【お姫様抱っこ撫でられ男子】

握力500kg以上って...しかも大して力を入れるような仕草もなく、加減しながら徐々に力を入れていた。


「流石、お姉様が認めた人ですね...。」

「何を言ってるの?...このクラスにいる監視員ならこんな事は造作もないはずよ。」


特能者は必ず監視員が一緒にいる、もはや言うまでもないが他の4人の監視員も特能者と一緒に体力測定に参加していた。    


というか徳川さんのお姉さんて綾ねえの知り合い?


「確かに...でも私は藤村さんを尊敬しています。」

「どうも。」


そして次は100m走...綾ねえが過去に全国優勝した種目でスタートラインには旗を持った嵐鬼先生が立っており、ゴールには徳川さんがいる。


「準備はいいか?」

「うん。」

「よーい...ドン!」


俺は右脚に力を入れると、勢いよくスタートを切る...力の限り走りゴールを決める。


その間、綾ねえがまるで駆け足しのように身軽なフォームで俺の横をピッタリと走っていた。


「はい、12.3秒...。」

「ふぅ......それってどうなの。」

「陸上部だと平均くらいのタイムね。」


平均か......結構早い方だったんだけどな。

部活とかやってなかったし仕方ないか。


「藤村さん、私...どうしても藤村さんが走る所見てみたいです。」

「無理ね...私は金丸君と一心同体だから離れる事はできない。」


少し残念だ...綾ねえの走りを見たかった。

全国優勝の走りを......。


「まあ、走るのは構わないけど...条件があります。」


俺の気持ちを読んだのか、走ってくれるみたいだ。

その条件とは......。


「お怪我はないですか、お姫様。」

「ちょっとみんな見てるからやめてよ!」


俺は綾ねえに抱えられていた、お姫様抱っこで。

しかも握力500kg越えの馬鹿力で無理やり抱えこまれていた。


「嵐鬼先生...今の高校生の日本記録は何秒です?」

「綾音が出した5秒28だ、変わってない。」

「わかりました...スタートの合図をお願いします。」


ちょっと、俺は見たいとは思ったけど体感したいなんて一言もいああああああああああ。


嵐鬼先生がすぐに旗を上げたため、綾ねえは俺を抱えながらスタートを切る。


最初は怖かったが、走り出して見ると違和感を感じた...本来なら感じるはずの振動や衝撃なんかをまるで感じない。


あ...れ?


最初は恐怖で綾ねえの顔ばかり見てたが、いざ走り出した後に正面を見ると。


あれ?


地面が...遠い......。


そして、地面が近寄ってきて振動が伝わる頃には既にゴールラインを越えていた。


綾ねえはゆっくり俺を下ろすとゴールにいた徳川さんに問いかける。


「何秒?」

「2秒...62......です。」

「そう。」


こんなのは100m走じゃない

スタートと同時に俺と綾ねえは間違いなく滞空していた、ただの立ち幅跳びだ。


「あの、そろそろ降ろしてよ。」

「徳川さん...私達は特殊な訓練を受けてるから、どれだけ見ても参考にはならないはずよ。」


いや降ろしてよ!


「はい...よくわかりました、金丸君に負荷がかからないように気遣っていた事も...その全てが尊敬に値します。」

「ありがとう、でも貴女が目指すお姉さんは私なんか足元にも及ばないくらい凄い人よ。」


......まさかとは思うけど。


「あのさ、まさか徳川さんのお姉さんて......。」

「あ...てっきり知ってると思ってた、私の姉は徳川 恵璃朱えりすです、監視員総監の。」


てことは俺...総監の妹とクラスメイトって事?

まるで有名人と同じクラスになったようだ。


「今頃気付いたの?...同じ苗字だったじゃない。」

「いや徳川って苗字、結構いるじゃん...てか降ろしてよ綾ねえ!」

「綾ねえ?......。」

「あ...藤村さん。」

「あはは、もう遅いよ...家ではそう呼んでるのね。」


恥ずかしい...。

しかも俺だけお姫様抱っこの状態で。


「まったくこの子は、ほらーよしよし。」


綾ねえが俺を揺らしながら甘やかしてくる。

しか、首以外の身体のパーツが一切動かないように締め付けられているので抵抗できない。


「徳川さん見ないで、早く降ろしてよ!」

「せっかくだから私も。」


徳川さんが俺の頭を撫でる。


「はい金丸君、よしよし。」

「シャー!」


俺が怒った猫のような声を出す、すると徳川さんは顎の下を指先でこちょこちょしてきた。


「さあ次の測定に向かいましょう。」

「お・ろ・せ!」

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