第6話 さらばだ、友よ

 砲撃。陣を敷くゲリラの防衛陣に対し歩兵では部が悪いと判断した国軍は戦略車輌と戦車を投入。敵の遮蔽物もろとも吹き飛ばし、強引に状況をこじ開ける。


「下がれ下がれ!」


 ゲリラは煙幕弾スモークランチャーを使い戦車の射線を塞ぐと、負傷した同士に肩を貸し後方へ。


『戦車隊。あまり深追いはするな。既に“フラグバレット”がシップアウトした。見通しのラインを維持し、歩兵の遮蔽となれ』

『了解』


 スモークも長くは持たないが、ゲリラからもこちらの動きを隠すことになる。

 一度下がった歩兵隊は戦車を前に再び最前線へ――


『なんだ?』


 晴れぬ煙の向こうに光る眼。そして、戦車が音を立てて傾き出した。


『!?』


 軋むような金属音を響かせながら戦車はどんどん傾いて行くと、歩兵の目の前でひっくり返った亀の様に裏返る。

 その戦車の上に立つとソレは歩兵を見下ろす。


『家族を失い、枯れた大地で、ただただお前らを憎むのが俺の戦場だった』

「撃てぇ!」


 歩兵の銃が一斉に戦車の上に立つソレに火を吹く。しかし、ソレは鉄の雨を異に返さず、ドンッ! と重々しく戦車から降りた。


『だが……今の俺には使命がある』


 歩兵がRPGを撃ち込む。直撃。爆風によってスモークが晴れると、そこに居るソレは何事も無かったかのように歩兵を見た。


『行っておくが、今の俺は砂漠で戦りあってた時よりも強いぞ』


 装着装甲『ジャベリン』。

 現代に置いて全身を鋼鉄で覆う兵士は後にも先にも、ウォーロック以外には存在しなかった。


「砂塵のウォーロック!」

『俺は今日死ぬと決めている』


 ウォーロックは鋼鉄の顔の奥で不敵に笑った。






「……ロック」


 オルセンは建物の屋上からウォーロックの部隊が命を燃やす所を見届けていた。

 『ジャベリン』は身体能力の高いウォーロックにしか扱えない。しかし、それでも数多のドーピングや痛感遮断などの致死量に近い麻薬を使わなければあのような超人的なパワーと耐久力は維持出来ないのだ。


「ここで命の火を上げる。貴方がそうしているのです。ならば我々もそうするべきだ」


 オルセンの側を数人の部下と共に護衛するオルフェスは『テンペスト』を立てかけ、戦友の最期を見届ける。


「……きっとアキラが正しいのでしょう。本来であれば」

「私たちは忘れていたモノを思い出してしまった。これを最期としよう」


 すると、プロペラの回る音が聞こえ、国軍の戦闘ヘリがウォーロック達を空から攻撃する。


「全員、リーダーを護れ」


 そう指示を出すとオルフェスはライフルを構える。スコープに映すのはヘリのパイロットである。


 薬莢が銃身のから弾け出ると共に直進する弾丸はヘリのパイロットに直撃するも、その間にある防弾ガラスによって弾かれる。


『!? 角度を変えろ! 狙われ――』


 オルフェスは流れるように近くに立て掛けてある銃身の長いライフルに持ち変える。

 高速回転弾射出長銃『テンペスト』。それは専用の弾丸を要する特殊武器であり、視界に捉えられるのなら射程は無制限の武器であった。


 弾丸は見えなかった。ビキッ! とコックピットの防弾ガラスに穴が開いたと気づいた時には弾丸が頭を通過しパイロットは絶命する。


『本部聞こえるか! 『オルフェスの鷹』が『テンペスト』を持ってる! ヘリは飛ばすな! 繰り返す! ヘリは――』


 複座に乗っていた副操縦士も次弾に頭を抜かれると戦闘ヘリは回転しながら墜落した。






 『ジャベリン』と『テンペスト』により一時的に戦局は押し返されるも、それでもゲリラに詰みがかかっている事には変わり無かった。

 それは、海から隣国の領地を横切り、戦場となった港町へ向かっている。


『空母聞こえるか? こちら、フラグ1。後10分で目標を射程に捉える』

『フラグ1。現地に『革命家オルセン』を確認。更に『砂塵のウォーロック』『オルフェスの鷹』も確認済みだ。『サイバークイーン』は未確認だが、パルスにより無力となる。効果時間は5分。それまでに完遂せよ』


 空を切り裂き、広範囲を爆撃する武装を積んだ3機の戦闘機は隊列を崩さずに飛行する。






「これで終わりか」


 マクレガーは総統府の執務室に座る。デスクの上には息子夫婦と共に写った写真と、将校服を着たオルセンと肩を並べる写真が存在していた。


「マクレガー司令。後10分でプランデルタは完了との事です」


 部下の報告に、そうか、と返す。


“誰かが声を上げなければならない。マクレガー、この貧困と死んだ私の家族を目の当たりにして……その引き金が正しいと、この場で誓えるのなら撃つがいい!”


 今は、あの時引けなかった引き金を躊躇いなく引くだけの力がある。


「……さらばだ、友よ」


 そして、盟友と写った写真を伏せた。






「――そう言うことか」


 鉄と煙と銃声の絶えない戦場で国軍の動きがえらく消極的である事に、オルセンは神がかり的な勘を働かせて海の方へ視線を向けた。


「どうしました?」


 オルフェスもオルセンの視界へと眼を向ける。


「……オルフェス」


 オルセンの指示にスコープを覗くオルフェスは、粒のように小さい何かを捉える。


「リーダー。来てます」


 拡大していく速度から、相当な速さで向かっている事がわかった。


「戦闘機だ。恐らく、都市殲滅の武装を積んでいる」

「あっちが本命ですか」


 『テンペスト』を構える。理論上は視界に収まるなら射程は無限だが、あらゆる抵抗を完璧に計算しなければ弾は当たらない。

 高速で接近する戦闘機は風の壁を纏い、空気抵抗は予想が出来ないのだ。


「対空砲を準備しろ」


 無線で対空砲の起動を指示する。その手の対策は万全なのだ。

 港町の各所に設置された対空砲が起動する。射程に入り次第、戦闘機は撃ち落とされるだろう。

 次の瞬間、バチバチと音を立てて対空砲に電流が走ると機能を停止した。


「!? なんだ!? 再起動!?」

「どうした!?」

「対空砲が全部ブラックアウトして再起動に! 時間は……10分です」


 細工……ではない。恐らく外部からの侵入を許していたか。時期は……


「昨晩か」


 その時は騒ぎになれば逃げられる可能性を考え、最低限の侵入に止めて引き上げたのか。


 オルフェスは戦闘機に『テンペスト』を撃つ。しかし、当てるには、まさに神でもなければ不可能だった。


「友よ。君の引き金が正しい事を願う」


 あの時、引き金を引かなかった友はもうソレが出来る存在となってる。






「パルスを起動。武装ロック解除」


 シャープは部下に命令を出し、3機の戦闘機は都市殲滅武装の発射準備を整える。


「射程に入り次第、順次撃て」


 いつもの通りに余計な思考を廃した声による指示に部下達は、了解、と返す。その時だった。


「?」

「――隊長!」


 機内に歌声が流れ出した。

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