第一章(4)
翌日の朝、俺は学校に着くなり、いつものように下駄箱で靴を履き替えていた。
そこへ珍しく、涼宮ハルヒがやって来た。いつもは教室で会うことが多いんだよな。
ハルヒはいつになく真剣な面もちで、昨日の異世界ファンタジー小説漁りについて考えてるのは明白だった。
「で、昨日の異世界ファンタジーの本はどうだった? 何か面白いのはあったか?」
変なこと言い出す前にこちらから聞いてやった。ハルヒは真剣な面もちを、一挙に不機嫌顔へ転化させて、
「全ッッ然、ダメだったわ。どれもこれも同じような話で、退屈極まりないったらありゃしない。なんであんなのが売れてるのかしら? ま、ハードルが下がっていいわよね。今に見てなさい、私が新しいブームを作ってやるから」
その一言一言からは、どれだけガッカリしているか、もとい、どれだけ意気ごんでいるかが伝わってきた。
授業も終わり、放課後SOS団の部室に集まった時、話題は自然と『どんな小説を書くべきか』という議論へと移った。
しかし、俺はすぐに長門がいないことに気がついた。何にもない時でも部室の隅で分厚い本を読んでる長門がいないなんて、あいつ、もしかして異世界ファンタジーは守備範囲外なのかな?
ハルヒはそれに気づいていないのか、それとも待ちきれないのか、たぶん両方だろうが、
「だからさ、もっと斬新な異世界物を書くのよ。主人公が生まれ変わるとか追い出されるとか、そういうありきたりな設定じゃなくて、もっとオリジナリティ溢れるもの」
そう切り出した。その〝ありきたり〟とやらも、最初は斬新だったのだろうと察するがね。
「涼宮さんの言う通りですね。ただ、そのためには僕たちも異世界ファンタジーについて深く理解する必要があります。特にそのジャンルの成功作とされるものの、何が読者を引きつけているのかを把握することが重要です」
ちょうどお茶を入れてきた朝比奈さんは、アイデアを求められ、
「えっと、主人公が魔法の力を手に入れて、異世界で……えーっと、カフェを開く…っていうのはどうでしょう?」
「みくるちゃん、それじゃあただの日常系じゃない。もっとドラマチックで、読んでる人が『こんな世界に行ってみたい!』って思うような話よ」
古泉の毒にも薬にもならん論評と、朝比奈さんのほのぼのとした発言で議論は白熱していくが、長門は終始現れなかった。部活が終わる頃、俺は本気で心配になってきた。
そんな俺の様子に、ハルヒも気がついたらしい。空っぽのままの椅子の上に眼差しを向けて、
「有希、今日は来なかったわね。珍しいこともあるもんね?」
「ああ。何かあったのかな……」
ハルヒは少し考えこむようにしてから、何事もなかったかのように明るく言った。
「…いいわ、明日聞けば解るだろうし。今日はこれで解散! キョン、今日も昨日の本屋に寄って行くわよ。ついてらっしゃい」
どうやら団長様から直々のご指名のようだ。俺はうんざりしながらも、残る2人に励まされ(あるいは冷やかされ)、ハルヒの後を追った。
にしても長門のやつ、前みたいにオーバーヒートして高熱を出したりしてなければいいが。長門がいない一日は、なんだか落ち着かない。
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