第15話 いよいよ始まる文化祭、忍び寄る不穏な空気

 なんだかんだで始まった文化祭。蛍たちの地学部も好調な出だしであった。


 やはり、宝石中心の展示は女性たちの心をつかみ、ミニカフェの琥珀糖も好評だった。お客さんの七割くらいが女性だ。コロナの制限がなければもっと盛況だったのにと皆して残念がったものだ。

 今回は生徒の保護者は一人のみ、友人は二人まで、卒業生は奇数の年の卒業生は午前入場、偶数の年の卒業生は午後入場に二種類に別れて入場制限をかけていた。

 美蘭は午後に来る予定だ。


「蛍〜、ホットコーヒーセット二つ」


 そして、蛍以外が予想してた通り暖かい飲み物のコーヒーと紅茶セットが好評で注文はその二種類が圧倒的であった。


「タピオカ、あんなにみんな行列してたのに、人って薄情。後で休憩の時に沢山飲んでやる」


「女子高生は流行を追うものよ」


 花音は最もなことを言う。


「で、そろそろ交代時間だけど……」


『ジリリリリ!!』


 突然、校内に火災報知器が鳴り出した。この学校の生徒は誤報であっても、マニュアルに従い状況確認をするよう指導されている。過去に火事が起きたのに誤報と勘違いされ、被害が広がって怪我人が出た教訓があるためだ。


 蛍はレジだけ鍵をかけ、花音と共に廊下に出て、他の部員は客の避難誘導を始めた。普段はすぐに止む報知器が長く響いている。


「屋台のたこ焼きか焼きそばの煙に反応したのじゃない?」


「蛍、ニ年前にどっかの高校で屋台のカセットコンロを間違った使い方して爆発事故起きてるのよ、油断大敵……って、あれじゃない? なんか焚き火みたいな炎が上がってる」


 花音が指さした先には段ボールの塊が燃えているところであった。屋台が多いから、どこかの屋台の段ボールが何かで引火したか、いたずらで火を付けられたのかもしれない。

 素早く、火元近くの屋台の人たちがバケツの水をかけ、消し止めると報知器が鳴り止み、しばらくして放送がかかった。


『えー、ただいまの火災報知器は出火場所はエントランスの屋台エリアのボヤです。直ちに消火しましたので被害はございません。ご迷惑おかけしました。引き続き文化祭をお楽しみください』


「マジモンの火事だったのか……」


 蛍がつぶやくと七海が呼びかけた。


「先輩、希望するお客様には席に戻ってもらって、新しい飲み物を提供しましょう。何かで聞いたけど、紅茶は心を落ち着ける効果あると言います」


「七海、そのとおりにしましょう。お客さんも火事で興ざめしたり、不安がるでしょうからミルクティーでも」


「じゃ、タピオカミルクティーを!」


「この寒い日にそんな冷たいもの飲ませられないわよ。普通にホットミルクティーよ」


「いいもん、タピオカは独占するから」


 こうして、蛍を始め地学部員たちは戻りお客達にはお詫びを兼ねたドリンクが提供された。


 その合間に展示品をチェックするが、特に荒らされたり盗まれたものは無かった。金町が心から安心した声を出した。


「良かったー。これで盗まれたらレプリカでも大目玉くらうし、先生にも怒られる」


「まあ、人も物も無事で良かったじゃん。じゃ、これが一段落したら交代で休憩ね。第一陣は私からかな。タピオカミルクティーたんまり持ってくね」


 返事を聞く前からちゃっかりとラージサイズのカップにタピオカをたんまりと入れていた。


「それって、もはやタピオカのミルクティー漬けじゃない? まあ、誰も飲まないから全部持ってけば?」


「冷たいな、花音は。魚川さんに電話するの止めよっかなー」


「……すみませんでした。蛍さん」


「それと、ミラ兄の分と」


「美蘭先輩には常識の範囲の量のタピオカにしてね」


「何か疑ってない?」


「あなたの常識は時々、人とはぶっ飛……違うところあるから」


 基本、災害時のマニュアルは人命を優先する。逃げやすいように扉の鍵はかけない。蛍が金庫に鍵をかけていたが、本来ならそれも放棄して安全を確保しなくてはならない。だから彼女らには何も落ち度はない。


 悪いとしたら運である。ボヤ騒ぎの時に地学室に人が入り、すぐに出ていったことに気づいた者はいなかった。


 正確には一人(人ではないが)魚川がスマホ越しに気づいていたが、いきなり喋るなと蛍から釘を刺されていること、忙しそうで話すタイミングがつかめずやきもきしていた。


(あの男、何をしたのか? しかし、蛍たちは何も荒らされてないと言うし、お客達の様子からしても食べ物の異物混入でもなさそうだ。火事場泥棒しそびれたのか? とにかく休憩になったら警告せねば。あとは他の通信ネットワークをハッキングできればいいのだが)


 その三十分前、近くのジュエリー店から窃盗事件があった。商品を出させたところ突然掴んで逃げたという知らせが警察から学校に情報提供された。しかし、ボヤ騒ぎもあってこの情報は全体にうまく伝わっていなかった。


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