王のエンブリオ ~王女と蟻と失われたロータスの実~

百舌すえひろ

第1話 創世

 布をく音が室内に響く。

一組の男女が立ったまま正面からにらみ合い、間合いを取っている。


 女は両手を後ろで縛られ、服は肩口からへその辺りまで豪快ごうかいに破かれた。

頭に頭巾ヒジャブ(髪を隠すための女性用の厚手のベール)をしているが、身体は胸部を隠す下着だけ。

胴まわりに縛られた縄により、破かれた布が腰に垂れ下がる。


 向かい合う男は女の頭一つ高い位置に顔がある。

男の青みがかった灰色髪アッシュグレイは肩まであり、後ろで荒くまとめられ、ところどころに白髪が目立つ。

浅黒い肌、日に焼けて赤みの強い顔。

全体的に脂ぎっている。

短めに整えられた口と顎の髭にも白髪が混じり、あごの下にはたるんだ肉が見える。


 男が薄汚れた頭巾ヒジャブを外そうと女の頭に手をかけると、股間をめがけて女の右脚が飛び出す。

男は脚の軌道きどうを予測したように、軽く後ろに下がると空振りさせた。

的を外しバランスを崩した女が、前のめりになると、後ろに回り込んだ男に腰をつかまれる。


 男は自身のたるんだ下腹したばらを押し付けるように、女を背後から抱えた。

身を寄せる男の体臭からはあぶらが酸化したような加齢臭かれいしゅうがし、口からアルコールのにおいもする。

女は顔をしかめた。


「そンなナリでよくやった方だ」


男はそう言って女の頭巾ヒジャブを取り去ると、豊かな黒髪が女の鎖骨さこつまで流れ落ちる。


 黒い髪に褐色かっしょくの肌。

身に付けていた粗末な服から、日が沈む大地マグリブ奴隷どれいと見てとれる。

緑の瞳が、反抗的に男を睨む。


 男はニタリと笑うと、残っていた下着に手をかけ、力任せに剥ぎ取った。

支えを失った乳房ちぶさが、はじかれるようにまろび出た。


「~~~っっ!」


女は叫ぶが、猿ぐつわで声が出せない。


 薄暗い洋燈ランプの明りに照らされた膨らみは、お椀型わんがたの優しい曲線を描く。

若い小麦色の肌が瑞々みずみずしい。

重たげに揺れる双丘そうきゅうに、男は思わず生唾なまつばを飲んだ。


「期待してなかったが、こいつぁ……」


男の灰色の瞳が、獲物を捕らえた猛獣のようにくらく光る。


 部屋の隅に寄せた寝台ベッドに女を荒々しく下ろすと、男も腰を下ろし、壁を背に胡坐あぐらをかいた。

脚の間に女の尻を埋めるように座らせ、背後から抱える。


 女のくやな顔を見ながら、ふるえる双丘を両手で持ち上げた。

ごつごつとふしくれだった手が、感触を確かめるように動く。

吸いつくように柔らかく、押し返すように弾ける肌。

肌理きめこまかさから、歳は二十はたち前後だろう。

男の手から少しはみ出す大きさと、重量感じゅうりょうかんが心地のよい。


手の平を広げて乳房をつかむと、指の間から柔肉やわにくがはみ出るように指がしずむ。


「~~っ! ~~!!」


女はあしをばたつかせ、声にならない叫びを上げる。

大きな瞳が、やめてくれと必死に訴えていた。


「検分だ。静かにしねぇか」


 両手で細腰ほそごしを掴み、女の尻の下で組んでいた胡坐あぐらくずす。

男が伸ばした右脚は、女の膝上に絡むように載せられた。

両足も抑えられた女は肩をいからせ、藻掻もがくように上体じょうたいじる。

彼女の抵抗は乳房をあられもなく揺らし、男の目と食指しょくしを動かすだけだった。


 弾かれたようにれるまるみに、男の指が再び食いつく。

指先は胸の先端をけ、周囲に円を描くようにゆっくり触れた。

