPCに関しては日本でしか製作できず、その日本が売ることを決めて、約束しているのは米・英のみである。それに加えて、空間転移の技術をどう扱うかの問題がある。


「うーん。解りました。つまり、WD-WPCを使えば、少なくとも1㎞以内の火器の火薬を発火させることができるということですね。1㎞以上離れた場所から発射された場合においても、飛んでくる砲弾やミサイルの炸薬を発火させることはできる。ただ、質量弾としてのそれは飛んでくることになる。


 その意味では、射程が1㎞を超える重機関銃などはなかなか強力な武器ですが、供給する電力さえ強くすれば数㎞を効果範囲にして無力化できる可能性は高いということですね。さらに、WPC方式の小銃は既にプロトタイプの試射はしており、重機関銃以上の威力があることが確かめられている。大砲とミサイルについては、それで発射はできるが質量弾としての機能しか期待できない。


 さらに、WD-WPCの製作ノウハウは日本にしかなく、そう簡単に真似ができる技術ではないということは重要ですな。加えて、日本のWPC製造㈱は火薬の検知警報のWPCを世界に売りだすということですな。

 そして、それはわがUSにとっては極めて有用なものであるが、懸念はそのWPCからWD-WPC制作への手がかりにならないかということだが、いかがなものかな?」


 米軍のペンタゴンから来たマクガン少将が言うのに、防衛省の出席者から答えを促された僕が答えた。

「マクガン少将のWD-WPCに関しての総括はその通りです。そして最後の、火薬検知のWPCをベースにそれを発火させるWPCを開発することは、開発の困難度は、まあ検知が全体の70%で発火は残りという感じです。でも、回路学を深く学んだ者であれば1年もあれば回路は開発するでしょう。


 活性化は発電のWPC並みの難度ですから、それなりに出来る人はいますよ。WPCの場合は、高度な工作精度等は要求されませんので、そういうものが出来ると分かれば開発されるのは時間の問題だと思います。それに、僕は火薬が戦争に使えないようになるのは悪いことではないと思います。

 まあ、人間は昔から争っていて、剣に槍と弓の時代から互いに殺し合ってきましたが、火薬の出現以来、その犠牲者が圧倒的に増えたのは明らかです。白人によるアフリカ、アジア、アメリカ新大陸の侵略や虐殺、奴隷化はまさに銃と大砲があればこそです」


 僕の言い分に白人のみのイギリス、2人以外は白人のアメリカ共に苦笑いをしているが、その中から英軍のマイン少佐が反論する。

「オサムの言うことは間違っていないが、今ある条件の下でのこれからのことほうがずっと大事だ。少なくとも言えることは、日本の計画しているように、火薬検知のWPCはテロ防止に非常に有用なので即座に広めるべきだと思う。

 WD-WPCについては、いずれは広まるとしても、今現在は我々のみが使えるという点は非常に大きなアドバンテージだ。オサムは比較的簡単に開発できるようなことを言っていたが、調べた限りでは、それはオサム自身が絡んだ案件のみの話である。


 その証拠に、わが国でも大勢の者が回路学を学んでいるものの、細かい改善はできても実用になるような新規性のあるWPCはほとんど開発出来ていないし、それはアメリカ他の先進国も同じことだ。だから、私は火薬検知のWPCからWD-WPCへの開発は1年や2年では無理だと考えている。

 従って、我々は秘密を漏れないように十分な対策をすれば、今後数年はWD-WPC独占をすることが出来る可能性が高い。だから、我々はその時間を十分に生かすべきだと思う」


「そうだな。火薬検知のWPCは公共部門と民間に任せるとして、我々はまず十分な数のWD-WPCを実戦配備すべきだろう。そうすることで、我々は自分の火器は使えて、敵は使えないという絶対的に有利な位置に立つことができる。

 ただ、効力範囲から飛ばされる火砲とミサイルに対しては実際のところはどうなんだろう。自衛隊でその実験をやったと聞いているので、その報告をお願いしたいが?」


 米軍のピターソン中佐が聞くのに自衛隊装備局の南2佐が答える。

「はい、まず砲弾など火薬量が多い場合には、発火の規模が大きくなります。火砲の飛んでくる弾の場合には弾頭の火薬のみが発火の対象になりますので、WPCの効果が発生すると爆発が起きます。ですが、燃焼がやや遅いために、通常の着弾時の爆発より威力は小さくなります。

