ブラコンで最終兵器で不器用な姉を持った俺はどうすればいい?

@usami-tori

第0話 始まり

湿った足跡が、封鎖された空間に反響する。

頭上から落ちた雫が、髪を軽く濡らしたので、

手で軽く払いながら、気にせずに荒れた床の上を歩いて行く。


朽ち果てた遺跡にて。男は1人、松明を片手に探索を行っていた。


その顎に蓄えた無精髭と、真っ白に染まった髪のせいで、

顔立ちに対して、随分老けて見える顔をした男だ。

腰に下げられた収納袋と、直ぐに取り出せる位置に取り付けられた

ツルハシやコンパス。そしてロープ。

そして、それ以上に、胸や関節等の要所を軽く護る、よく手入れされた防具に、

腰に下げられた装飾の多いナイフが目をひくだろう。


冒険家然とした道具たちに対し、戦闘を想定された防具が異質に見える。


そんな男の職業は、『冒険者』。


国営、民営、様々ある冒険者ギルドに所属し、

それらに数多く寄せられる依頼を仲間たちと共に解決する職業だ。


然して、そんな男は今。依頼では無く、個人として動いている。

男が独りであり、仲間を連れていないのがそのいい証拠だろう。


その理由は、この遺跡にこそある。


この遺跡は過去の依頼の最中で男が発見し、未だ世間に公表されていないものであり、

その中に、『アーティファクト』が未だ残されている可能性があるからだ。


『アーティファクト』


遥か昔に栄え、そして怪物たちの大氾濫に依って滅びたとされる、古代文明の遺品。


魔術的・技術的にも、今では再現し得ない物の総称だ。


純粋に歴史的価値を含む上、文明の発展の手助けとなる装置であったり、

更には、冒険者としての活動にそのまま用いれるような武器もそれに含まれる。


アーティファクトと一口に言っても、そう呼ばれる物は多岐に渡るのだ。



…………しかし。



「………見つからん。」



最奥の壁に触れて、溜息を吐く。

此処まで来て一切の遺物が見つからなかったのだから。

この遺跡にはアーティファクトが残っていないと考えるのが自然だ。


新たに遺跡を見つけたとして、こういったことが偶にある。


仕方ない。と諦めて、壁に背中を向けて、来た道を帰らんと足を進めた、その時であった。


背後の壁が、何かが唸るような音を上げて、光輝き始めたのだ。


青色混じりの輝きが、温かみを以て暗い遺跡を照らし出す。



振り返ると、遺跡の最奥の壁が細かいブロック状に変形し、

門のような何かを構成しようとしていたのだ。


構成された門に一歩近づき、そっと触れると。

それは重々しく開き。中へと男を迎え入れるように、奥へと続く道を淡く照らし出した────




────────────────


青白い灯りに従って進むと、

次第に、灯りは弱まっていき。その最奥の一室に辿り着くころには、足元の灯りは消えていた。


代わりに辺りを照らしていたのは、部屋の中央に鎮座していた装置である。


硝子に近い材質の、半透明のカプセルを中心として、その周囲を大量のコードが包んでいる。

コードが繋がる先には、操作基盤と思われる物があり、


この巨大なアーティファクトが、カプセルの中身に対し何かを行う物であろうことは、どうにか察することが出来た。


操作基盤に触れると、駆動音と共に、

半透明のカプセルが完全な透明となり、その中に在るモノが露わとなる。




「………………な、に……?」




それを見て、男は驚愕した。

蛍光色の液体に満たされ、淡く発光するカプセルの中に在った、否。居たのは。



美しい、少女であった。



きらきらと、蛍光を反射して輝き、漂う髪に。

水中に在っても分かる、透き通るような、薄い肌。


幼げな外見とは裏腹に、一糸纏わぬその姿は、見る者全てを魅了する妖艶さをはらんでいた。


しかし何故、少女がカプセルの中に封じられているのか。


(古代文明の生き残り?数千年の生命維持など可能なのか?)

(装置にも呼吸を可能にするような物はない、であれば一体────)


そうした思考が、頭を過った瞬間。

怖気が、男の肌を走った。


少女が、閉じていた目を開き、男の方を視たのだ。


その目は何処までも冷たく、凡そ意思と言う物を感じさせない目でありながら、

宝石の如き輝きを持つ、不思議な目だった。


少女は無表情のまま、何かを口にすると。


刹那。カプセルの内部に大量の魔法陣が展開される。


その魔法陣に、男は見覚えがあった。


普段より、冒険者として男が用いる『刻印魔術』の魔法陣そのものであったのだ。


反射的にその魔術の性質を理解し、男は本能で退避する。

それが、『破砕』の法則を幾重にも重ねた、極大の破壊魔術であると理解出来たから。


男が部屋の入口まで後退した刹那。


轟音と共にカプセルと周囲の機械は破壊され、中の液体が一気に外へと飛び散った。


部屋の床全体が濡れた後、少女は装置の内部からその床へと降り立ち、男を今一度見据え、問う。


「…認証要素オールクリア……マスター。お名前は。」


「………は?」


何を言っているのか分からない。攻撃をしてきたのではないのか?


「………主人マスター認証には名前が必要です。お名前をお教えください。」


少女は顔色を変えることなく、淡々と男の名のみを問う。男は、答えねば話が進まないであろうことを察し。答えた。


「………シリルだ。シリル・ブライス」



「……主人マスター認証、完了しました。」


少女は、静かに微笑んで。


「当機は、個体名アリシア。よろしくお願いします。マスター」


男と、一人の少女の、一風変わった出会いだが。


ここから。全てが始まったのだ。

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