第4話 歓迎準備が大変ですわ

王太子殿下との初対面。

それは突然やってきた。

父が治めるアンポワネット領の視察に、アイゼンベルグ王とその息子ウイリアムとヘンリーが訪れるというのだ。


ついに来た、私の安息をかき乱す王太子殿下。

私が女神に課せられたミッションの1つ。

王太子殿下を惚れさせて惚れさせて惚れさせた挙句に、あっさりと振るというのだ。


あれ?王太子殿下が2人?

女神に言われたのは、王太子をばっさり切るということだけ。

一体私が関わるのはどっちなの?



・・・・・・・・・・



そして向かえた視察当日。

その日は朝から大忙しだった。


お父様が隣国へ単身赴任中のため、お母様が領主代理として王族の接待を務める。

その彼女の悲鳴が朝から屋敷中に響き渡った。

彼女はいつも以上にコルセットを締め上げ、圧迫されたお肉が真っ赤に腫れあがる。

侍女たちは紐をバッチンバッチンと鳴らしながら、母のムダ毛を挟み取った。

これがこの世界のムダ毛処理法らしい。

ヒモで脱毛するとかあり得ないんですけど!


「げっひぃー」

彼女の情けない悲鳴が、更に屋敷を揺らした。

紐の摩擦熱で、お母様の腕にいくつもミミズ腫れのようなものができてしまっている。

1人の侍女が彼女の患部を押さえ、もう一人の侍女が謎の液体を彼女の肌に擦りこむ。

あっ、絶対痛いわあれ。


「ぐっひぃぃぃ!」

耐えると書いて淑女・・・。

貴族の女はここまでしないといけないのだろうか。

あー、絶対私には無理だ。ってかしたくねぇ。


母がげっひー、ぐっひーと言っている間、母の代りに長男のヨゼフィスお兄様が使用人たちを指揮していた。

8歳ながら次期後継者としての自覚を持っているようだ。

堂々と使用人に指示する姿は、思わずうっとりと見てしまう。


それに比べて、アルベルトお兄様。

昨日の晩から原因不明の腹痛に悩まされているようだ。

頭でお茶が沸かせるくらいの高熱なのにも関わらず、侍女はアルベルトお兄様よりも王様の接待準備の方が忙しいようだ。

誰もアルベルトお兄様の部屋に看病に行っていない。

さすがに可哀想だと、私は様子を見るためにアルベルトの部屋へと向かった。



・・・・・・・・・・



部屋に入ると、アルベルトは目を輝かせながら私に飛びついてきた。


「ああ、愛しいメリー。君は僕を心配してくれるんだね。」


「いくら無能なお兄様でも、ここで死なれては寝覚めが悪くってよ(みんな準備で忙しいから、私だけでもと様子を見にきました。)


頬を摺り寄せてくるアルベルトの顔を肘で払いながら、取りあえず元気そうな姿にほっと一安心。

こんな情けない男でも、不本意ながら私の兄なのだ。


ただ少々元気すぎる。まさか仮病?


「お兄様、仮病という名の腹痛は快方に向かっているようですわね(お兄様、腹痛が治って良かったですわ)。

それでは早々にヨゼフィスお兄様と同じように、使用人にご下命くださいませ。(ヨゼフィスお兄様を助けてあげて)」


私の言葉を聞き、はっとした顔をするアルベルトお兄様。

お腹を押さえながら、予想通りのあのセリフ。


「いたたたたた。僕はもうだめだ。」

はいはい、わかってますよ。


「僕の代わりに、ヨゼフィスお兄様を助けてくれるかい?」

言われなくてもそのつもりですわ。


アルベルトはそう言うと、ベッドに戻ってうんうんうめき始めた。



・・・・・・・・・・



部屋を出ると、部屋の前で待機していたメイド達は私をあっという間に取り囲んだ。


「メリーお嬢様、そろそろ陛下や王太子殿下がお見えになるお時間です。お召し替えをお願いします。」


私が返事をしないうちにドジっ子メイドマーサが私を抱き上げ、肩に担いで走り去った。

おいおい、私は米俵かいな。


部屋に戻った私は、メイドたちの着せ替え人形。


「お嬢様にはこちらの方がピッタリですわ。」


「いえいえ、悪どいお嬢様にはダークカラーの方が。」

あれ、誰か悪どいって言った?


「絶対お嬢様にはヒョウ柄やわ。この獲物を狙う感じがごっつ似合うわ~。」

すいませーん。メイドの中に大阪のおばちゃんが紛れ込んでいまーす。


何十着もの試着の末、ようやくピンクのドレスに落ち着いた。


急に部屋の外が慌ただしくなる。

メイドたちはお互いの顔を見合わせて黄色い声を上げた。


「アイゼンベルグ王御一行様が到着いたしました。」

私は緊張と不安で、胸がキューっと締め付けられるような思いだった。


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