第5話 洞窟の中に快適な住居スペースを作りつつも、ふと魔物の群れに川の水を流すことを思いつくなど

 善は急げとよく言われる。生活を快適にしたいというのは常々思っていたことだ。

 だから俺は、早速この迷宮内部に住居を作って、生活を快適にしていくことにした。


(よーし、じゃあ床を綺麗にするところからだな! で、机とか椅子を作って、棚も複数作ってやるか!)


 まずは洞窟迷宮の入り口の床を全部平らにした。

 地面がある程度平らになるよう、スコップを使って大まかに削り、その上に順々に空中床を敷き詰めていく。タイルを敷き詰めていくような単調作業。ちょっと楽しい。

 しばらくして、迷宮の入り口から70ヤードは、どこでも寝転がれるいい感じの床になった。


 で、椅子代わりに空中床を浮かせて設置し、机代わりに空中床を浮かせて設置する。机も椅子も空中床。高さも角度も好きに調整できる。

 着替えやら冒険道具やらを載せるための棚板も、空中床を迷宮壁面にくっつけて、さくっと作る。道具をいい感じに設置して、どこに何があるかぱっと見で分かるように工夫を凝らす。


「いつでも寝っ転がれるし、ご飯を食べたいときは机も椅子も使える。荷物を置く棚もいっぱいあるし、もうこれだけでも十分快適だよな……」


 迷宮壁面の発するほんのり淡い魔力の光のおかげで、洞窟の中でも視界はある程度確保できている。やや薄暗いものの、このおかげで夜になっても不便なく生活できそうである。

 ついでに小部屋をいくつか作るため、スコップで洞窟の側面を掘る。やっぱり小部屋は欲しい。別に深い理由はない。なんとなく欲しいというだけだ。

 壁を掘るついでにいくつか魔石結晶っぽい石が出てきたが、いったんインテリア代わりに机の上に置いておいた。


 掘削することしばらく。作業に疲れた俺は、羊毛の毛布の上にどかっと座り込んだ。

 羊毛は全然柔らかくなかったが、まあ何もない床よりは幾分かましである。でっかいため息を一つ。いつかはもっと柔らかいクッション素材を用意したいところだ。

 壁掘りで出てきた土は、空中床の上に載せて、すいーっ、と入り口の外まで運んで捨てた。疲れてもう重いものを持ち運ぶ気にもなれなかったところなのでとても助かった。空中床は本当に便利である。


「あとはそうだなあ……便所とか風呂とかどうするかなあ」


 口に出してしばらく考える。風呂と便所は、いっそ洞窟の外に作ってもいい。


 便所は深い穴を掘って終わりだ。空中床で蓋をすれば匂いも気にならない。

 一方で風呂には新鮮な水が必要になるだろう。同じ水をずっと使い続けたらすぐに水が腐ってしまう。

 ということで風呂に入りたければ、川から水を引っ張ってくる必要がある。露天風呂みたいなイメージだ。外に風呂、いいんじゃないだろうか。


(……そうだなあ、川から水を引っ張ってくるかあ)


 床にごろんと寝転がりながら、俺はしばらく方法をあれこれ想像してみた。


 川から水を引っ張る。川から水を引っ張る。

 ちょっと考えてみたが、やはりこれも空中床が一番いいだろう。空中床を凹の字状に組み立てて、水路を作るのだ。

 そして、高低差にさえ気を付けて、今の迷宮洞窟よりも高い位置から川の水を引っ張ってくれば、新鮮な水を洞窟のそばに届けることができるだろう。


 とはいっても、川から水を引っ張ろうとすると、それはとんでもない重労働だ。空中床をあと何十枚発動しなくてはならないのだろうか。いや何百枚かもしらん。

 一日四十枚出すのが精々の俺じゃ、ちょっとばかりしんどい作業だ。

 やっぱり水路作りはなしで、雨が降った時にそれを貯めておけるような桶にしようかなあ、なんて妥協案に心が揺れ動くも、なんだか妙に引っかかる。


 ――川から水を引っ張る。


「ん、んん? 待てよ? 川から水を引っ張ってくることができたら、そりゃもうやるべきことは決まったも同然じゃないか?」


 俺の頭の中に一つの閃きが舞い降りてきた。


 呟くと同時に、がじがじ、と相変わらず元気な音を立てているムカデたちと目が合う。

 空中床を突破する気配が全然ないムカデたちだったが、ちょっとうるさいなと思っていたところだ。

 ちょうどいい機会である。

 川から水を引っ張るついでに、こいつらを一掃してしまおうじゃないか。











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 ■アルバ・セコールジュカ Lv.6

【ジョブクラス】

 商人Lv.1

【特殊スキル】

《空中床》

【通常スキル】

「剣術4」「槍術3」「盾術3」「馬術1」

「罠作成1」「直感1」

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