第10話

「どこだっ?!元凶の記憶はどれっ?!」


『ナナ』の『ゆめつくり』部屋。


 徐々に色を失いグレーに染まりゆく記憶のボールを棚から掻き出しながら、タムは周囲の記憶を闇に飲み込もうとしている元凶となっている記憶を必死に探す。

 イラはタムが掻き出した記憶のボールをカートに詰め込み、ユリの元へと運ぶ。


「ユリ、これお願い。・・・・修正、できそう?」

「・・・・やるしかないでしょ。できなくたって、やってみせるわよ」


 イラからグレーのボールを受け取ったユリは、次々とマシンの中にボールを放り込む。

 マシンのモニターに映し出された『ナナ』の記憶も、ボールの色同様に、灰色に霞んでいた。


「大丈夫。きっと、大丈夫。映像の色調補正すれば、記憶ボールの色もきっと元に戻るはず」


 小さく呟きながら、手元のボタンを操作し、画像の明るさを上げる。

 これは通常、『ナナ』の記憶を元に夢を構成している際にも行っている映像処理作業のひとつ。

 もっとも、いつもユリが行っている通常の映像処理作業は、明るすぎる色合いを落ち着いた色に抑えたり、ぼやけた映像をはっきりとさせたり、全く異なる記憶の映像をつなぎ合わせたりという作業で、記憶のボールの色自体を元に戻す作業など行ったことは無かった。


「この色とこの色を上げて、これを下げて、と・・・・」


 色調補正を終えて上書き保存をし、記憶のボールをマシンから吐き出させる。

 吐き出されたボールの放つ鮮やかな色に、ユリはホッと笑顔を浮かべた。


「どうよ?こんな感じじゃない?!」

「うん。いい感じ。さすがユリ」

「当たり前」


 得意げな表情を浮かべるユリ。

 そのユリに、イラは真顔で告げる。


「その調子でこれも頼むよ。あ、それからまだまだあるからね、グレーに染まった記憶」

「・・・・分かってるわよ」


 ユリのマシン近くに山のように積み上げられた、グレー色の記憶のボール。

 ため息を吐くユリの隣で、イラは愛おしそうに、色を取り戻したボールを抱きしめた。


「これは、あの棚にはまだ戻さない方がいいね」

「そうね、また染まっちゃうかもしれないし」


 イラとユリが視線を向けた先では。

 タムが必死の形相で元凶の記憶を探し続けている。


「これでもない・・・・これでもない・・・・あーもうっ!いったいどれよっ!」


 八つ当たりのように、両腕で掴める限りの記憶のボールを掴み取り、タムはそのボールを後ろへと放り投げる。

 と。


「・・・・あっ・・・・あーっ!あった、あったよっ!イラっ、ユリっ!」


 棚の奥深くに、真っ黒に染まった記憶のボールを3つ見つけ、タムは大慌てでそのボールを取り出し、中を覗き込む。


「・・・・えっ?」


 眉を顰め顔を上げるタムに、ユリがもどかしそうに声を掛けた。


「それ、マシンに入れて。ワタシとイラにも見せてよ」

「・・・・うん」


 戸惑いながらも、タムは黒く染まった記憶のボールをひとつ、マシンの中へと入れる。

 ややあって、モニターに『ナナ』の黒く染まった記憶が映し出された。

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