第15話

「来たな。しばらく、頼む」

「よろしくお願いします」

「ボイズ、エリカ、よろしくお願いします」

「おぅ。よろしくっ」

「久しぶりだね、旦那。エリカも。よろしくな」

「ルー姉と一緒は、初めてだね。もう、まだまだだなって言わせないんだから!キャッシュ君たちも、よろしくね」

ボイズ、エリカ、ハインケル、ハンセン、ルーシリアと従魔3匹が王都の門から、南を目指して旅立つ。

ボイズとエリカが乗るのは、一頭の黒い長く波打つ鬣を靡かせた竜との混血と言われている重馬フリスパドの曳く改造馬車。

ハインケルは、少し小柄で美しい深緑色の毛並みを持つ風属性の迅馬ラピトパドを優雅に乗りこなしている。

ハンセンは、魔獣状態になったワーウルフのルインの背中で、キャッシュ君と煉獄鳥のベールを肩に乗せているのが移動時の定番。

豹系の獣人であるルーシリアは、自前の足で馬車に並走する。

「いい馬ですねぇ。ボイズ」

「だろう?一目惚れだったんだ。実はな、馬車より馬の方が先だったんだよ」

「おっとぉの頭、おかしいでしょう?ハインケルさん。あ、この子はドズだよ。よろしくしてね」

「ハハハ。いい名前ですね。うちの子は、エラです。よろしくお願いしますね」

王都から南に延びる街道を疾走しながら、馬車の御者台で風を受けてのんびり世間話に興じる。

南部の大森林に接する領の領都までは、一般的に街道をひたすら南に向かって8日。

しかし、それなりに急ぎであることと大きな馬車を停められる宿があるかなどの懸念から、ぶっ通しで野宿確定の強行軍で5日で辿り着く予定だ。

王都付近の街道と言うこともあり、何事もなく走り続けた初日も夕方になった。

街道脇の大きな木の下で馬車を停め、ドズとエラを木の枝に繋ぐと餌と水を用意してから野営の準備をする。

各自が寝床を用意する間に、エリカは食事を、ボイズは馬たちと従魔の世話を担当した。

今日の夕飯は、いつもの野菜スープと、大きく切り分けた肉を塩と香辛料で下味をつけて焼いたもの、出来立てで保存されていた香り立つパン。

皆が旅先で温かい食事が出来ることに感謝して、早々に胃袋に飲み込んでいった。

「ルー姉、ずっと走りっぱなしで疲れないの?」

エリカは、そんな小さな疑問を、食後のお茶ついでに本人に聞いてみる。

「ん~走るのは好きだしねぇ。疲れたって思ったことないな。エリカも、薬作ってる最中は、疲れたって思わないだろ?」

「思わないね。作り終わったら、疲れたって思うけど」

「一緒さ。寝るときなってやっと、疲れたなって思う感じだな」

「獣人って、すごいねぇ」

「まぁな」

「お前ら、あんまり夜更かしすんなよ?不寝番は、ハインケルと俺が最初、次がハンセンと従魔で、最後はお前らだぞ?忘れんなよ」

「「はーい」」

「返事だけは、いいんだよな」

「まぁ、大目に見てあげましょう。エリカには、初めての遠征ですしね」

「アレだろ?ボイズは、エリカとおしゃべりできないからちょっと拗ねてんだろ?」

「おまっ!ばっかやろぉ。んなこと、ねぇわっ!…ったく」

なんだかんだ、にぎやかしく一日が終わるのだった。



その後の辺境領までの道のりは、つまらないほどに何もなく、あったのはどこからか飛び出して来た小さな角ウサギ型の魔物3匹との戦闘が一回のみ。

冒険者としては、まったく実りのない残念過ぎる道中だった。

「ここが辺境領最北である領都だ。ここから南部の森に接する街まで行くのか、隣国に進むのかは、領主次第だな。とりあえず、領主への挨拶があるから、今日はこの領都で一泊な。宿を探すぞ。そのあとに協会に寄って領主への面会の手続きだ」

「おっとぉ、いやそうだね?」

「手続き、めんどくさい。貴族、好きじゃない。作法、知らん。いやそうな顔にもなるだろ?」

「まぁ、分からんじゃないね。私も貴族ってやつは、好きじゃないね」

「ルー姉も?そんなもの?」

「「そんなもの」」

宿探しの時間は、思いもよらぬ愚痴大会へと発展してしまった。

エリカがほんのり、大人ってめんどくさいと感じたのは、彼女の胸の中だけの秘密だ。

領都だけあり、何もかもの質は高い。宿も、大きさも設備も金額も中々のものが揃っていた。

その中で、ボイズが選んだのは銀翼亭という大手と中堅の間くらいの宿だ。

馬車と馬たちを預けられて、中型までの従魔たちも一緒に部屋に入れる。

宿としてはかなり良い部類の宿だが値段がお手頃らしく、ボイズは気に入っているという。

男3人部屋と女2人部屋を取り、荷物を預けると一行は協会へ向かった。

領都に着いたのは、昼を幾分か過ぎてから。そして、今は既に小腹が空いておやつが食べたくなる時間。

領都の冒険者協会の中は、ガランとしていた。

「こんにちわ。どうぞ、こちらで伺います」

「王都から来た、特級冒険者センティアボイズ・ガンドーラとその同行者だ。王命を受けてこちらに来ている。領主殿にご挨拶差し上げたいのだが、手続きを頼めるか」

「あっ!はい、お待ちしておりました。領主様からの通達で、手続き不要にて屋敷までお連れするようにと言われております。すぐに、馬車を手配いたしますのでお待ちください」

「げ…今すぐかよ…わかった。頼む」

「はい」

受付の女性の行動は素早く、大した時間もかからずに協会の前に立派な馬車が到着した。

到着したのは、堅牢さが前面に押し出されている小さめの城。はっきり言って、要塞だった。

早々に使用人が出てきて、静々と長い廊下を何度が上がったり曲がったり。

大きな扉の前で名乗ると、扉を開けてから一礼して去っていった。

「久しいな、ボイズ」

「お久しぶりでございますね、デカルト辺境伯閣下」

「なんだよ、随分改まった呼び方をするじゃないか。やめてくれ」

「変わんねぇな、ドルイド。一応、貴族様への礼儀ってやつを、娘に見せたかったんだがな」

「娘?いつの間に?おぉ、この子か。似てないな」

「ほっとけや。んで?座っていいか?話を聞きに来たんだ」

小さく頭を下げるエリカに微笑んで、辺境伯は椅子を勧める。

その仕草は洗練されていてちゃんとした貴族然としているのに、しゃべり方が冒険者の様でなんだかチグハグだと、エリカは若干混乱する。

「先ずは、依頼とは言え、遠路はるばる足を運んでもらって感謝する。私は、ドルイド・マーキス・デカルト。このデカルト辺境領の領主をしている。お見知りおきを」

「こっちは、俺が紹介していく。まず、俺の娘、エリカ。隣は、一級ハインケル。後ろの男が準一級ハンセン。それと獣人の女が準一級ルーシリアだ。さっさと話せよ。どうして欲しいんだ?」

それぞれが頭を下げる間に、応接用の机にはお茶が人数分並んでいた。

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