第25話

遺跡の守護者、それはデカいゴーレム。

鉱石の体を持ち、遺跡の入り口を守る使役された魔物。

作成方法は、上位魔物の魔核に使役者が術を施し作成される。

使役者が死んだとしても、永続的に従わせる術式を組み込めば、外部から魔力を取り込んで半永久機関として活動可能。

魔核が破壊されるか肉体となる鉱石が朽ちるまで、只管に守るべきものを守ろうとする悲しいものであると言える。

そのゴーレムが2体、ボイズ率いる冒険者たちと戦闘中である。

一体をボイズ・エリカとドルイドが、もう一体を残りの冒険者たちが相手していた。

騎士2人は、残りの非戦闘員を守るためにその体を盾として非戦闘員の前に並べていた。

がつんと大きな音がしてボイズの大戦斧が、ゴーレムの打ち下ろされる腕を払う。

エリカの身体強化を受けてドルイドは、ボイズの反対側から足を狙う。

一度で砕けるような、ヤワな体ではない。何度も何度も、同じ場所を殴りつけていた。

見るからに細身の剣が似合いそうな外見からは想像だにしなかったが、ドルイドの武器は己の肉体であった。

両拳にはめた肘まである籠手を着けて、右の籠手に炎を、左の籠手に氷を纏わせている。

魔力を使っての魔装と強化の効果があると、ニコニコ顔で直前に語っていた。

エリカの短剣では、傷はつけられない。そう思って、二人の強化補助と回復に専念した。

最近は補助ばかりでまともに戦ってないなと寂しく思いながらも、自分に任された仕事はきっちりこなすことを決めているエリカだ。

大きな鉱石の拳が、空中に飛び上がったボイズ目掛けて空を切る。

すかさず軌道をずらす様に、渾身の一撃を鉱石の体にドルイドが打ち込む。

エリカが風魔法で、ボイズの体勢補正を補助して加速させる。

両手で大戦斧を持ち上段からありったけの力を込めて打ち下ろすボイズの一撃は、ゴーレムの左胸を大きく削り植え込まれた魔核を露出させた。

「大き~い!それは、割るなぁ!」

緊張感の無いカイヴァンの声に、がっくりと力が抜けかけるも、何とか持ち直して受け持ちにゴーレムに向かい合う3人だった。


もう一方のゴーレムも、冒険者たちの見事な連携に振り回されていた。

ハインケルの防御結界に拳を阻まれ、ルーシリアとルインの速さに翻弄され、キャッシュ君の剛腕で足を掬われ、大きな体を地に横たえる。

上空から放たれるベールの火球の煩わしさに、振り回す腕は誰にも当たることは無く空を切っていた。

関節部に打ち込まれたハンセンの投げナイフがゴーレムの動きの精度を欠き、動いて壊れた投げナイフのかけらが着実に邪魔をしてギシギシとどこかが軋む音がしていた。

そのぎこちなさの隙を見逃さずに、キャッシュ君の拳がゴーレムの左胸を殴りつける。

ピシッと音を立ててひびが入ると、間髪入れずにルーシリアの剣とルインの爪が同じ場所を打ちひびが広がった。

そこに命中度補正と強化を掛けられた投げナイフが吸い込まれ、防御魔法を纏ったベールが上空からの高速滑空でナイフをゴーレムの胸に押し込み突き立てた。

何とも言えない大きな不協和音を響かせて魔核が割れると、ゴーレムは体を保てずにただの土くれに戻り、割れた魔核がその上に残された。

大きく息を吐き出しながら、まだ戦っている3人の方を見ると、割るな言われたことで苦戦を強いられていた。


「無理だ!割るぞ!あきらめろ!努力は、してやった!」

「そんなぁ~…」

そのやり取りの後、右足を砕かれ右に傾くゴーレムの体に横薙ぎの一閃が魔核目掛けて放たれた。

再び嫌な音を立てて魔核が割れると、土くれの上に無残な姿を晒した。

周囲から安堵の息が漏れる中、老人とは思えぬ速さで2体のゴーレムの体だった土と割れた魔核を回収しにカイヴァンが走ってくる。

「あぁ、完品で欲しかった。研究したかった。撫でて舐めて愛でたかった…」

「勘弁してくれよ…そんなに言うなら、自分で作りゃいいじゃねぇか」

「その手があったね!何人潰すかわからないけど、やってみる価値はある!いや、やって見せる!」

メイマルから史上最悪の危険物を生み出したと言わんばかりの非難の目を向けられたボイズは、そっと目を逸らしたのだった。

「さ、さて、ほら、アレだ。遺跡に入れるようになったわけだし、少し休憩したら入口の危険がないか確認して入ろうじゃないか。な?な?」

居た堪れなくなったドルイドの言葉に、その他全員とボイズが大きく首を上下に動かして同意を示した。

皆で戻ってきた拠点として整えられた天幕の中で、ドルイドとボイズは魔核についての話を聞いてみることにした。

アントンが淹れた優しい香りのお茶で口を潤すと、ドルイドは切り出す。

「カイヴァン殿、魔核は通常の物でしたか?何かわかったことは?」

「うん、見た限り普通の上位魔核なんだけどね。どうやら、刻印のような紋章のようなものが刻まれていたようだね。丁度、粉砕された場所にあったのか読み取れないけど。もしかしたら、読み取られない様にこの部分だけ細かく割れる様に細工してあったのかもしれないね」

「そうであれば、かなり用意周到な人が作ったと考えられますね」

「そうだな。まるで、見つかっちゃいけない物みたいだ」

「そうなんだろうねぇ。私は、この小さなかけらたちをなるべく繋ぎ合わせてみようと思うよ。きっと、何か分かるはずだ。でも、中に入る時には付いていく。見逃せない。一番に見たい。置いていかない様に!」

「はいはい。あまり根を詰めてお倒れにならない様にお願いします」

「倒れているような暇は、無いね。今なら10日ほど寝食なしで研究できるさ」

「それは、辞めてください。カイヤさんとメイマルさんが可哀想だ」

「ふんっ」

「んじゃ、俺らは入口の安全確保してくるかな」

「あぁ、頼んだ」

出入り口付近に立っていたドルイドの従者は、入口の布をさっとかき分けてくれる。

「ごっそさん、アントン。あのお茶、少しエリカに分けてやってくれないか。多分、あいつの好みなんだ」

「構いませんよ。お届けしておきます。お気をつけて」

「あんがとさん」

冒険者一行と何故かシュレインまでくっついて、遺跡の入り口の安全を確認しに出掛けて行った。

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