対策

「それでは、これより補習対策を始めたいと思う。異論があるものは挙手を」

「はい」

「なんだね茜くん」

「帰っていい?」

どうして僕が呼ばれたのか、理由は分かっているがそう何度も騙される僕も悪いんだろうな。

「ていうかなんで毎回赤点を取るんだ?絶対勉強してないだろ」

「俺たちはいつもここで勉強してるぞ」

静と百奈は顔を見合せて「なぁ〜」なんて言ってる。それが原因だということに気づいてくれないか。

つっこむのもめんどくさいので、さっさと終わらせようと教科書を開く。でもその前に聞いておかないと。

「なんで天城さんもいるの?」

「私が誘ったの」

「どうして」

「雨音ちゃんって賢そうじゃん」

理由がめちゃくちゃだ。お前は人を見た目で判断するなと道徳で習わなかったのか。

「天城さん、嫌なら帰っていいですよ?どうせ今から帰るまで勉強しかしませんし、そんなに楽しくないので」

だが、彼女の手元を見ると既に教科書と筆箱が用意されていて、テスト範囲のページまで開いていた。やる気満々といった感じだ。

「任せてください。これでも勉強は得意な方でしたので。今回もギリギリ赤点は回避出来ました」

それって凄くないか?彼女は病気で前の日の記憶が無くなっているのだから、やるならテスト当日に全暗記するしかない。相当効率のいい勉強をしているのかな。

「お前ら、天城さんに負けるって相当やばいな」

「返す言葉もございません」

そんなことを言う暇があるなら勉強しろ、とひとまずテストの間違えた問題を確認する。

教科は古文。我が校において最も最恐と名高い我らがOBであり、教え方は上手いが性格にかなりの難がある先生だ。

もちろん問題もかなり難しく、平均40を切るのはザラにある。

「やっぱ訳と心情読み取りが鬼門だな」

改めて見ても難しい。やるならまずは単語から、そこを二人はいくつか落としているので小さな所から積んでいかないと補習までの短期間では仕上げられない。

「単語からやろう。さすがに心情読み取りは無理だ。これを真面目にやるなら訳と単語でほぼ完璧を目指した方が良い」

「訳は私に任せてください。なので茜くんは間違えやすい単語をまとめてあげてください」

分担して2人に教えるのは、1人の時と違ってだいぶ楽だ。あっという間に6時になり夕暮れが窓ガラスから差し込んでくる。

「そろそろ終わろう」

「ふーっ」

静と百奈は力尽きたように机に伏している。ちょうど夜ご飯も近いとあってお腹が空いてきた。

「なんか頼みながら勉強したら良かったね」

「でもみんなで食べるって言ったらポテトとかだし、手が汚れるから頼まない方が良かったんじゃないか?」

「じゃ、今から頼もうぜ」

静がボタンを押す。店員がすぐにやってきて静はポテトを注文してしまう。

「いいのか?」

「いいよいいよ。勉強に付き合ってくれたお礼も兼ねて。天城さんも、急な百奈の誘いなのにありがとう」

「そんな、お気になさらず。私も誘ってもらえて嬉しかったので」

すぐにポテトはやってきた。ケチャップとマヨネーズがついた1番スタンダードなやつが。

「美味し〜。やっぱポテトはケチャップだよ」

「えっ、俺マヨネーズ派だけど」

まさかの2人の好みが違ったという事で百奈はショックを受けていた。そんな2人の会話を見て天城さんも笑う。

「ありがとうございました」

店員の挨拶を背に店を出る。

もう日はほとんど落ちて、空が紫とオレンジに染まる。まだ半分顔をのぞかせる太陽が眩しい。

「それじゃ、俺たちはこっちだから」

「バイバーイ」

2人と別れて僕達は歩き出す。

「ホントありがとう。いつも一人で教えてたからさ、大変だったけど今日は助かったよ」

「そんな、私も人に教えるの楽しいって気づけて良かった」

彼女が百奈や静に教えている時は確かに生き生きとしていた。そんな表情もするんだと新たな一面が見れて嬉しかった。

「それじゃあ、次があったらまた誘ってもいいかな?」

僕は勇気をだして彼女を誘う。

どんな返事なのだろうかと内心ドキドキしていると、彼女は吹き出して笑いだした。

どういうことかと考えていると、彼女は笑いながら言う。

「それって、2人がまた赤点取ると思ってるってことですよね」

「っ、確かに」

僕も思わず笑ってしまった。

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