第3話 重力花火職人

「誰が花火職人じゃ。わしはただの弾薬製造ロボットじゃというに」


 青兜のモニタ外周が光り、金味噌とは別の声が響く。

 合成音声で、モデルは渋い男性だ。

 老人っぽさはあるが声質は強く、スピーカー越しでもよく通る。


「儂はAFBD-BIZEN9527型。ビゼンでよい。「ちゃん」はいらんぞ」

「はじめまして。ホセとお呼びください」

「うむ」


 青兜のビゼンは小さくうなずくと、視線を手元に戻した。

 画面外の火花の数が少し増える。


「ビゼンちゃんってば、それだけぇ? もうちょっと自己紹介してよぉ」

「重力弾が尽きかけておると言ったじゃろう。今はこっちが先じゃ」

「しょうがないわねぇ」


 金味噌が溜め息をつく。


「ごめんなさいねぇ。ビゼンちゃんは職人気質しょくにんかたぎAIが組み込まれてるのよぉ」

「そうなのですね」

「今も弾を作ってもらってるとこねぇ。一度始めたら止まらないんだから」


 モニターの表示映像が青兜の手元に移動する。

 そこには人の握りこぶしほどの金属球が積み上げられていた。


 あれが全部、重力弾?

 極小かつ超短時間、疑似超重力場デミブラックホールを生み出す特級危険物?

 直撃すれば一発だけで宇宙戦艦の横腹に大穴を開けるやつを、あんな無造作に作ってるの?


 青兜は、半球状の器の中に原料らしい粉状の何かを詰めている。

 どこでやってるのか知らないが、完成済みの重力弾のすぐ横で火花の飛ぶ作業をしてんじゃねぇよ。

 あの量、暴発したら周囲を全部巻き込んで消し飛ぶぞ。

 こいつ、もしかしたら金味噌より危険な存在なんじゃないか?


「腕は確かだからそんな心配しないでぇ」

「あぁ、いえ、わかりました。しかし、重力花火とは?」

「ん-とねぇ。ビゼンちゃんって元は特殊弾頭の製造用ロボットだったのよ。自立AI無しのねぇ。それを私がってきてAIを入れてあげたんだけど、手元にあったのが花火職人用AIしかなくてねぇ」


 むしろなんでそんなニッチなAIを持ってたのか、には触れないでおくべきか。


「そしたら、それまでの製造経験学習蓄積ラーニングログの中にあった、重力弾の存在が花火職人AI魂に火をつけちゃったみたいでねぇ。今じゃすっかり重力弾のとりこよぉ」

「重力弾は奥深い。漫然まんぜんと弾を重ねただけでは、爆発時に互いが飲み込みあってそのまましぼんで終わりじゃ」


 なんか青兜が語り始めた。


「花火の割火薬わりかやくの分量を厳密に計算し、ほしとなる小玉の重力弾同士が互いの影響範囲外ギリギリまで散らばるようにする。そこで引火させて初めて、宇宙に青紫色の花が咲くのじゃ。しかし、それは入り口。小玉の位置や大きさ、さらに陰影をくわえるためにえて混ぜる少量の閃光弾。中身の組み合わせ次第でまるで別物じゃ。花火の表情は無限と言えるのう」


 花火関連らしい専門用語を交えた講釈こうしゃくを終え、青兜は組みあがった重力弾の球体を手に取り小さくうなずいた。


「まさに火薬が生み出す芸術の極致よ」

「異議ありぃ!」


 横から、新たな声が飛び込んできた。

 合成音声ではなく肉声、それも子供の声のように聞こえたが。


「火薬と言ったら弾薬ガンパウダー、そして硝煙ガンスモークでしょ!?」

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