第20話 C級ダンジョンの罠 ②

 路線バスもない僻地へきちなので、レンタカーを借りてやってきた。


「空気うまっ!」


 ダンジョンの存在が似合わない、のどかな風景。

 それでもダンジョン協会の機械は置いてある。


 今日のターゲットはゴーレムだ。

 そのドロップ品は、価値のある金属がおおい。

 一気に借金返済も夢じゃないぜ。


 周りに誰もいないのだけど、息を殺してハンタープレートをピッとし中へ入る。


 洞窟タイプのダンジョンで、声がよく響く。


「おーい、誰かいますかーー? いたら返事してくださーい」


 しばらく待つが返答なし。人の気配は一切ない。

 思わず軽いガッツポーズをしてしまう。


「今から乱獲を始めまーす」


 誰に言うのでもないが、断りを入れたいのは小心者のサガだ。

 やはり若干あの2人には、申し訳ないと感じているんだよ。


 少し進むと、早くもストーンゴーレムと遭遇。

 核になる場所を見極めて、ピンポイントで狙っていく。


「まずは一発目だ、いくぜ。バン!」


 核は簡単に砕け、物言わぬゴーレムの体が崩れていく。

 核は硬いと聞いたけど、この分なら問題ない。

 それどころか、ステータスポイントを余らせていてもこの余裕だ。

 これならB級でも、普通にいけそうな感じだよ。


「Ver2で充分だな。次々いくぜ」


 地形が複雑になるC級ダンジョンでも強気なのは、最近手に入れた自動マッピングつきゴーグルのおかげなんだ。


 これで深い階層に行っても迷う心配はなく、この性能に満足だ。


「バン、バン」


 ゴロン、ゴロンと魔石だけが残る。


「バン!」


 また魔石だけだ。


「うーん、ドロップしないなぁ」


 そこそこの数を狩ったが、未だにひとつのアイテムも出ていない。

 連戦と言っていたので、試しにまとめて倒したのだが全く変化はない。


 深い階層とか限定かもしれないし、あきらめずに奥へと進む。



「バカ押すな、見つかるだろ」

「イテテッ、勘弁してくださいよ」


 先の方で人の声がした。

 このダンジョンで、初めて他のパーティーに出会えた。

 きっとアイテム狙いのライバルだ。


 と言うか、俺の成果はゼロだから競争相手になってない。

 ここは恥を忍んで、ドロップの事を教えて貰えないか聞いた方がいい。


 ダメ元と思いつつ声をかける。


「あのー、こんにちは」


「ぎゃーーーーー、見つかった!」


 腰砕けの3人組、ハンターらしくない驚き方に笑いそうになる。

 こらえながら近づくと、彼らは見覚えのある人物だった。


「あっ、チャラ男ッチ?」


 と、その取り巻きのBランクの2人。

 C級ダンジョンに似つかわしくないメンバーだ。


「お、おう、奇遇だな」


 バツが悪そうなチャラ男ッチ。

 取り巻きにわき腹をつつかれ、挨拶をしてきた。

 うしろ2人もいつになく愛想が良くて、すげえ怪しい感じだぞ。


「上位者がこんな所で何しているんだ?」


 こちらの質問にビクンとはねる。これで俺は察しがついた。


 まずこんな辺鄙な場所に、チャラ男ッチがいること自体が怪しい。

 コンパとは無縁な場所に、理由もなくチャラ男ッチがわざわざ来るはずがない。


 つまりAランクが来る程、ドロップアイテムに旨みがあるって事だ。


 理由が分かってしまうと、心臓音が大きくなり緊張してくる。3人はライバルだ。


 そうなると、話は聞けない。マウントをとってきて面白がるだけだ。


「じゃあ、俺はこれで!」


 逆にこちらが知らない事を教えるのも癪だし、距離をとるのが正解だ。


「おい待てよ、弱バン・マン。ひとりじゃ危ねえから付いて行ってやるよ」


 行く手を塞いでくる3人。

 どうやら向こうも苦戦しているみたいだな。

 こちらに乗っかろうとしているのがバレバレなんだよな。


「いえ、結構です。1人でやりますので」


「バーカあそこを見ろ。ここの地形ギミックは半端ねえぞ」


 ぽっかりと空いた大穴。

 その先は角度のきつい傾斜になっていて、一度落ちたら戻ってこられなそうだ。


「で、ただの穴じゃねえ。あそこの白い所を見ろよ。あれがトリガーになってんだ」


