第3話



 今日は珍しく本拠地を離れての索敵任務なんだけど、森の中だから見晴らしが悪すぎる…。木の上に乘っても他の木が邪魔すぎる。


しかも—



『おい、フィード!敵は見えるか!?』


 そう、なぜかルイスと一緒なんだ。

 もちろんルイスのバディでもあるガルシアさんも一緒だし、その他の隊員も何名かいる。無線と索敵がしたいなら俺のところに来いって言われて無理やり連れてこられたけど、正直ルイスの声がうるさすぎてちゃんと音とかの判断できない。


『今やっているから静かにしてもらえます?』

『早くしろ。こっちは暇すぎて寝そうだ。』

『寝ててもいいんだよ?俺たちはルイスの事置いていくから。邪魔してごめんね、フィード。』

『いえ…。』


 ちょっとちょっと、静かにしてって言ったそばからガルシアさんも入ってきたし、通信で言い合いしないでほしいんですけど。そして巻き込まないでくださいー。すっごい気が散る…。

 前の訓練からゴーグルに搭載されてるAIと会話をしてみたり、日常生活でもつけてみたりしたんだけど、そしたらちょっとだけ僕の癖を覚えてくれたみたいで、訓練も少しうまくいくよになった。そしてなにより、通信機能がすごくいい!


— 敵を確認した。マークしてもらえる?

【承知しました。マークします。】

『隊長、敵が見えました。』

『どこだ。』


さっきまでふざけていたとは思えないほどの緊張感。こういう切り替えの早さだけはは尊敬するんだよな。


『今隊長たちのいる場所から東に約600メートルで、反応は2つです。』

『何人かわかるか?』

『固まっているのか詳しい情報はわかりません。』

『わかった。』


 今日の索敵でわかったのは、僕が見えている敵に対してはマークが欲しいって言ったらAIがマーキングしてくれるように変わっていた。前はところ構わず敵と認定されたものはマーキングされてたけど、設定でガルシアさんが変えてくれたみたい。マーキングの強さも周りがちゃんと見える様に変わっていたし、敵の距離が前より見やすい大きさになってた。もちろん見えてない敵とか攻撃も少しマークしてくれるみたい。

 ガルシアさんのおかげでイライラしなくて済みそう。訓練じゃそういうところはわからないからちょっと無理やりだけど感謝しないとかな。


【急接近している敵を確認。マークします。】


!?

 敵の急接近!?

 マークは…ってもうあと300メートルまで迫ってる!


― 全員に共有できる?

【周囲の味方に共有します。】

― ありがとう。

『隊長、今マークした敵が東から急接近しています。気を付けてください。』

『わかった。何か追加で情報がわかり次第報告してくれ。』

『わかりました。』


 突然急接近してくるなんて敵は何を考えてるんだ…。索敵しているんだからすぐばれるじゃん。急接近している敵のほかにもまだいるからそっちも見ないと


…ってあれ…いな、い?


え…どこ行った!?


【サーチに引っ掛かりません。】

― 僕も見えない。どうしよう。

【隊長に報告するべきかと。】

― うん。そうだよね。


 AIに相談しちゃったけど、なんか一人じゃない感じがして少し安心する。そういう目的もあったのかな?って、のんきにしてる場合じゃないや。


『隊長、報告します。急接近している敵以外の反応が消えました。』

『なっ!?』

『申し訳ありません。急接近した敵に気をとられて見失いました。』

『いや、大丈夫だ。こっちでも確認する。』

『フィード、接近している敵はあと何メートルでこっちに着くかわかるかい?』

『はい。あと150メートルです。』

『わかった。ありがとう。』


 僕が見ていたのに申し訳ない。

 もしかしたら敵はサーチから逃げる手段を持っているのかもしれないし、この機能自体が壊れてしまっているのかもしれない。どっちにしても、僕は戦闘には参加できないから全力で敵を捜すしかない。


【敵検知しました。マークします。】


!!

 見えるだけでも10人はいる。他にもいるかもしれない。


【多数の敵に囲まれています。注意してください。】

― なっ!!ぜ、全員に伝えて!!

