第6話

「ごめんなさい。ナナとケンカしたのは、わたしです」


 心から申し訳ない思いで、ユメミは椅子から立ち上がるとユメツクリ達に頭を下げた。


「知ってる」

「ボクも」

「ワタシも」


 記憶担当のタム、記憶のチョイス担当のイラ、構成担当のユリが、それぞれ呟く。


「あたしら『ナナ』の記憶見てるんだよ?それくらいみんな知ってるって。それにね、誰もあんたが悪いなんて、思ってないよ?きっと、『ナナ』だってそう。『ナナ』がユメミの事本当に嫌いって思ってたら、あたしらだってきっと、ユメミの事嫌いだと思う。でも、あたしらは・・・・少なくともあたしは、ユメミの事嫌いじゃない。まぁ、記憶の片付けに関して言えばトロくて使えない子だなって思ったけど、それはドリィも似たようなもんだし」

「なにそのとばっちり。だいたい、記憶の整理は僕の仕事じゃないからね?せっかく好意で手伝ってあげたって言うのに、それじゃまるで僕が役立たずみたいじゃないか」

「記憶の整理に関しては、全くの役立たずね」

「ひどいなぁ、タムったら」


 タムの容赦ない言葉に、苦笑いを浮かべるドリィ。


「『ナナ』はほんと、ユメミが大好きみたいだもんね。アタシ何千回ユメミ役やったか、分からないよ?」

「確かに。シキのユメミ率、高いよな」

「ユメミが出てくる時は楽しい音楽当てられるから、私も嬉しいんだよね~」

「照明だって、明るい感じにできるから、おいらも楽しい」


 友達担当のシキ、イケメン担当のノイ、効果音担当のメア、照明担当のクスの周りを、生き物担当のツンも楽しそうにフワフワと浮かびながら跳ね回る。


「ま、これくらいの事ならよくある事なんだよ。ユメツクリ達に問題さえなければ、あとはその人間ホンニンの問題だから僕らにはどうすることもできな」

「あっ!時間がっ!」


 突然、タイムキーパーのリマが焦ったような声を上げた。

 見れば、リマの抱えた砂時計は、先ほどまでは確かに四分の一ほどしか下に落ちてはいなかったはずななのに、今上に残っているのは、わずか五分の一ほど。


「・・・・これじゃ記憶を選んでる時間は無いよ」

「確かに」


 イラとノイが小さく頷き、ユリへと目を向ける。


「わかったわ。ノイ、シキ、やるわよ」

「「了解っ!」」

「メア、クス、あなたたちも、お願いね。ツンも、必要に応じて」

「「了解っ!」」


 それぞれの息が揃ったところで。


「ねぇ、ユリ。ユメミにも出てもらえば?」


 唐突に、ドリィがそんな提案をユリに持ちかける。


「そうね・・・・いいかもしれない」


 そう呟くと、ユリは言った。


「ユメミ。あなたも出て」

「えっ?」


 とまどうユメミの手を取り、ユリがユメミを舞台へと誘う。


「ワタシ達は『ナナ』の夢を作ってはいるけれど、ワタシ達が作る夢は当然ながら、『ナナ』自身の心が反映されているものでしかないの。でも、あなたは『ナナ』の心にいるユメミではないでしょ?本物のユメミ。だから、あなたが『ナナ』の夢の中に出て、あなたの思うとおりに動いてくれれば、『ナナ』の心にも何らかの影響を与えてくれるかもしれない」

「でも、わたしどうすればいいか・・・・」

「心配ないよ。キミはいつもどおり『ナナ』と接してくれればいいんだよ。だって、これからここに来る『ナナ』は、キミが良く知っているナナそのものなんだから」


 舞台近くまで付いてきてくれたドリィがポンッとユメミの背中を押し、ユメミが舞台に上がった直後。


「来ますっ!」


 リマの大きな声が、『ゆめつくり』の部屋中に響き渡る。

 直後に一瞬部屋が真っ暗になり、次に明かりに照らされた舞台の上には。


「・・・・ユメミ?」


『ナナ』の姿があった。

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