第23話

朝から領主の呼び出された一行が出会ったのは、王都からの研究者ご一行だった。

隊を率いるのは、国王から選任されたおじいちゃん研究員カイヴァン・ハーグルストンとその補佐官メイマル・ハーグルストン、それに護衛騎士2人と侍女1人の五人組。

研究員2人は、名前からわかる通り親戚で叔父と甥の関係だった。

この年になったら興味のないことには一寸たりとも関わりたくないと言わんばかりのいかにも偏屈そうなおじいちゃんに、それを補佐する立場の人の良さそうなお人よし感満載の20代の若い甥っ子。

そして、二人を微笑ましく見守る世話焼きなおばちゃん的な恰幅のいいハーグルストン家の侍女カイヤ。

なんとなく不安が拭えないといった様子の騎士が二人、顔を見合わせてあきれ顔で微かに頷き合っていた。

「いやにお早いおつきですね、カイヴァン殿」

「そりゃ、急ぐでしょう。未知の遺跡なんて言葉で焚きつけてきたのは、そちらだろう?急がずしてなんとするのか。食事も寝る間も惜しんで駆け付けるとも」

「真摯に受け止めて頂けたようで、感謝いたします。まさか、カイヴァン殿が直接来られるとは思いませんでしたが、心強いですね」

「わし以外の誰が、わし以上に考えられるのか教えて欲しいもんですな」

「ははは」

何とも言えない表情で苦笑いのドルイドを見て、にやにやと意地悪な顔をしているボイズを、馬と騎士様たちにちょっと同情したエリカが隣から肘でつつくのだった。

何はともあれ、自己紹介が終われば調査の話だ。

研究員が思いのほか早く着いたことで出発は前倒しになり、明日の早朝には南の門から出発することに決まった。

調査部隊5人、護衛冒険者5人と3匹、領主ドルイドと従者兼補佐の総勢12人での出立となる。

馬車が3台、馬で並走するのが3人、走るのが1人と従魔に乗るのが1人。

馬車の並びは前からボイズエリカ親子、研究員2人と侍女カイヤ、ドルイド従者アントンの順。

馬に乗るのは騎士2人とエラに乗るハインケル、ルーシリアは走って、ハンセンは獣型のルインに乗る。

全体の隊列としては、ハインケルが隣を並走するボイズ馬車・研究員馬車・その両隣に騎士・その後ろの領主馬車の両斜め後ろにルーシリアとハンセンの予定である。

少し間延びした感はあるが、馬車が3台もあればこんなものだろうとなる。

不寝番は、冒険者と騎士での二人組交代制(ハンセンは従魔と)。

食料等は領主の馬車の大型の魔導収納庫に大量に詰め込まれているらしい。

どの馬車にも収納庫はあるのである程度は分散しておくが、主に領主の馬車からの提供となるようでルーシリアとハンセンは、領主の馬車だけは死守せねばと、意気込んでいた。

それを聞いて苦笑いのドルイドは、小さく「これだから冒険者は…」と、呟いたとか呟かないとか。

ざっくりと向かう遺跡らしきものの場所と経緯を確認すると、「急いで疲れたから仮眠する」と言うことで、カイヴァンがメイマルとカイヤを連れて寝床に案内されていった。

残された騎士2人。しょうがないから些細な親睦会でもしようかと、昼食兼お茶会へと流れていった。

領主家の中庭に長机を置き、立食形式で色とりどりの軽食と菓子が並んだ。

もちろん、研究者一行にも仮眠の後の小腹満たしにと同じものが届けられている。

騎士2人は、レオンとリオンと言う年子の兄弟らしく、良く似た顔をしていた。

兄レオンは、右利きで右目の下にほくろがある。弟リオンは、左利きで口元にほくろがある。

20歳前後と思われる若手だが、有望な騎士の様だ。実力がなければ、要人の護衛など任されない。二人揃って、良く似た意匠の細身の双剣を腰に差していた。

利き手とほくろ位置で覚えようと、密かにエリカは二人を凝視していた。

「あの二人みたいなのが、好みなのか?エリカ」

「おっとぉ、違う。顔と名前を覚えようとしてるだけ。確かに、かっこいい部類だろうけど、顔だけで人を好きなったりしないよ」

「そうか。まぁ、うん。そうだな」

あからさまにほっとしたような顔をしたボイズを、横目でチラ見していたドルイドが意地悪な目をして笑っていた。

なんだかんだと腹も膨れて、人となりも分かり、一緒に行動しても大丈夫なくらいには打ち解けた様に思う。

明日からよろしくと互いに挨拶をして、お開きとなった。


夕食後、ボイズとエリカは出発の準備を終えた後に何故かメイマルによって食堂まで呼び出されていた。

「すいません。急に呼び出したりして」

「どうしたってんだ?」

「なにかあったんですか?」

「いえ、ちょっと、注意と言うか、お願いと言うか…」

歯切れ悪く、もじもじとしている人の良さそうな青年に、親子で首をかしげるしかなかった。

「実はですね、私の高祖母に当たる人が東方諸島の出身なんです。代々、カンカラ島の宗教について聞いていた為に叔父は強く興味を持って研究していました。そして今回、それに関連するかもしれないと聞いて、妙に高揚していまして…目を離すと何するかわからないので、気を付けて頂きたいんです」

「何をするかって、例えばどんな事をしそうなんだ?」

「前は、化石化した食物と思われるものを躊躇なく口に入れました。その例外にも、石に着いた苔を鑑定もなく食べたり、硝子状になった人骨を齧ったり…とにかく何でも口に入れてしまうのです。舌が一番敏感だからって…」

「それは…怖い…ですね」

「はい。何度も腹痛や毒症状に当たっているのに、辞めないんです。多分、今回も…お嬢さんは薬師としても優秀だとお聞きしました。どうか、解毒と腹痛用の薬を多めに作ってくださいませんか?お願いします」

心底困り顔の甥っ子がこんなに懇願していることを本人は気づいているのかと二人が心配になって、エリカは快諾した。

「しょうのない人なんだな、カイヴァン殿は。まぁ、俺も気を付けとくよ。物理的に力が必要な時は、遠慮なく言ってくれ」

「ありがとうございます!本当に、お願いします。子供みたいな人なんです。でも、優秀なんです。よろしくお願いします!」

どうせなら、一緒に行動する間に色々質問してみようと、親子は顔を見合わせて頷き合うのだった。

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