【承知しました。】


 ちょっと遅かった。僕が気づいた時にはすでに囲まれてたんだ。索敵を任されていた僕の失態だ…。

あれ?一人変な奴がいる。周りはゆらゆら動いてるのになんで一人だけ棒立ちしてるんだ?

と思った瞬間そいつは動き出した。


隊長を狙ってるのか!?


『ル…―』


違う!!ガルシアさんだ!!


『ガルシアさん逃げてください!!!敵が接近しています!』


 何でかわからないけどそいつはガルシアさん狙って動いていた。そして反射的に動き出し、あと一歩のところでガルシアさんは僕の目の前で刺された。ほんの一瞬の隙をつかれた。一瞬だったし遠いところから向かったから詳しくは見えなかったけど、敵もガルシアさんの攻撃を受けながらも、的確に急所を狙いに行っていたように見えた。ガルシアさんは横腹と足を数か所刺され、動かなくなってしまった。


 間に合わなかった…。


 索敵が甘かったせいで、検知が遅かったせいで、そもそも僕が無能だったから。AI機能付きのゴーグルがもらえて浮かれていた罰だ。

 魔力が少ない僕は応急処置程度の治癒魔法しか使えないし、ガルシアさんを守りながら戦うなんて今の僕には無理だ。どう、しよう…僕のせいで…―


『…ド!フィード!!』

『っ!!はい!』

『今の状況を教えろ。ガルシアと連絡が取れない。戦っている最中じゃ回りの状況がわからねぇ。』

『はい…。まず、敵が四方を囲い味方と接敵しています。敵の数およそ20人。一人だけ不審な動きをしていた敵がガルシアさんを襲い、戦闘の末お互い負傷しガルシアさんが重傷となっています。自分が止血等手当を行っていますが、止まりません。』

『10人ぐらい差があるじゃねぇかよ。ガルシアを刺したやつは?』

『何かを捜しているみたいで、まだガルシアさんの近くにいますが、傷が深いようでこちらに戦闘を再度仕掛けてくる様子はありません。』

『わかった。…引くぞ。』

『え?』


 引くって、撤退ってこと…?僕のせいでガルシアさんが負傷したから…?


『いいか、全員よく聞け。ガルシアがやられた。しかも敵との人数差がある。だから撤退する。いいかもう一度言う、ガルシアを守りつつ撤退する。ガルシアの近くにいるやつは申し訳ないが一緒に撤退してくれ。それ以外は敵を撒きながら撤退しろ。いいな?俺とフィードは隊の最後尾に付き撤退する。』


 索敵が最後に撤退するのはわかる。でもなんで最後尾…?あぁ、足手まといは最後ってことかな。


「ご、めん、フィード…。うっ、俺が撤退しきるまで、ルイスの事頼んでもいいかい?」

「ガルシアさん!無理して話さないでください!でも、僕なんかが戦える訳ないです。」

「俺、以外にルイスの背中を任せられるのは、フィードだけだと思ってるんだけど。だから、お願い。元バディ。」


 確かに入団当初はルイスとバディを組んでた。でも当時の隊長に「お前は戦闘には向いていない。魔力は少ないし、目がいいだけの無能だ。そんなお前は索敵とか書類整理が向いてるさ。ルイスには俺から伝えておく。黙ってさっさと本拠地に戻り索敵に回れ。」って言われて解消させられた。ルイスもそう思っていたのかその後何も連絡なかったし、気づいたら隊長になってるし。そんな無能って言われた僕がルイスとまた組むなんて無謀すぎる…。2人ともやられる可能性の方が高い。最悪ルイスだけでも撤退できれば…。


「フィードも一緒に戻ってくるんだよ。」

「え…?」


 ガルシアさんはそう笑って他の隊員に肩を借りながら撤退していった。


『フィード、全員が撤退するまでの時間でいいんだ。頼めるか。』

『ルイス…。うん。わかった。』

『ありがとう。”いつも通り”で頼む。無事に帰るぞ!』


 もう一回だけならいいかな、とか思った僕はやっぱり考え無しなのかな?でも人と組むのは久々、って言ってもルイスとしか組んだことないから3年ぶりぐらいか。


いつも通り、か。ルイスの指示は昔と変わらない。


『了解。』


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