2話 イス取りゲーム

 今日は週の終わりの金曜日、いつものフードコートには明らかにお客さんが多いような気がします。


 エコバックを持ったお買い物帰りの親子、無料の水で盛り上がる中学生、まだまだ夜はこれからだと言わんばかりの大学生っぽい集団、そしてお客さんの大半を締めるのが私達こと毬藻まりも高等学校の生徒達、えとせとらえとせとら……




「うわぁ、めっちゃ混んでんな」

「ほんとだね〜。もみじちゃん私達からはなれちゃだめだよ」

「そうですね。迷子になると恥ずかしい館内放送を流すことになるので、気を付けましょう」

「はぐれるわけねーだろ!」


 まったく……と嘆きつつ、テーブルがあるゾーンへと向かおうとする椛さん。


「あ! まって! 手ぇ、つないどこう!」


 バクッと、先に行こうとする椛さんの左手を攫う渚帆さん……あっ、手ぇ……


「なっ/// なにしてんだ! 大丈夫だっての! なぎ! こら、離せって///」

「こらっ! あばれちゃだめっ! ほかのお客さんにめいわくでしょ!」

「あ、あの……私も、その……てててててて手を」

「あ! ごめんねっ! こはるこちゃんもつながないと仲間はずれみたいになっちゃうもんね。はい、なぎの左手どーぞ」


 私は、慈愛に満ちたお顔で差し出された左おててを、モニッと握りました。


「じゃあ、席さがしにれっつごぉー!」

「いやいや! この体勢は恥ずかしいって!! 園児か!」

「や、柔らかくてまるでつきたてのお餅のよう……」




 渚帆さんを真ん中に、右に椛さん、左に私で、3人仲良く手を繋いだ状態で、4人掛けテーブルを探し始めました。

 流石に嬉し恥ずかしいですが、この体勢は横に幅をとって迷惑になるので、早く席を見つけませんとね。


「早く席を見つけてしまいましょう。横並びだと他のお客さんの迷惑になりますから」

「なら、手を離せばいいと思うんだけどな……それとも縦にでも繋がるか?」

「たっ! 縦っ!? こ、この変態さん女子高生///」

「はっ!? 何が変態なんだ/// 脳内桜餅か!!」

「あったよ〜」


 渚帆さんを挟み、椛さんと不毛なやり取りをしている間に、席が見つかったようです。


 ちなみに桜餅は、小麦粉から作る長命寺餅とも呼ばれる関東風。道明寺粉と呼ばれるもち米を主原料とした粉から作られる関西風があります。

 北海道は関西風が主流ですね。




「あったよ〜って……椅子が2つしかねーじゃんか」

「誰か持ってっちゃったのかなぁ」


 確かに4人掛けテーブルなのに、2脚しか椅子がありませんね…………ああ、あちらの大学生らしき集団が椅子を使ってしまっているようです。


「椛さん? ……今のはどなたの真似ですか? まさか渚帆さんの真似では……」

「う、うるさいな、ちげーよ。てか、どーやって座るよこれ」

「カバンはテーブルの下に置くか、椅子にかけるとして……どうしましょうか」


 空いている椅子は、テーブルを挟んで1脚ずつしかありません。

 うーん、ここは公平を期してやはり……


「ジャンケンしましょう」

「なぎはいいから2人がすわってっ」

「あたしが2脚使って座るわ」




 思わず顔を見合わせてしまう私達。

 さっすがお優しい渚帆さん! ……に比べて、何を言っているんでしょうか、このちびっ子は。


「——もうめんどくさいな、はいジャーンケーン」


 え、あわ、えい!


 小春子『グー』

 渚帆『パー』

 椛『グー』


「ありゃ、勝っちゃった」


 悪いことをしてしまい反省中のワンちゃんのような顔をしながら、椅子に腰掛ける渚帆さん。

 さて、最後の椅子を賭けて、絶対に負けられない戦いが始まろうとして——






「はぁ、仕方ないなー。もう1つの椅子は小春子に譲るわ」

「え? 良いのですか? えーと、では……」


 さすがに少々申し訳ないですが、お言葉に甘えて席に座らせていただきましょう。

 と、私が渚帆さんの対面の椅子に座った次の瞬間でした




「じゃああたし、ここすーわろ!」

「わっ」

「!?!?」


 はめられた! またしてもこの人は!!!

 あろうことか椛さんは、私の対面に腰掛けていた渚帆さんの太ももの上に腰を下ろしたではありませんか!


「こ、こら! なに渚帆さんの上に乗っかっているのですか! お、重いですから下りてください!!」

「えー? あたし体重軽いから重くないもんー。なー? なぎなー?」

「全然重くないよ〜。軽すぎてちょっと心配になっちゃうくらい?」

「ぐぎぎぎ」


 くやしい! なにか椛さんをあの聖域から退かせる方法はないでしょうか! なにか、なにか、投げれそうな……手頃な雲丹うにとか……


 私が、悔しさと羨ましさで錯乱しているところに、更に目を疑う光景が飛び込んできました。


「おぉ、すごいな、この後頭部から伝わる2つのやわい感触と、そして心地いい温みがなんとも……このまま眠れそうだ……」

「もみじちゃんは相変わらずちっこくて抱きやすいね〜」

「だろう〜? ちっこいは余計だが——ん? なんか小春子静かだな……」


 恐る恐る椛が正面に目を向ければ、下を向いてプルプル震えている小春子がいます。

 真っ黒な長い前髪で表情はほぼ見えませんが、左右にぷっくら膨らんだほっぺただけは見えています。


(パクつきたい——いやいや! 流石にやりすぎたかも……どうしたら……うーん、えーとぉ)


「こ、こっちきて小春子も一緒に座るか? ……3人で、なんて」

「…………すわる」


 おもち

















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