 指差す方を見るがわからなくて、目を凝らして覗き込む。


「違うぞ、あの奥だ、よく見ろ!」


「どれですか……わっ!」


 背中に衝撃を受け、バランスを崩してしまった。


「ニヒッ!」


 ぐるりと仰向けなり、見上げた先のチャラ男ッチが笑っている。


「その先は地獄だ。がんばれよー、ギャハハハ」


 憎たらしいその姿は、すぐ見えなくなり笑い声だけが響いてきた。




 ぐんぐんとスピードを増して滑り落ちている。

 右へ左へと振られるので、止まれそうにない。


 随分と長い距離を滑り落ち、ようやく淡い光が見えてきた。


「ぐはっ!」


 投げ出され地面に叩きつけられる。

 この衝撃に耐えられたのは、強化されたステータスのおかげだ。


 HP回復薬を一口のみ、あたりの状況を確認する。


 たどり着いて部屋は、体育館くらいの大きさで奥に扉が1つだけある。

 逆側の滑ってきた出口は高すぎて、手が届きそうにないな。


 ゴーグルには10階層と表示されているので、きっとここが最深部だろう。


 それが全部の情報だ。

 それ以上は何もなく、少し落ちつく事ができた。


「はあ、男の嫉妬は醜いよなー」


 押してきた時のチャラ男ッチの表情を、思い出したら身震いがきた。

 あわれな小者感でいっぱいだったよ。


「とりあえず無事に帰って、ビビらせてやるか。小便漏らすかが楽しみだぜ」


 フッと笑い一歩を踏み出すと、部屋の明かりが一変した。

 青みがかった沈んだ色合い。

 いかにも今から何かが起こりそうな演出だ。


 すると扉付近の壁から、ゴーレム達が湧き出てきた。


 ボコボコと際限なく湧いてくる。

 30体を超えたところで、数えるのをやめにした。


「全部殺れば済むことさ、バン!」


 この10階層でも、Ver2が通用すると確認できた。

 体が熱くなっているが、頭はクールで行けそうだぜ。


「さあ、まとめてかかって来い!」


 一体ずつ中心部にある核を狙って倒していく。


 弾丸をVer2のままにして、MP消費を抑えつつ持続型MP回復薬で様子を見る。


「そこー、バン、バン、バン」


 囲まれないよう常に移動をするので、アクロバティックな動きなる。

 後ろだけは取られないよう気にするが、そもそも相手が弱すぎて話にならない。


 7回目のリロードする頃には、敵の姿はなくなり、あとに残ったのは魔石の山だ。

 ここで以前なら、拾い集める事にゲンナリしていたが、今日の俺はちと違う。


 それは秘密兵器があるからさ。


「フッフッフッフー、伝家の宝刀とくと見ろ、ジャッキーン!」


 マジックバッグから、立ったまま使えるほうきとチリ取りを出した。

 これさえあれば、腰痛に悩ませられないぜ。


「フフフッ、我ながら自分の才能が怖くなるぜ」


 サッサ、サッサと集めては、袋の中に入れていく。

 よどみなく動く姿は、まるで竜のようさ。

 その秘密は工夫を加えたチリ取りにある。ゴミは落ちるよう穴をあけているんだよ。


「はーっはっはー、楽ーーーーー!」


 モンスターハウスとは恐れ入ったけど、稼ぎたい俺にしたら願ったりのダンジョンだ。

 これで一気に30万円は儲けたよ。


「だけどアイテムがひとつも無いのか、ふぅ」


 これはやっぱりあのネタ自体がガセネタだったのかもな。

 内緒話をしていたのも、たぶん爆炎獅子のメンバーだろう。

 手の込んだ事をしてくれるぜ。


「さっさとボスをやって帰るか……ん?」


 扉を開けると少し固まってしまった。

 汗で曇ったゴーグルのせいで、また同じ部屋に入った気分だ。


 他事ほかごとを考えていたせいだろう。おっちょこちょいだとな自嘲し、ゴーグルを外す。

 が、景色は変わらない。前も後ろも同じ造りだ。


「も、もしかして?」


 その言葉と同時に次の部屋が青くなっていく。

 ボコボコと壁が盛り上がり、ゴーレム達が湧き出してきた。


「嘘だろーーー、少しは休ませろよ!」


 久しぶりの大絶叫、喉がすこし潰れました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る