Chapter5 作戦会議

 8時35分。


 孝之は十三駅の豊中とよなか・宝塚方面の電車が発着する3号線ホームにいた。

 しかし、1分前に新たな位置情報の報告があり、充は十三駅を8時34分発の電車で出発していることが分かった。

「マジか……」

 先ほどの西宮北口からの乗車報告で、宝塚行きの可能性が高いと踏んでいたが、失敗。

 ターゲットは意外にもすぐ近くにいて、そして逃走を許してしまった。

 しかし、ここで悔しがっている場合ではない。

 孝之と俊樹の鬼チームは、制限時間内に逃走者みつるを捕まえることがミッションだ。

 打ち合わせのため、阪神電車に乗った俊樹に電話をする。

「もしもし~」

「孝之くん、どうやった?」

「充、十三いたみたいやけどあかんかった」

 あー、スマホの向こうで俊樹の残念そうな声が耳に届いた。「まぁでもしゃーないな」

「ところで、俊樹は今どこいるん?」

「阪神の神戸三宮駅」

「俺はご存知の通り十三やで。……ちょっと待って‼︎」

 孝之は何かを見つけた。

「ど、どうしたん?」

「……あれ、ミッフィーやん!」

 現在、阪急電鉄はミッフィーとのコラボ企画を行っている。その一環として、ミッフィーとなかまたちが阪急沿線をめぐる様子を装飾した列車が、神戸線・宝塚線・京都線で運行されていて、車内は、ミッフィーが阪急沿線を紹介するポスターや各線限定デザインのステッカーなどが貼られている。

 ミッフィー号は各線1編成しか走っておらず、見ることが出来ればかなりラッキーだ。

 ちなみに孝之は、宝塚線を走るミッフィー号は見たこと、乗ったことがあるが、神戸線の車両は初めて。

 いつかは見てみたい、そう思っていた電車が、今、孝之のいる2・3号線乗り場の反対側のホームに停車している。

「おいちょちょちょ……いやこれごめん、一旦切るわ」

 早歩きで隣のホームに移った。

「おぉおぉ~! すごいすごい! これが神戸線のミッフィー号か……」

 孝之、大興奮。

 すぐにバックの中からデジカメを取り出して、シャッターボタンを押しまくる。

 イベント列車や珍しい車両を見ると、鉄オタは何があろうとそちらの方に惹かれてしまう。

 これが鉄オタの性だwww(むっちゃ分かります by 作者)

「ごめん、で、これからどうする?」

 孝之が電話をかけ直して、2人はこの後の作戦を相談した。

「さっきの乗車報告、8時34分の便やったやん」

「うん」

「それで、電話切られてる間に調べてんけど、十三を34分に発車する電車は、京都線やと普通の茨城市いばらきし行きと快急の大阪梅田行き。宝塚線は普通の同じく梅田行き。で、神戸線は通特の高速神戸行き。この4本やねんな」

「十三やから、結構あるな」

「でも、正直言って、快速急行と普通の梅田行きはたぶんやけど、乗ってへん可能性が高い」

 俊樹の推理によると、充が西北から乗車した列車が「梅田行き」だったため、梅田へと向かうのではあれば、その列車を乗り通すはず。十三で一度降車して他の電車に乗り換えるという手間はしないはずということだった。

「さすがです、清水探偵局長」

「おい、その呼び方やめろ! これで俺、大変なことなったんやから!」

「何があったん?」

「前言ったやろ!」 

 この2人の少々の言い争いは置いておいて。

「そやから、充君が乗ってる可能性が高いのは、京都線の茨木市行きか神戸線の高速神戸行きの2つやな」

「そやな」

「2パターンやから、さっきみたいに2人で分かれて行動すれば、たぶんいけるはず」

「あのさ、茨木市行きは普通やから追いかけていい?」

「いいすよ」

「神戸頼むわ」

「オッケー。じゃあ、俺はとりあえず、阪急の神戸三宮駅に向かうわ」

 通話が終了した。

 孝之は早速、5号線ホームへと向かった。

 


 ☆次回 Chapter6 まさかの急接近!?

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