第5話 ギルドの情報

 ゲイルと別れた後、ジークはギルドに顔を出していた。

 他の町のギルドと同じように入って正面に受付があり、そこまでの間に受付待ちの長椅子や、飲食用の机と椅子が置かれている。

 受付の右手側にいつもなら依頼が張られているクエストボード。張られた依頼書の上に『受付不可』と書かれた紙が貼られており、ドラゴンの動向次第で緊急防衛任務が出る可能性が高く、ほとんどの依頼が受注できないようになっているようだ。それとは別で、薬草などの回復薬の素材となるものの納品などは、いつも通り受け付けているようだ。

「ちょっといいか?」

 わたわたと動き回るギルド職員に声を掛ける。

「はい。何でしょうか?」

 どれだけ自分の仕事が忙しくとも、ギルドに来た人から声をかけられれば、仕事の手を止める。

「ドラゴンの情報を教えて欲しいんだが、どいつに聞けばいい?」

「ドラゴンですか? えーっと、一番いいのはギルドマスターに聞ければいいんですけど、いまは出向しているんで副マスターに聞けばいいはずです。副マスターは二階の執務室にいるはずなので、そちらにお願いします」

「ああ。ありがとう」

 職員に礼を言うと二階にある執務室に向かう。


 執務室の扉を叩くと、中から許可が出る。

「よく来たな、ジーク。いつぶりだろうか」

 副マスターは快くジークを迎え入れる。ジークとここのギルドマスターたちとは旧知の仲であった。

「豊穣祭以来だろうな。あまり長話をしている暇はないだろ。早速本題に入る」

 ドラゴンの動向をジークはまだ仕入れていないが、少なくとも町の状況を鑑みればいつでも緊急任務を発令する準備をしていると言った状態だった。

「ドラゴンの動向だね。観測隊からの情報だと、いますぐ侵攻してくるような気配はない。だけど、天気がね、あまり良くないんだよね」

 山の天気。北の山に住んでいるドレイク達も雨が降りはじめると、雨から逃れるために洞穴に隠れるが、十数メートルはあるドラゴンの巨体では洞穴に潜ることもできない。雨水に触れ怒り狂ったドラゴンを撃退するとなると、困難を極める。

「いつから降りはじめる?」

「数日中に降るだろうね。それまでに迎撃準備を終えられるか、それとも討伐隊を組めるかというと、難しいだろうね」

 雨が降る前に討伐するか、防衛準備が整うかと聞かれても不可能と言わざるを得ない。

「ドラゴンの弱点はドレイクたちと同じ水だけど、討伐するとなれば、上級魔法十発以上は確実だろうね」

 十数発の上級魔法を撃てるほどの魔力をジークは持っていない。いいとこ八発が限界である。ゲイルから魔力吸収ドレインしたとしても、十撃てるかどうかというところである。

「そりゃ無理だな。そうなると、支援職バッファーを引き込まないといけないが難しいだろ?」

 ジークは副マスターに聞くが、副マスターからの反応はジークの予想通りだった。

「無理ね。仮にいまから支援職用意したとしても、連携して討伐にあたれるわけではないから用意するだけ無駄でしょ?」

「まあ、そうだな」

「それに、いまは討伐隊のメンバーを編成しているところだから、支援職を引き抜かれるのは困るのよね」

 ギルドで参加表明しているメンバーで、ドラゴンの討伐隊は既に組み始めているらしい。

「ならオレとゲイルだけで戦うか」

「は? 何言ってんの? 二人だけでドラゴンに挑むとか馬鹿なの?」

 副マスターの言っていることは正論である。二人だけでドラゴンに挑むということは自殺志願に等しい行動である。数十人から百人近い討伐隊を組んで迎撃するのが普通であり、それでも十人近くの犠牲者を伴うようなものだ。それほど強大な生物に対して、たった二人で挑むことは無謀を通り越している。

「そのためにこの町に来てんだから屠るに決まってんだろ」

 そう言ってジークは執務室を出て行った。


「はあ。呆れた。だけど、あのエンペラースレイヤーコンビのジークとゲイルなら、やってのけそうと思えるのはなんなのかしら」

 副マスターは呆れながらも、やってのけそうな二人を信じていた。

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