第30話 お一人様用、錬金術コーナー ①

 B級ダンジョンでは、いままでとは色々と変わる事が増えてくる。


 まず、魔石に込められている魔力の量がふえ、買い取り価格も1万円にもなる。

 これはうれしい内容だ。


 で逆にわずらわしいのが、敵も今までの単一種ではなく、混合タイプになってくる。


 一般的には相手に合わせた戦い方を要求されるため、パーティーだとさらなる連携が大事になる。


 ここのダンジョンではオーガと、それに従う邪精霊になる。

 種族のちがう遠近両攻撃がそろい、連携プレーもなかなかの物だ。


 だけど、それでも俺の敵ではない。


 瞬時に後衛職をねじ伏せて、強化や援護を許さない。


 ここまでくれば後は簡単でいままで通り。

 こちらにたどり着くまえに、筋肉自慢を撃ち取っていく。


「そっこだー、バッキューン!」


 それとおれ自身も、昨日までの俺とは桁違いなんだよ。

 その理由はレベルが上がったとか、新しいスキルを手に入れたとかの、そんなチンケな事ではない。


 実は今朝早く、エミリさんが渡しそびれたと、わざわざプレゼントを届けてくれたんだ。


《昨日はみんながいたから恥ずかしくて。よかったら使ってね》


 小走りで去る姿がかわいくて、脳内での画像保存バッチリさ。


 貰ったのは皮の手袋。

 すっごくオシャレで柔らかくて、エミリさんも愛用しているブランドだ。


「つまりだよ、それは〝お揃い〞って事になるんだーーー、はーはっはっはっはー!」


 それでテンションを上げるなって方が無理な話で、誰にもこの情愛は止められない。


「ドゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!」


 花火代わりの連射でお祝いだぜ。

 全てのオーガを狩りつくすつもりで、どんどんと奥へと進んでいった。


 大量のアイテムと魔石を手に入れて、最終のボス部屋にまでたどり着いた。


 それでいつもなら、速攻でボスを叩き潰すのだけど、今日は勝手が違っていたんだ。


「なんで扉が2つもあるんだよ?」


 いや、ひとつはいつものボス部屋の重厚な造りの扉ではない。ガラス張りで中が丸見えの入り口だった。


 中は4畳ほどの広さで、奥の壁側には四角い機械のような物が設置されている。

 そして外には看板が掲げてある。


 〓◉お一人様用、錬金術コーナー◉〓


 綺麗な二度見をしたよ。


 全体のパッと見た目は、銀行のキャッシュコーナーそのもの。

 唯一の違いは他に人がいないだけだ。


 好奇心に勝てず、中へ入ってみる。

 罠が仕掛けてある気配はないどころか、中から鍵がかけられる。


 壁の機械を覗き込むと、画面部分が点滅し開口部が自動で開いた。


「うおおおおっ、びっくりしたーーーー!」


 普段慣れた文明も、周りの環境が変わるだけで途端に脅威と映るものだな。

 危うく撃ちそうになったけど、すんでのところで踏みとどまった。


 その点滅している画面を見ると。


❰主剤となる装備をお入れください❱


 とある。


 外の看板を鵜呑みにすれば、ここは装備を何かしらの変化をもたらしてくれる場所になる。


 逆に疑えば、考えられる事など無限にある。

 怪しすぎる事この上ない。


 だが、俺は自慢じゃないが馬鹿である。地雷と分かっていても、その先に幸せがあれば突き進むのみ。


 とはいえ、小心者の馬鹿だから、試すアイテムは慎重に選んでしまうよ。それはしょうがないよね、うん、しょうがない。


 いま持っている装備は4種類。


 早撃ちのガンベルト(敏捷アップ、MP回復)

 保安官バッジ(拘束スキル使用可)

 深淵のゴーグル(マッピング機能)

 幸運の指輪(認識できない程度の運がアップ)


 犠牲になっても惜しくないのはひとつだけ、幸運の指輪だ。

 できの悪い子ほどカワイイと言うが、これには全く愛着はない。

 賽銭箱に五円玉をいれる感覚で、ポイっと指輪を投げ入れた。


「よいしょーー、ご利益あるかなー?」


 ワクワクしながらいると、画面の文字が変化した。


❰必要素材:Bランク以上の魔石 1個❱


 手続きがまだあったかと苦笑する。


 求められる魔石もいれると、また画面が変わり質問のあとに、Yes/Noの選択肢がでた。


❰成功率100%、錬金術を開始しますか?❱


「やるに決まっているだろ。逆に1%の不安でもあればやらないけどな!」


 悪態をつきながらも、Yesのボタンをタップした。

 するとフタが閉じ、軽快な音楽が聞こえてくる。


 画面には❰しばらくお待ち下さい❱とあり、すぐに指輪は出てこなかった。


 長い曲が終わり、3回目に突入したが指輪はまだ出てこない。

 キャッシュコーナーみたいに、すぐ出てくる物だと思っていた俺にしたら、1分だって長すぎる。


 痺れが切れそうになった頃、ようやく画面がかわり開口部のふたが開いた。


「ふう、ちゃんと返ってきたか。詐欺のたぐいではなかったな」


 だが見た目は元の指輪のままだ。何か変わったのかと装備をし見てみた。


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『幸運の指輪』


 ほんの少しだけツイている気がする指輪。


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     ⇩  ⇩  ⇩

 ───────────────────

『幸運の指輪Ver2』


 少しだけツイている指輪。


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「Ver2って。そ、装備なのに進化していやがる!」


 変化はプチ整形のレベルだが、こんな事例は聞いたことがない。


 バン・マンの時みたいに神様の語りかけはないが、まぎれもなく能力が上がっている。


 たった1個の魔石で仕上がるのなら、だんぜんお得な取引だよ。


「えっ、もし全装備を進化させたら凄いことになる?」


 粘り気のある唾をゴクリ。

 どうなるか想像もできないが、大変な事になるのは間違いない。


 画面がキラリと光り誘ってくる。

 それはまるで、俺がいつも開いてしまう広告バナーのような誘いかただ。


 バナーは楽しい情報を与えてくれる俺の友。

 まさにこの機械も俺にとって、かけがえのない存在になるだろう。


 歓喜の声をあげ騒いでいると、また開口部が開き、画面がまた点滅している。


❰主剤となる装備をお入れください❱


「おおお、また誘ってくれているよ!」


 甘い誘惑を素直に喜びジャンプする。

 安全性が立証されたいま、ためらうことは何もない。


 やるならトコトンやるのみ、それが男の生きる道だぜ。


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 番場 秀太

 レベル:35

 HP :575/575

 МP :1205/1205

 スキル:バン・マンVer4


 〈攻撃威力:3500〉


 筋 力:50

 耐 久:120

 敏 捷:150(+50)

 魔 力:250


 装 備 早撃ちのガンベルト

     保安官バッジ

     幸運の指輪・Ver2(New!)

     深淵のゴーグル

 ステータスポイント残り:50


 所持金 500円

 借 金 28,500,000円

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