5.いろいろ注意事項を聞いたりしていた

 一週間が経った金曜日の午後である。俺は例のオウムを預かってもらっている動物病院へ向かった。

 ミヤマオウムに必要なものは獣医の木本さんがほとんど用意して待っていてくれた。


「何から何まですみません」


 俺は深々と頭を下げた。


「調べたらやっぱり登録はされてなかったよ。でも絶滅危惧種を飼うにはいろいろ要件が必要だから、特に届け出はしてないよ。普通のオウムとして飼ってやってくれるかな。それから、はい。これは請求書ね」

「……は?」

「これでも大負けにまけてるから。分割でいいから払ってね。診察代と~、入院と~鳥用品類の購入でしめて十万円!」


 ……ペットを飼うというのは思ったより金がかかることのようだ。まぁオウムをペットショップで買うことを考えたら安いぐらいか? 出せない額ではないが、一瞬眩暈がした。


「あー、わかりました。今手持ちの現金がないんで下ろしてきていいっすか?」


 木本医師は目を丸くした。


「いや、すぐに払ってくれなくても大丈夫だよ?」

「大丈夫です、払えるんで。すぐ戻ります」


 そう言って近くのATMで下ろして戻った。S町は普通にコンビニとかあるからいいけど、村には確かコンビニは一軒もなかったはずだ。みんなどうやって金下ろしてんだ? とちょっとだけ疑問に思った。


「言った僕が言うのもなんなんだけど、一括で払っちゃって本当に大丈夫なのかい?」

「はい、大丈夫です」

「わかった」


 木本先生は頷いた。


「この子の注意事項を話しておくね」


 今ミヤマオウムのヒナとやらは鳥かごの中で大人しくしている。これは持ち運び用の小さいかごで、大きいのも準備してもらった。基本は雑食で、ネギ類やバラ科のものなど以外はだいたいあげてもいいそうだ。一応鳥類についての注意が書かれたプリントをもらった。これを見ながら食べる物を注意してあげればいいらしい。確かにこういう紙があると助かるな。


「頭がとてもいい子だから、言葉とか教えれば覚えるよ。日本では鳥類の放し飼いは推奨されてないんだけど、家の中だけでもいいから放せる場所を作ってあげてほしい。本来は野生で生きている種だからね。嘴が鋭いからつつかれないように気を付けて。ちゃんと話してあげれば話はわかると思うからつつかれてもがんばってね」

「わかりました」


 部屋は俺と一緒でいいし、そこは一軒家とはとても思えないほど断熱のきいた部屋だから大丈夫だろう。あとは部屋から出ないように俺が気を付ければいいだけだ。

 餌もオウム用のものを買っておいてもらったから、それらも全て軽トラに積み込んだ。


「近いうちにK村には行くから、その時は見せてくれ」

「俺、平日の昼間はいませんよ?」

「そうか。うちも土日は休みだしなぁ……休日診療だと高くつくだろうしね」

「どれぐらいの頻度で連れてくればいいとか教えてもらえれば来ますけど」

「できれば最初のうちは一月に一度は診せてほしいかな」

「うーん……」


 有給は4月から出るんだが年間で十日もなかったりする。まぁ有給休暇ぶっちしても大丈夫といえば大丈夫なんだが、やっぱり心象はよくないよな。


「例えば午前中の早い時間に連れてきてもらって、山越君が退勤する時に取りにきてもらってもいいよ」

「あー、それができると助かります」


 それなら時間休で済むだろう。今日は二時間時間休を取って来ているのだ。明日明後日は休みだから、その間にうちで交遊を深める予定である。

 うちで少しでものびのび暮らせたらいいなと思う。

 外に放すかどうかについては応相談だ。ヒナのうちはあまり飛ばないらしいから、それで仲良くなって外にも出せるようになりたい。あとは……タロウとの関係か。頭が良さそうだからいきなり食うことはない……と思いたい。しばらくは部屋から出さないつもりだし。


「名前は早く決めてあげてね。すぐ覚えるよ、きっと」

「はい、ありがとうございます。ミヤマオウムでしたっけ」

「うん。ニュージーランドでは鳴き声でケアなんて呼ばれてるね。だからケアオウムともいうよ」

「鳴き声がケアなんですか?」

「似た音だね。でも聞こえ方は人それぞれだけど。僕にはミーヤーなんて聞こえるんだけどね~」

「……それ、ミヤマオウムだからダジャレですか?」

「わかる?」


 木本先生はバツが悪そうに掻いた。

 ミヤマオウムのミヤマは深山らしい。和名ってやつだな。鳴き声ではない。


「スマホの番号教えておくから、何かあったらいつでも電話してね~」

「ありがとうございます。無料ですか?」

「内容によるかな」

「わかりました」


 いろいろ調べてはみたけど情報がとても足りない。一緒に暮らしながら知っていくしかないだろう。まだそんなに飛べないというから、勝手に遠くに行くことはあるまい。唯一の肉食オウムらしいから、いろいろ食べさせるのも楽しみだ。


「俺が飼主の山越海人だ。これからよろしくな」


 そうして全然鳴かない大人しいミヤマオウムを連れて、俺は一路村に向かった。

 このおとなしいオウムとの新生活に胸を膨らませて。



 ……しかしこのオウムが、あんなにやんちゃだったとはさすがに思わなかったが。

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