勇者召喚に失敗された私は神々の愛し子になりました

真那月 凜

プロローグ

はじまりは突然だった

学校帰りのバスの中、少し離れた席に座るクラスメイト3人の私に対する悪口を適当に聞き流しながら見慣れた景色を眺めてた

親の権力を笠に着てやりたい放題の3人に苦しめられてる人は多い

相手の泣き顔と、辛そうな顔が何よりも大好きな3人に構ってあげる義理はない


停車したバス停から、近くの大学の男子生徒が2人乗って来て私の隣の席に座った

いつも顔を合わすせいか軽く会釈くらいはする関係

特に何があるわけでもないいつもの光景

の、はずだった


“ビリビリ…”

不自然な揺れと共に聞きなれない音が響いた

「?」

「何だ今の?」

戸惑う声を聞きながら不安が沸き上がる


“…ドンッ!!”

何かが爆発したかのような轟音と共にバスが倒れたまま滑り出した

「キャー!!」

「イヤ…何これ?」

「何が起こってる?」

「と…止まらない…!」

クラスメイトの悲鳴と大学生の戸惑う声、運転手の焦った声が入り乱れる中、バスは何度も壁らしき場所にぶつかっていた

その度に激しい衝撃を受け体がムチ打たれるような錯覚を覚える

“ドゴッ”

何かが潰れる音の直後息が詰まる

「くるし…」

その言葉を最後に私の意識は途切れた



***

「…めろ……れ…!」

「嫌だ…誰………」

「ギャーッ……」

どこからか聞こえてくる悲鳴や叫び声に意識が浮上する


「…え…?」

開いた目に飛び込んできたのは崩れ落ちた建物と沢山の目をそむけたくなるような死体だった

『四条河原町』

見慣れた言葉の看板が目に飛び込んで来た

「ここが?」

どう見ても違う場所にしか見えない

だって私の知ってる四条河原町はこんな瓦礫の町じゃない

沢山の人が訪れ行き交う町だ

そもそも私の知ってる世界はこんな暗くて恐ろしい場所じゃない


意識を失う前、私はバスに乗ってたはずだ

入学してからずっと敵意を持たれているクラスメイト3人と近くの大学の学生が2人乗ってた

なのに辺りをどれだけ見回しても運転手さん含め誰も見つからない

「…まさかあの遺体?」

そんなはずがないと自らの言葉を頭の中で打ち消した

だって明らかに虐殺された遺体だったから

あんな残酷な姿を私はこれまで目にしたことが無かった

沸き上がるのは恐怖と吐き気

どこにいるのか、何が起こってるのかさっぱりわからない


「ここにもいたぞ!」

「ひっ…」

背後から聞こえた怒声に振り向くと、返り血でまだら模様になった大きな男が立っていた

「若い女とはついてるな」

ニタリと笑った男から逃げなければと思うのに体が動かない

「可愛がってやるよ」

そう言いながら腕を掴まれる

「や…はな…て…」

震える声は言葉にならない

働かない思考の中で分かるのは、ただ逃げなきゃならないということだけ

「うっとうしいな」

「え?…ぁあああああああああっ!!」

突然両足に今まで味わった事の無い熱を感じた

焼けるような熱さに悲鳴を上げた直後私の視線は頭1つ分くらい低くなった

“ドチャ…”

嫌な音と激しい痛みに足元を見ると私の両足は脛から下が無くなっていた

私は再び意識を失った

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