第21話 幼なじみの転生は気付けない(21) SIDE ケイン

 いずれにしてもろくでもない話である。

 まともな依頼だなんて思った自分をぶん殴ってやりたい。


 殊勝な顔してオレに協力を頼んだくせに!

 やっぱりとんでもない女だ!

 オレの幼なじみとは大違いである。

 マリの爪の垢でも脳みそに埋め込んてやりたい。


 とはいえ、人さらいを放置しておくというのも寝覚めが悪い。

 こういうの、映画やゲームなんかで見てちょっと憧れてたんだよな。


 オレはメグと頷きあうと、ドアの前に移動し、大きく息を吸った。


「開けろ! デトロイト市警だ!」


 メグが「急になに!? デトロイトって?」という顔でこっちを見たが無視。

 一回やってみたかったんだからしょうがない。


 オレは中からの返事を待たす、木製のドアを蹴破った。

 狩りで強化されまくったオレの足は、ドアを粉々に粉砕した。

 気ん持ちいいー!


 広めの室内にいるのは先程の男3人にと、目深にフードをかぶった老人が1人。


「な、なんだてめえ!?」

「こいつ最近話題の勇しぐぇっ!」


 オレはまずごろつきのうち、リーダー格っぽい男に一瞬で距離をつめ、腹を殴って昏倒させた。


「てめ――」


 そばにあった剣をとった男にリーダー格を投げつける。


「わーおパワフルですね! ほいっと」


 リーダー格の下敷きになった男の額にメグが指先で触れると、男は白目を剥いて気絶した。

 何いまの!?

 魔法!? 怖っ!


 うろたえるもう一人の男の腹にオレが拳を突き立てるのと同時に、メグの指先からビームのように光が伸びた。

 その光は老人に触れる直前に、弾けて消えた。


「えっ!? 防いだ!?」


 どれほどの魔法だったのかわからないが、それなりに自身があったのだろう。

 メグはローブの中からスティックタイプの杖を取り出し、身構えた。

 杖の柄についた白い魔石が輝く。


「やれやれ、せっかく自動的に食料を手に入れるルートを作ったというのに。余計な邪魔が入ったものだ!」


 声に怒りを滲ませた老人が、メグに手のひらを向けた。


 ――ごっ!


 同時に、爆音とともにメグの後ろの石壁が粉々に吹っ飛ぶ。

 魔石を発動させた気配がなかったぞ!?


「ほう……今のをいなすか。貴様、魔女だな?」


 魔女? こちらの世界にきて初めて聞く単語だ。

 オレの知る限り、性別を問わず、魔法に長けた者は魔道士と呼ばれていたが。


「グリムゲインの里のメグよ。魔族ね?」


 その問いに老人は沈黙で応え、口の端をわずかに歪めた。

 魔族って……剣と魔法の世界だしそういうのもいるか。

 これまで話題に上がらなかったのは、人里に出現することはまれだからか?


「その子供たちをどうするつもり?」

「もちろん喰うが?」


 魔族はさも食卓に用意されたパンかのように答えた。

 メグが奥歯をぎりりと噛みしめる。


「魔族は……」「魔女は……」


「「殺す!」」


 2人の声がハモると同時に戦闘が始まった。

 ほがらか清純派だと思っていたメグだが、ものすごい殺気を放っている。

 彼女はオアシスだと思ったのに!


 魔族が手のひらから撃ち出した不可視の衝撃波が屋根をぶち抜き、空へとその身を踊らせた。

 メグがそれを追う。


 オレは慌てて、ずた袋に入った子供を、部屋の隅、安全そうな場所に移す。


 二人とも飛んでる!

 いいなあ、オレも飛行の魔法を覚えたい。

 オレは瓦礫を踏み台に、ひょいひょいっと屋根へと上った。

 自分の身軽さにちょっと楽しくなりつつ、上空の戦闘を見上げる。

 白と紫の光の帯が、ぶつかっては離れ、ぶつかっては離れを繰り返している。

 やがて叩き落されてきたのは白い帯――メグだ。


 オレは慌ててメグを抱き止める。

 腕に強い衝撃を感じると同時に、崩れかけていた屋根が崩壊した。


「けほっ……けほっ……」


 もうもうと立ち上る煙の中、メグを抱えたまま屋外に飛び出す。

 その直後、オレ達がいた場所を衝撃波が襲う。


「おいおいおい。魔族ってなんなんだ!?」


 魔獣とは比べ物にならない強さだ。


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