Chapter2 充、逃走開始

 逃走を始めた充がまず向かったのは、阪急電車の大阪梅田駅だった。

 阪急とは、大阪、京都、そして兵庫県へ路線を伸ばしている鉄道会社のことである。

 阪急の1番のターミナル駅は大阪梅田駅で、1号線乗り場から9号線乗り場まである頭端式とうたんしきホームの駅で、その規模は日本一大きい。

 また、毎時10分ごとに、阪急京都本線、宝塚本線たからづかほんせん神戸本線こうべほんせんの電車が同時刻に発車するいわゆる、「同時発車」は、多くの鉄道ファンを魅了している。

 充はまず、阪急で大阪梅田を経ち、できるだけ遠くへと逃げることにした。

 人は追われる身になった場合、本能的に今いる現在地点からできるだけ離れようとする。

 今回の鬼ごっこの場合、その行動は正しい。

 ゲームの開始時間は8時からだが、充はその30分前から動くことができる。

 つまり、この30分間をうまく利用して、より遠くへ行くことができれば、すぐに確保される可能性はスタート地点の近くにいるより、低くなる。

 改札に1day パスを挿入し、ホーム内に入った。

「とりあえず、一番出発時間の早いやつに乗るか」

 一番早くこの梅田の駅を経つ列車は、7時36分発の神戸本線の「通勤特急」の高速神戸こうそくこうべ行きだった。

 停車駅は、十三じゅうそう塚口つかづち西宮北口にしのみやきたぐち夙川しゅくがわ岡本おかもと神戸三宮こうべさんのみや花隈はなくま、高速神戸。平日の朝、6時10分〜9時20分までの間で運行されている種別だ。

 充は一番後ろの車両に乗り込んだ。

 定刻になり、ドアが閉まる。高速神戸行きの列車はゆっくりと心地の良い音を響かせながら梅田を出発した。

 充は背負っていたリュックの中から、関西の鉄道路線図を取り出した。今は1分1秒でも早く大阪梅田駅を去りたかったので、最初に向かう目的地は決めていない。なので、どういう風に逃げていこうか、車内で移動中、作戦を練りまくるつもりなのだ。

「この駅は……こことここは……こう行くと……」


 最初の目的地が決まった。



 ☆次回 Chapter3 作戦第一弾

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