業魔と死にたい女子高生

どらぱん

第1話 逃げる事からも逃げる

『ここから飛んだら、人生はもう終わり』


ビルの屋上、フェンスは無い。


『うん、ここからなら確実に死ねる』


私は自分で自分の人生を終わりにするため、古ビルの屋上に来ていた。

死にたいけど痛いのは嫌なので、確実に死ねる高さなのか確認に来たのだ。


『で、でもよく考えたら死ぬのは今じゃなくても良いかも…』


審査は合格。

ここからなら確実に死ねる。

それが分かった私は今、自分が恐怖していることを認めている。


『うん、死ねることが分かった。死ぬのはまた今度にしよう…』

情けない。私は死ぬこともできない。


しかし、帰る事を決めたら今度は明日からの日常が怖くなる。

生きるのも死ぬのも怖い。

人生は恐怖に支配されている。


立ち尽くして、ビルの屋上から街の夜景を眺める。

そこまで都会では無いけど、不便がない住みやすい街だと思う。

私の恐怖心などお構いなしに美しい夜景が広がっている。



「死ぬんですか?」

突然、男性の声がかかる。


わわっ、誰もいないと思っていたのでびっくりする。

お、落ちたらどうするんだ!


見ると暗闇の中で目だけが光っている。オバケ!?



「やめた方が良いですよ。意味ないから」



目を凝らすと白っぽい髪の毛の学ランを着た少年が立っている。

ヤンキー?誰もいないと思ったのに、不良の溜まり場なのかな?



『で、でも、私なんて生きていたって意味ないから…』

目が慣れてくると、少年が銀髪で肌が褐色なのが分かる。コスプレ?



少年は少し驚いた表情をしたようだ。

「あなた、?」


あ、これはコスプレだわ。痛い人だわ。帰ろう。

少年の脇を抜けて帰ろうとする。



「確かに今のあなたに生きる価値なんてない。美味しく育ってから死んでください」


変な事言い出した。 足が止まる。 無視すれば良いのになぜか言い返してしまう。


『あなたに私の何が分かるの?』


「僕には人間の『価値』が視えるのです」

そう言う設定か。なるほど。


「キミの人生はあまりにも価値がない」

だから、なんでそんなことが分かるの?




…………


『どうして…』それを知っているの?



「僕は死んだ人間の『価値』を食べて生きているのです。

 キミの人生はあまりにも『価値』がなさすぎる。食べても美味しくない」


『…人はみんな平等だって、等しく価値があるんだって…』


「それは人間のいう『価値』ですよね。

 僕に人間の都合は無意味です。善人でも悪人でもどうでも良い」

なんでそこまで言われなくちゃならないんだ?


腹が立ってくる。

でも何故、私が友達に裏切られた事をこの少年が知っているんだろう?

……きっと適当にカマをかけてみただけだ。


なんだか気味が悪い。

彼がまた何か言い出す前に、逃げるように出口へ向かった。

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