刺激に粟立あわだつ小麦色の表皮ひょうひ

小麦色より濃い乳輪にゅうりんを何度もなぞる。

女は指の動きに耐えられず、もぞもぞと腰をくねらせ始める。

全身が小刻みに震え、形のいい乳房がぶるんと揺れた。

煽情的せんじょうてきな光景が男の欲望をそそる。


 頃合ころあいを見定めると、先端を指の腹でこする。

張りつめた小さな突起とっき起立きりつすると、指先でまみ軽くしごいた。

途端とたんに女の身体がびくんとねる。


「~~んっ! ~~~ぅ……っ」


 女が激しく首を振る。

男は乱れる黒髪の間から、赤く染まった耳たぶを探り当てると、甘噛あまがみした。

驚いた女が背筋を伸ばして身を硬くした。


「おとなしくしてれば、気持ちよくしてやる」


 男は耳をねっとり舐め、息を吹きかけた。

なおも低くうなる女に薄く笑うと、とがった乳首を指の間に挟む。

下乳を包むように持ち上げると、やわやわと揉みだした。


目の前の柔肉やわにくを力任せに揉みしだきたい、おすの欲求を高ぶらせながら。



 西暦AD二〇三二年、極東きょくとう軍事国家ぐんじこっか諸外国しょがいこく度重たびかさなる警告けいこくを無視した連続核実験れんぞくかくじっけんにより、白頭山ペクトゥサン大規模噴火だいきぼふんかが発生した。

それを皮切りに大陸の地殻変動ちかくへんどうが起こり、各地の活火山帯かっかざんたいが一斉に噴煙ふんえんを上げた。


 巻き上げられた大量の火山灰かざんばいは大気をおおくし、北半球を中心に各地の平均気温が四度下がる『小氷河期しょうひょうがき』に突入した。

急激な気候の変化と日射量不足にっしゃりょうぶそくにより、農作物の不作が相次ぎ、数年間にわたって世界規模の大飢饉だいききん見舞みまわれる。


 八十五億の人口に対し、圧倒的に不足する食糧供給しょくりょうきょうきゅう

世界経済は破綻し、生き残った人類はわずかな物資を奪い合い戦争が頻発ひんぱつする。

各国は無政府状態となり、国境線、国際法、国家の格差、人種による既得権益きとくけんえきすらも失われた。


これを『世界崩壊せかいほうかい』と呼ぶ。


 それから四百八十年後――創世期RAC四八〇年。

崩壊後ほうかいご創世そうせい(Rebirth After Collapse)』の頭文字を取ってRACと呼称された。


 わずかに残り繁殖はんしょくしていた人々は、崩壊前の西暦BC、ADの時代を『旧世界きゅうせかい』と呼んでいた。

崩壊直前には八十五億までいた世界人口が、四億人にまで激減。

ヨーロッパの人口は三千八百万人になっていた。

この数字は旧世界で『暗黒時代』と呼ばれた中世ヨーロッパと同規模どうきぼになる。


 人口の大規模減少だいきぼげんしょうにより、農業・工業は大量生産たいりょうせいさんを支える製造技術せいぞうぎじゅつ維持いじと、労働力の確保が困難になり衰退すいたいする。

旧世界で使用されていた高度な文明技術は、動力源どうりょくげんとなる石油・天然ガス・石炭などのエネルギー資源しげん枯渇こかつにより破棄された。


 大量の資源を精製せいせい送出そうしゅつする技術は失われ、整備されていた電気・ガス・水道・通信網つうしんもうなどのライフラインに関するインフラは消滅しょうめつ


各家庭の熱源ねつげんたきぎが主流になり、かまどかこむ時代に戻っていた。


 旧世界に交易こうえきで渡っていた外来種がいらいしゅ含む農作物や家畜などは、生命力の強いものだけが地域に根付き、各地の暴動ぼうどう集団窃盗しゅうだんせっとうによる治安の悪化は、人々の生活を恐怖でおおいつくしていた。



