10. 限界


 さようなら

 

 そう黒いボールペンで紙に記す

 遺書、と呼ぶべきか

 僕は疲れた

 毎日浴びせられる好奇の目

 中指立ててくるヤツら

 クラスに居場所などない

 あるのは僕の死を望む言葉が記された机だけ


 限界だった


「それだけで限界なんて言わないでよ」


 後ろから声がした

 振り向くとイヤホンをしている男が立っていた


「自分の机がなくなったことすらないくせに」


 再び振り返るとそこには誰もいない

 けれど、まだ限界では無い

 そう教えられた気がした

 


 翌日また僕は紙と向き合っている

 黒いボールペンを持って

 昨日と同じように


「それで限界なの?」


 昨日と同じ声

 だけれどその男は手に傷跡が多くあった


「誰かから捨てられたことすらないくせに」


 ……昨日と同じ

 振り返ると誰もいない


 なぜ僕を引き止めるのかわからない

 けれど僕は昨日と同じように手を止めた



 今日こそは

 昨日と一昨日と同じ場所

黒いボールペンで最期の言葉を記している

 でももう引き止めてくれる人はいない


 僕はカーディガンを脱ぐ

 カーディガンの下にあった傷が露になる

 僕の手は傷だらけだ


 イヤホンを外す

 周りの音を聞きたくなくてずっとはめていた

 けれどその必要はなくなる

 もう外の声を気にすることがないのだから


 僕は静かにボールペンを机の上に置く

 そして、

 

 


 


 

 

 

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