走れ、ペロル

るいす

第1話 ペロル、洗礼を受ける

僕の名前はペロル。この国、オランド聖王国で成人となる十五歳だ。このオランド聖王国では成人となる年に神より職業を賜るため教会に出向かなければならない。オランド聖王国は創造新ディノバルドを唯一の神だと主張する宗教国家である。その国土は狭いが、中央には妄信的な信者が多く、戦争になると自らを省みない狂戦士となるため、厄介がられている。


ペロルは辺境の生まれで近くに教会がないため洗礼を受けるために三日かけて教会のある街まで来た。この時ばかりは貴重な職業を持つ者を失わないために馬車に無料で乗ることができる。おまけに騎士の護衛付きだ。


ペロルは孤児院育ちで、十歳となると同時に冒険者となった。冒険者ではその日暮らしが精いっぱいであるが何とか成人になるまで食つなぐことができた。冒険者と言っても魔物と戦うことはしない。神より職業を賜っていない状態では魔物との遭遇は死を意味するからだ。


そんな中で、薪拾いや薬草採取は文字通り命がけの仕事だ。冒険者はたいていが孤児院出身の未成年であるため、年に数名は魔物に遭遇して命を落としている。成人となると職業を賜るので冒険者を続ける者はいない。王国の法で賜った職以外になることを禁止されているためだ。


ときおり、職業の冒険者を賜る者もいるがその者たちは別の国へ向かってしまう。このオランド聖王国では冒険者という職業の地位は低いためだ。魔物の討伐などは戦士や騎士と言った戦闘に関する職業の者が行っている。そこに冒険者が入り込む余地はない。


そんなことを語っているうちに僕は教会へたどり着いた。既に洗礼は始まっており、目の前では同年代とは思えない筋肉粒々の男が戦士の職業を賜って喜んでいたり、とてもきれいとは言えない女性が娼婦の職業を賜って泣いていたりしている。


この国において神より賜った職業は絶対であり、違う職業に就くことは禁止されている。それは神の意思に反する行為だとこのオランド聖王国では見なされているからだ。


いよいよ僕の番となり何の職業が選ばれるのか不安になっていた。


「ペロル。お主の職業は走者じゃ」


「そうしゃ~?」


この国では神より賜った職業は絶対である。しかし、それで食いつないでいけるかは別の話だ。もちろん、走者なんて職はなく、オリンピックなど存在しない。その日のうちにペロルは街を出た。

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