 目の前でちちを震わせ抵抗する女に、男の下半身が熱くなる。

服をいて実際に触ると、肌が指に吸いつくようになめらかだ。


――しっとりとしていい乳だ。胸の刺激だけでここまで反応するなら、感度も良好りょうこう

男は舌なめずりをした。


し物……か」


 男はのどの奥でくくっと笑うと、乳房を揉みしだく指に力を込め、硬くなった先端を爪ではじき始めた。

その刺激にびくんっと女の背中がり、重心じゅうしんを男に預ける形になる。

身体に受ける性的な刺激を必死に逃がそうと、女はうめきながら顔をのけぞらせ、のどさらす。


男はしばらくその状態で、女の反応を観察した。


 苦しそうに眉根まゆねを寄せ、小刻みに震えながら身を強張こわばらせているが、触れた素肌はどんどん熱くなっている。


 強引に女のあごを掴み、無理やり顔を向かせた。

女の顔は羞恥心しゅうちしんで真っ赤に染まり、恐怖でうるんだ瞳が男を睨みつけた。

その姿が男の嗜虐心しぎゃくしんあおる。


「……いい顔だ」


――軽く刺激して、またぐらの確認をしたら終わろうと思っていたが、もう少したのしみたい。


 女の身体を抱え込むと、向かい合わせになるように体勢を変える。

暴れる女の正面から乳房に吸い付いた。


「ンン~~ッ!!」


女は再びのどらせ、ふさがれた口元が小さく叫ぶ。


 男は女の腰を左腕で抱えると、逃げようとする乳房を口と右手で捕らえる。

ふくらんだ右の突端とったんくちびるしごくように吸い、もう片方の先端を指先で扱き続ける。

口の中の乳首は、男のざらつく舌で執拗しつようでられる。

女の上体はびくびく跳ね、鼻から漏れる息が激しくなっていく。


 吸い付くのを止め、女の身体から力が抜けると、乳房全体をゆっくりとねぶり、乳輪を唾液だえきまみれにした。

女の滑らかな肌がしっとりと湿り、細い首筋から鎖骨にかけ、小さな汗玉がぷつぷつと弾かれるように浮かぶ。


 もう片方の乳首を口に含むと、乳房の柔肌に鼻先が沈む。

女の汗と甘い体臭が男の鼻腔をくすぐる。

鼻の奥でき出しの脳細胞に女の媚香びこうが染みついて、男の頭の中がおかされていくようだった。


絶望と羞恥が入り混じった、女の抑圧よくあつされた叫びが心地よい。


「このまま……いや、価値を落としちまう」


乳房にしゃぶりつき揺すっているだけなのに、男の思考が鈍っていく。


男はこれ以上のことを、何人もの女としてきた。

ただ自分の商品に、最後まで手を出そうと思ったことはない。


男の手と口は乳房をもてあそぶのを止められず、仰向あおむけに押し倒した。


「んム~~っ! ……ンヤッ」


女の猿ぐつわがゆるんできたのか、くぐもった声がだんだん鮮明になり始めた。

口の端からこぼれる、乱れた吐息といき


「この女、奴隷船に乗ってたしなぁ」


 初物はつものであれば、これ以上の行為は価値を落としかねない。

しかし奴隷船であれば、必ず一人は船長の性処理係として航海の間中、慰み者にされるのが常だ。

この女がその役割を担わされたかは知らないが、そうであれば今更価値が落ちるなどと、思い巡らせるのは無駄なことだった。


「……ま、海賊船の船長にだって愉しみは必要だしな」


 部屋の外からは、浮かれた船員達の調子っぱずれな歌声が聞こえる。

酔った馬鹿が部屋の外壁を叩く音がした。


男は舌打ちして上体を起こすと、組み敷かれた女を見下ろす。


外の月明かりが窓から差し込み、剥き出しの半身を照らす。

必死に逡巡しゅんじゅんする男の目に、蠱惑的こわくてきな光景が焼き付く。


涙で濡れそぼった瞳、悔し気に寄せられる眉根。

汗をにじませた喉、男の唾液でつやめく乳首。

首を反らせて必死にもがく姿は、クモの巣にかかった蝶のように見えた。


男の動悸どうきが耳の奥で波打つように激しくなり、周りの騒音そうおんが遠ざかる。


 自身の唇を湿らすように舌を出すと、女の内股に手をかけた。

女は暴かれまいと、ももに力を入れて必死に抵抗する。

男の両手は女の内腿に張り付き、力任せにひざを割った。

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