 しかし、標準の300mの効力範囲だと発火によって弾道が逸れますが、的の近傍に着弾しますので、無害という訳にはいきません。1㎞の効力範囲だと、着弾位置が大きく逸れて燃焼も終了しています。また、燃焼が遅いために弾ははじけますがばらばらになることはないので破片による被害はありません。


 火砲は、だから1㎞の効力範囲でのWPCによる照射の場合には、相当被害を抑えることは可能ということです。また的が被覆されている戦車だったら被害は無いに等しくなると思いますが、歩兵部隊だったらそれなりに被害は生じるでしょう。

 ミサイルの場合は、1㎞の効力範囲を前提に話をしますが、この場合、推進薬と炸薬両方が発火するためか、大きく的を逸れます。ただ、ミサイルが砲弾に比べ脆い構造であるためと思いますが、ばらばらに分解しますので破片による効果はそれなりにあります。


 だから、どちらも歩兵部隊に対して相当危険ですが戦車など掩体に入っている兵にはほとんど被害はないということです。まとめると、火砲については、大部分の被害は抑えられますが、被害を完全に防止するこは無理です。ミサイルは火砲よりさらに被害は減じますから、比較的高価であることを考えれば費用対効果は非常に低くなります」


「なるほど、いずれにせよWPCの効力範囲外から飛来する、火砲の弾とミサイルにも相当な効果があるわけですね。今の話を聞いていると、WPCで守られた艦船はほとんど被害を受けないでしょう。装甲の薄い近代軍艦でも、150㎜以下の火砲の弾が当たっても爆発しなければ、大きな被害は無いと思います。


 まして、ミサイルはばらばらになるならもっと被害は小さいでしょう。また的が小さくて動きの速い戦闘機などの軍用機はWD-WPCで守っていれば、ほとんど被害を受ける可能性は無いと思います。

 一方で、艦船の有力な攻撃手段であるミサイルと火砲ですが、敵もWD-WPCを備えれば質量弾としての働きしかしないので、余り意味をなさなくなりますね。もっとも敵にこのWPCがなければ、わが方は殆ど無敵です」


 英軍のマイン少佐が言うと、マクガン少将が腕を組んで考えながら言う。

「その意味では陸のみならず海と空では、WD-WPCが常識になれば戦いの様相は大いに変わってくる。このWPCの機能はすでに世界的に明らかになった。無論ここで話されたような内容は知られていないが、論理的に考えれば推察は可能だ。そして、その結果はこのWPCを持つものが圧倒的に有利になるということだ。

 また、今のところWD-WPCはまだ数が揃っていないと考えるだろう」


「なるほど、数が揃わないうちに決着を付けようと?」

 自衛隊の出席者の最も高官である、幕僚本部から来ている山名海将が言うのに、マクガン少将が応じる。


「そうです。お隣の大国ですよ。日本の場合には当面問題になるのは、海と空です。今話があったように、とりわけ陸・空両方において、日本が十分な数のWPCを装備すれば、彼らの攻撃戦力は完全に陳腐化する一方でこちらは、リスクなしに攻撃できます。こう状況を彼らが黙って耐えるとは思えません」

 それに対して、山名海将はにこりと笑って説明を始める。


「実のところ、その懸念は我々も持っていました。なにしろ、お隣さんは全方位的に喧嘩を売っていますからね。実のところありうるシナリオとして、核で脅して技術を渡すように迫られるという線も考えています。なにしろ、核についてはWPCの射程1㎞程度では大被害が生じますから、ほとんど効果がありません。

 そこで、対抗手段として効くのが空間転移です。まあ、後で議論するということで、今のところ話にはでていませんが、空間転移にこのWPCの組み合わせは十分抑止力になると思いませんか?」


