今度こそ!ホブゴブリン退治へ!

 フェイさんにしっかりとアドバイスをもらったけれど、不安感を完全に消す事は出来ないまま僕たちはルソン村へと向かった。


 到着したのは夕暮れ時。村長が僕たちを見るなり、本当に大丈夫ですか?と声を掛けてくる。それは親切心からなのか、僕たちに対しての不信感からなのかは分からない。恐らくは後者だろう。僕は大丈夫です!と声を張って答える。カシクも自信なさげではあるが、頷いた。


 村の宿泊施設で次の日の昼間になるのを待つ。


「なあ、セイル。俺たちホブゴブリンを倒せるかな……」

「カシク。自信持てよ。フェイさんからもクリアすることは不可能じゃないって言われたろ?」

「ああ……そうだな」

 カシクは念入りに武器の手入れをし始めた。何度も何度も確認して、ようやく満足したのか、ふぅ……と溜息をいてこちらを見る。


「あの時、本当に怖かった。今でも怖い。でもここで諦めたら、俺はもう二度と立ち上がれやしない。頼むぜ、相棒!」

「うん!」

 僕とカシクはハイタッチして、二人して笑った。





 翌日。僕が目覚めると、既にカシクはベッドに居なかった。多分、早くに目覚めたんだろうな。部屋から出て、階下に行くと、前回と同じようにカシクは早めの昼食を取っていた。しかし、あの時と違ってあまり食欲はないようだ。


「カシク、おはよう」

「ああ。おはよう……」

 緊張しているのだろう。僕を見る目に覇気を感じない。


「さあ、ちゃんと食べろよ!少し休んだらゴブリンの巣に向かおう!」

「……おう!」

 僕も昼食を注文して、カシクの正面に座る。カシクと共に真剣に作戦内容を確認しした。昼食を食べ終わって、いよいよクエストスタート。重い足取りで、ゴブリンの巣へ向かう。緊張でカシクの手が震えてるのが見えて、心配になった。それでも必死で歩を進めるカシクを見て、僕はカシクと組んで良かった、と思った。


 巣の前には前回と同じように見張りが居た。今回は3匹。あれから警備を強化したのだろう。うつらうつらと船を漕いでいるが、その内の1匹は短剣を持っている。


「厄介だな……」

「ああ。2匹なら不意打ちで倒せるが、3匹か……どうする?セイル……」

「そうだな……後ろから回り込んで、2匹を一気に倒そう。残りの1匹はそのまま時間を置かずにやるしかない」

「分かった」

 僕たちは忍び足で、ゴブリンたちの背後に回り込んだ。目で合図して一気に飛び掛かる。瞬時に2匹を殺して、残りの1匹に視線をやった。すると、ゴブリンは僕たちに気付いて短剣を振り回し始める。


 それをうまくかわしてカシクがトドメを刺した。ふー、と息を吐いてカシクは上を見上げる。


「なんとかなったな」

「うん。カシクと僕なら、いける!この調子でいこう!」

「ああ」

 カシクの緊張が少し解けたのを感じた。


 坑道に入った。前と変わらず、ジメジメした空気。不快感で顔が歪む。ゆっくりと坑道の中を移動した。殆どのゴブリンは寝息を立てて眠っていたので、楽に進む事が出来る。しかし油断は禁物だ。前回と違って、カシクも余裕なさげにしている。


 そして……僕たちはホブゴブリンの居る広い部屋まで辿り着いた。


「着いたね」

「ああ……」

 カシクの顔は真っ青だ。吐きそうになってる。トラウマになっているんだな……。僕は、ポンポンとカシクの背中を叩いた。


「カシク。僕たちはここから再スタートを切ろう。行くぞ!」

「……おう!」

 遮断の耳栓をしてから、部屋に入った。部屋の奥に二つ赤く光る瞳が見える。奴だ。ホブゴブリンだ。


 ぐおおおおお……と声を上げながら、大きく伸びをして、ホブゴブリンがコチラに突進してきた。僕は火花の巻物を開いて、ホブゴブリンの方へ向けた。


 巻物から強い火花がホブゴブリンへと放たれる。その光にやられて、ホブゴブリンの動きが止まった。両目を押さえて、苦しそうにのたうち回り始める。


「今だ!行くぞ、カシク!」

「ああ!」

 カシクが急スピードで真正面からホブゴブリンの方へ走り出した。それに僕も続く。カシクが何度も鉄の爪でホブゴブリンを切り裂いた。僕は後ろに回り込んで、のたうち回っているホブゴブリンの頭に大剣を振り下ろした。


「ごおおおおおおおおおおおおお!」

 ホブゴブリンが『咆哮』を上げた。しかし遮断の耳栓の効果で、僕たちの動きは止まらない。


「カシク、このまま押し切るぞ!」

「おお!」

 カシクはまるでダンスでも踊っているかのように、回転しながら鉄の爪で切りつけ続ける。ホブゴブリンの皮膚が裂けて、大量の血液が噴出ふきだした。


 段々とホブゴブリンの動きが緩慢なものになっていく。僕は力一杯、大剣を振りかざして、そのままホブゴブリンの頭に打ち込んだ。


 グシャリ……と音を立てて、ホブゴブリンの頭が潰れた。


 絶命したと確信したが、カシクはそれでも切りつけるのを止めない。


「カシク!カシク!」

 大声でカシクを静止する。カシクは興奮していたが、僕の声を聞いて漸く動きを止めた。


「やった……のか?」

「ああ!カシク!僕たち、ホブゴブリンを倒した!やったぞ!」

 もはや肉塊と化したホブゴブリンを見て、カシクは膝から崩れ落ちた。


「セイル……ありがとう。俺はまだ、冒険者でいられる」

「ああ!カシク!僕たちの冒険は始まったよ!」





 ルソン村に戻って、村長にゴブリンの巣を駆除したことを報告した。村長は、とても喜んでくれて追加報酬を弾んでくれた。


「さあ、王国へ戻ってフェイさんにも報告しよう!」

「ああ!早く行こうぜ!」

 僕たちは笑顔で抱き合った。



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