第10話

「ええっ?!再会した幼馴染彼氏がヤクザだったぁ?!」


「しーーっ!!声が大きい!!」


…隆の例の一件から一週間。


再会から付き合っておよそ半年。


秘密にしとかなきゃって思ってたけど、一人で背負うにはあまりにも重くて、私はとうとう、昼休みに親友の皐月に、隆とのことを打ち明けた。


「誰にも言わないでね!主任や部長に知られたら、私…」


「言えるわけないじゃない。同僚が反社会勢力の人間と関係持ってるだなんて…で?何かされたの?」


「う、ううん。隆は、そう言う事は全然私に話さないから…」


「そう…で、アンタはどうしたいのよ。」


「えっ?!」


「だから、分かった上で付き合って行くの?それとも、別れたいの?」


「わ、別れるなんて、全然考えてない!す、好きだもん!!でも、危ない目にまた会うんじゃないかって、不安…」


「まあ、普通の道歩いてるわけじゃないから、そう言う心配は、付き合っていくって言うなら、これからもついてまわるでしょうね。」


「なによ。皐月のイジワル。そんなに不安煽らないでよ…」


「当たり前のこと言っただけよ。…と言うか、アンタ今日、やけに少食ね。サラダとおにぎり一個だなんて。」


「えっ?あ、うん。なんか最近食欲なくて…ムカムカするし、脂物は控えてるの。生理も遅れてるしさぁ〜…なんか調子悪くって。」


「ちょ!アンタまさか、彼氏とヤる時避妊してないとか、ないわよね?」


「ん?避妊は、してるよ。外出し。でも、一回だけ中出しされたっけ…」


「アンタ…なんでゴムしないのよ!?」


「だ、だって隆…ゴム嫌がるから…」


「バカ!ちょっと強引にでも言ってしてもらいなさい!!外出しでも妊娠するのよ!?って言うか、もうしてんじゃない?!」


「えー…そんな事無いって!ちょっと体調悪いだけ!皐月心配し過ぎ!」


そう言ってケラケラ笑ってたら、皐月は私の腕を掴み、近くのドラッグストアに連れ込み、妊娠検査薬を買って私に突きつける。


「取り敢えず、調べてみな!!」


「えー。大丈夫よ。」


「良く無い!!ウチの姉貴も、悪阻で少食になったりしたし、生理も遅れてるんでしょ?!いいから、トイレ行って調べて来なさい!!」


「もー…皐月の心配性ー…」


そうわらいながら、取り敢えず安心させなきゃと思い、私はトイレに入って、検査薬におしっこをかける。


「えーと…陽性なら、この窓に1本線が入るのね。って言うか、こんな棒で分かるなんて、便利〜。」


なんて他人事みたいに検査薬を見ていたけど、出た結果に、私は驚く。


「……ウソ。」


そう。


検査窓には、妊娠を示す陽性の1本線がくっきり出ていて、私は目を見開く。


「えっ、ええっ!!!」


「ど、どうかした!?智枝!」


トイレの個室の扉のむこうから聞こえる皐月の声。


と、取り敢えず、結果、見せないとね!


そう思い、個室を出て、彼女に検査薬を見せる。


「よ、陽性じゃない!!」


「う、うん。私も、びっくり…」


呆然としていると、皐月はスマホを取り出し、どこかに電話する。


「さ、皐月?!」


「主任に連絡して、午後から休み貰うの!!病院行かないと!アンタは彼氏に連絡!」


「えっ!でも、多分隆、仕事中…」


「バカ!アンタ彼氏の子妊娠してるのよ!?彼氏も当事者じゃない。大人なんだから、責任取らさないと!」


「う、うん…」


ちょっと迷ったけど、妊娠は私一人の問題じゃないしと思い、隆に電話する。


すると…


「もしもし智枝?どうした?」


優しい、いつもと変わらない隆の声。


不意に、涙が溢れてくる。


「お、おい…泣いてるのか?どうした?」


「ご、ごめん。ちょっと、安心して…」


「安心て…どうしたんだよ。何かあったのか?」


「う、うん…あのね、隆…」


「うん?」


「な、なんか私、に、妊娠した、みたい…」


刹那。


ガシャンと、スマホが落ちる音が耳をついて、私は瞬く。


えっ?!ええっ!?


動揺していると、少しの沈黙ののち、隆の思いもよらない言葉が返ってくる。


「で、」


「で、で?」


「でかした智枝!!男か?!女か?!」


「えっ!?あの、まだ、検査薬の段階。これから病院行くの。だから、ついて来て欲しいなぁって…」


「なんだよ。まだそんな段階かよ!分かった!タクシーで行くからちょい時間くれるか?どこの病院?」


「えっ?あ、今、友達に調べてもらってる…」


「そっか。じゃあ、決まったらメールくれな?!すっ飛んで行くから!」


「あ、うん…」


そうして電話を切ると、皐月にズイッと詰め寄られる。


「なんだって?ヤクザの彼氏。」


「や、やめてよその呼び方!な、なんか、すごく喜んでくれてた。」


「ホント?」


「う、うん。でかしたって…これで違ってたら、何かガッカリさせそうなくらい…」


「そ。ならいいけど…主任には上手く言っといたから、今からこの病院行くわよ!」


「う、うん!」


そうして私と皐月は、呉市内のとある産婦人科に向かった。


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