 山名の話に米英の将校は一様に顔を顰める。先の説明にあったように、WD-WPCは火薬によって核分裂反応を起こす核爆弾にも有効なのだ。その場合にはウラニウムなどの核分裂物質に仕掛けた爆薬は、設計したようにまともに爆発しない可能性が高いので、核爆発は起きない可能性が大きい。


 しかし、ミサイルにすでに装着されている場合には、多くの場合にはミサイルには固体燃料を使っているので、燃料が燃えてその熱で溶けた弾頭は臨界量を超えるだろう。だから、ミサイル発射基地で核爆発を起こすことになる。核を持っている米英にとって、そのようなことができる存在というのは悪夢のようなものである。


「し、しかし、WPCを使うと多分核爆発を起こすので、そこに行くというのは自殺行為になるのでは?」


 少し焦ってピターソン中佐が言うが、これには僕がにこやかに答える。

「いや、タイマー式にしておけばいいんですよ。でも、大丈夫ですよ、お国の核爆弾には使いませんから。なにせ同盟国ですから、深刻に対立することはないでしょうよ」


「あ、ああ。そうだね。そんなわけはないな。そうすると、お隣はどうしようもないわけですか?」

 マクガン少将が再度言うのに山名海将は応じる。


「いえ。通常戦力で、例えば沖縄付近の離島などに侵略してくる可能性はあります。我が自衛隊がWD-WPCを配備すると敵いませんから、今の内にということですね。でも、先ほど言ったように、そういう可能性を考えた以上、我々がそのWPCを配備しないわけはないでしょう?」


「なるほど、どの程度の数を既に持っていますか?」

 マイン少佐の質問に山名が答える。


「はい、オサム君に無理を言って300台ほど作って貰っています」

「我々には、どの程度供給されるのでしょうか?」


 ピターソン中佐の質問に僕が答えた。

「最優先でやれば、回路を描いた素材は量産体制ができているので、月に千台くらいの生産は可能です」


「なるほど、自衛隊は当面必要なものは確保されているようだから、出来るだけ我々に供給をお願いしたいですな。それと、先ほど話の出た空間転移のことですが……」 

 マクガン少将が言うのに、僕が応じる。

「ええ、お解りでしょうが、これは僕しかできませんし、そのためのWPCは相当難しそうです。僕も先日ようやく可能になったばかりです。

 たまたま、M国の件があったのでカミングアウトしましたが、まだ秘密にした方が良かったという後悔はあります。今後使うとしても、今回のような件のみで、出来るだけ使いたくはありませんね」


「でも、もしお隣が核で脅してきたら?」

「ええ、その場合は使って、あの国の核を無効化します。爆発するだろうけど、仕方がないよね。何十万何百万の人命に関わるようなことを、脅しで使うような国の核は放置できません」

 僕がはったりだけどキッパリ言うと、部屋にいる人々の顔色は悪くなる。


「し、しかし、我々も彼らのミサイル基地の12か所は掴んでいるが、まだ調べ切れていないものもある。その場合には報復にミサイルが飛んでくる可能性もある。現状のところそれを迎撃する手段はないだろう?


 それに、彼らの核ミルの威力は、10メガトンと言われている。何しろかの国の製品なので、実際に機能するかどうかは解らないが、君が基地でWD-WPCを使えば核爆発は起きるだろう。基地は人口密集地ではないが、人家は周辺にそれなりにある。


 そこに10メガトンの爆発、それも基地によっては複数の爆発が起きたときは、凄まじい被害になるだろう。だから、彼らはそのような被害が生じる可能性があると認識すれば、実際に使うことはあり得ない。所詮、核ミサイルは威力はありすぎて使えない兵器なんだ」


 ピターソン中佐が懸命に言うのに、マクガン少将も続く。

「我が国からも核についてはきっちり歯止めをするので、発射基地に手を付けるのはやめた方がいい。日本に対する攻撃は、明確に日米安保条約の範囲だから我が国は当然中国に最大限の警告をするよ」


「まあ、そう言うなら、やめておきますかね」

 しぶしぶ意見を引っ込めたが、すっかり危ない奴というレッテルを張られたようだ。まあその方が使い倒されなくてよい。


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