第13話

「ナナっ!」


 ドリィの手を振りほどいて、ユメミは『ナナ』へと駆け寄った。

 ユメミの声に反応したのか、閉じられていた『ナナ』の瞼が僅かに震え、ゆっくりと持ち上がる。


「ユメ、ミ?」

「ナナ、ねぇナナ、こんな所で何してるの?わたしと一緒に帰ろう?ねっ?」


 膝をつき、ユメミは『ナナ』を飲み込もうとしている闇を必死に手で掻き出す。


「目、覚めたんだ、ね?」

「えっ?」

「よかっ、た・・・・」


 そう呟いた『ナナ』の目から、涙が一筋流れ落ちた。

 そして、そのまま『ナナ』は疲れたように再び目を閉じる。

 直後に闇は、『ナナ』を口元まで飲み込んだ。


「ダメっ、ナナ・・・・起きて、ナナっ!目を開けてっ!」

「戻るなら、もうそろそろ戻らないと戻れなくなります」

「・・・・まずいな」


 リマの言葉を受けて『ナナ』の隣に膝をつくと、ドリィも必死で『ナナ』の周りの闇を掻き出し始めた。

 続いて、ノイもシキも多くの分身を作って、同じように『ナナ』の周りの闇を掻き出し始める。

 けれども、どこから湧いて出てくるのか、掻き出した傍から闇は次々と現れて、『ナナ』の体を飲み込み続ける。


「メア、できるだけ大きな音で音楽掛けてっ!『ナナ』の好きな、楽しそうなやつ!クス、出力最大限で『ナナ』を照らしてっ!」


「分かった!」

「りょうかいっ!」


 あまりの眩しさにか、あまりのうるささにか、もはや目元しか見えなくなっていた『ナナ』が眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに瞼を持ち上げる。

 その『ナナ』に向かって、ユメミは必死に想いを伝えた。


「ねぇ、ナナ。ナナがどんなにわたしのこと大嫌いになっても、わたしはナナのことが大好きだよ。だから、わたしはナナを助けたいの。こんな闇なんかに、負けないで。お願い、ナナ。こんなお別れなんて、イヤ。わたしもっと、ナナと一緒にいたい・・・・」


 言葉と共にユメミの目から流れ落ちた涙が、『ナナ』を飲み込む闇を溶かし、『ナナ』の上半身が姿を見せた。

『ナナ』は大きく目を見開いて、ユメミを見つめている。

 その『ナナ』の胸元が、淡い光を放ち始めた。


「よしっ、今だっ!ノイ、シキ、引き上げるぞっ!」


 すかさず、ドリィとノイ、シキの分身たちが『ナナ』の体を闇の中から引きずり出す。


「もう、時間がありませんっ!」


 切羽詰まったリマの声に。

 ツンがその体を膨らませ、大きな鳥の姿となった。

 そして、【乗れ】とでも言うように、みんなに背中を向ける。


「みんなっ、ツンに乗って!」


 再び気を失ってしまった『ナナ』を担いだノイがまずツンに飛び乗ると、シキ、メア、クス、リマも続けて飛び乗る。


「さぁ、帰るよユメミ。『ナナ』と一緒に」


 ユメミに片手を差し出し、ドリィが微笑む。


「うん」


 その手に片手を預けると、ユメミもドリィと共にツンの背中に乗った。

 皆を乗せたツンは、スピードを上げて闇の出口へと滑るように飛び続ける。

 やがて。

 突然あたりが眩しさに包まれたかと思うと、そこは『ナナ』の『ゆめつくり』の部屋だった。


「ギリギリでしたが、間に合いました」


 リマが笑顔で、全ての砂が下へと落ち切った大きな砂時計を皆へと向ける。

 けれども。

 その皆の姿の中から、『ナナ』の姿だけが消えていた。

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