第5話 幼なじみの転生は気付けない(5) SIDE ケイン

SIDE ケイン


 こちらの世界にきて5日目。

 王都周辺での『狩り』にも慣れてきた。

 2日目くらいまでは、リスのような魔獣――魔力を持つ獣をそう言うらしい――を1匹倒すのにも苦労していた。


 まともに追いかけ回すのは非効率だったので、たくさん罠を張り、かかった魔獣を殺してまわることにした。

 幸い、知能はあまり低くないらしく、一日数匹程度ならすぐに捕まえることができた。


 ケインの体は肉体労働で食いつないでいたおかげか、もとの体よりも正直身軽だった。

 しかし、栄養が不足しているせいで、ふらつくことも多い。


 そんな状態も3日目には改善していた。

 リス型魔獣を狩った報酬で、なんとか食べられる程度にはなったのだ。


 今日は王都の近くにある森へと入っていた。

 冒険者ギルドの情報によると、森の入口付近にはオオカミタイプが出るらしい。


 なぜかこちらの言語や文字を理解できるんだけど、耳から聞こえてくる単語は少なくとも「オオカミ」ではなかった。

 もとの世界に似たものに『翻訳』されているんだろうか。

 ジャガイモっぽいなにかも、屋台での会話ではジャガイモと理解できたし。

 不思議なもんだ。


 ――ガサリ。


 これまでのオレなら聞き逃したであろう、小さな茂みの音。


 リスを乱獲したせいで、オレの身体能力は飛躍的に向上した。

 3日目と4日目は、少しの睡眠以外は全て狩りに使った。

 ゲームのレベル上げのようで、ちょっと楽しくなってしまったのだ。

 冒険者ギルドのお姉さんにはたいそう驚かれたが、配属初日から3日連続徹夜を言い渡されたもと社畜は伊達ではないところを見せられただろうか。


 さて、これまではとにかく安全に狩りをしてきたので、いよいよ腕試しだ。

 オオカミと聞くと犬程度に思うかもしれないが、かつての日本でも多くの人の命を奪った獣である。

 油断すれば死ぬことだってありうる。


 茂みの中から、ゆっくりオオカミ型の魔獣が現れた。

 想像よりも大きい。

 顔がオレの胸元あたりまで来ている。前足を上げて立ち上がれば、オレの頭を越えるだろう。

 その牙と爪の殺傷力は言わずもがなだ。


 それがオレをぐるりと囲むように5匹。


 魔獣達は問答無用でオレに飛びかかってきた。


 転生したてのころなら、これだけで死んでいただろう。

 だが今のオレは違う。


 オレは一匹に向かって駆けながら剣を一振り。

 すれ違いざまの一撃は、魔獣の首をぼとりと落とした。


 それを見て2匹はひるみ、2匹は襲いかかってくる。


 オレはまず襲いかかってきた2匹の首を刎ねた。

 剣術を学んだことはない。

 力任せの一撃だ。

 それでもこういったことができるほど、オレの身体能力は向上していた。

 今ならどんなスポーツでも世界一をとれそうなほどだ。

 転生からたった5日でこれである。

 楽しくなるのも無理はないだろう。


 倒した魔獣の体が赤い光の粒子に変わり、オレの体に吸い込まれていった。


 全身に力が漲るのを感じる。


 リス型魔獣を倒していたときとは段違いだ。


 オレは近くの木に剣を振るってみた。


 重めの手応えこそ感じたものの、大人が抱えきれないほどの木を剣は通り抜けた。

 やがて木はゆっくりと倒れていく。


 凄い力だ。

 リスではなかなか能力が上昇しにくくなっていたのでここに来てみたのだが、強い魔獣を倒せば能力上昇の上限も高くなるのかもしれない。


 さらにオレは近くの岩を斬ってみた。

 が……折れたのは剣の方だった。

 なまくらなのに酷使したからなあ。


 しょうがない。いったん城下街に戻るか。


 ――こ、こないでぇ!


 そう思った矢先、オレの五感は遠くで響く女性の悲鳴を捉えた。


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