第5話「不思議な種」


私が種を口に入れようとした時「食べないで!」という声が聞こえた気がした。


「今、誰かしゃべった?」


周りを見るが誰もいない。


そもそもこんなところに人がいるはずがない。


「もしかしてこの種がしゃべったりして?

 そんなはずないか」


食べるのも可哀想だったので、地面に植えることにした。


こんな日も射さないような所じゃ成長できるかわからないけど、私に食べられるよりはましだろう。


地面に植えたばかりの種が、芽を出しみるみる成長していった。


「えっ? なにこれ??」


種は黄金の色に輝くリンゴの木になった。


昔おじいちゃんの家に遊びに行った時、近所にリンゴ農家があった。だからリンゴの木と他の植物を見間違えるはずがない。


「というかコンビニエンスストアの店員さんはなぜリンゴの種をくれたの?

 普通庭に蒔くなら花の種じゃないの??」


私がそう疑問に思ってる間にリンゴの木にポンポンと実がなっていく。


普通のリンゴよりかなり大きさは小さいが、あの形状はあれはリンゴだ。


「黄金色に輝くリンゴなんて初めて見た……!」


リンゴの木から「食べて」という声が聞こえたような気がした。


「食べないで」と言ったり、「食べて」と言ったり、忙しい植物だ。


「黄金のリンゴなんて食べられるのか?

 お腹壊さないかな?」


ぐーきゅるるるるるるる……!


その時また盛大にお腹が鳴った。


「どのみちここからは出られないんだし、空腹で死ぬよりはお腹いっぱい食べてから死んだ方がマシか……」


私は黄金に輝くリンゴを一つ取った。


「故郷でこのリンゴを実らせていたら、物凄い高値で売れただろうな」


そうしたらあっという間に借金を返せて、豪邸に住んで、大っきな犬を飼って、幸せに暮らせたのにな。


そんなことを考えながらリンゴにかじりついた。


何故か種はなく一口で食べられた。


「甘い!

 それにめっちゃ美味しい!

 これならいくらでも食べられる!」


木になっているリンゴを収穫し頬張っていく。


「満腹〜〜! めっちゃ幸せ〜〜!」


満腹になった私は草の上に横になった。


「残念だな〜〜。

 ここからだと星は見えないや」


朝から働きづめで、異世界に召喚されたり、冤罪をかけられたり、追放されたり、崖から突き落とされたり、いろんなことがあった。


疲れきっていた私はそのまま深い眠りに落ちた。


ポンコツな私はその時気がつかなかった。


リンゴの実ひとつひとつに文字が記されていたことに。


【神の声のスキルを習得しました】とか、

【アイテムボックスのスキルを習得しました】とか、

【鑑定のスキルを習得しました】とか、

【力が上昇しました】とか、

【体力が上昇しました】……という声が聞こえていたことに。




☆☆☆☆☆



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