第8話 中山 3

「理由としては審査の結果としか言いようがありません。当店はコンピューターでの審査をしておりますので、そのコンピューターがはじき出した結果には従うようにしております。その理由は様々ですので、一概にコレが理由ですってのは自分たちにはわかりかねます。総額はそこまでではないかもしれませんが、ただ一般論として言わせて貰うなら、初めての取引であったり、昔何かをやらかしたとか、まぁ色々な理由が考えられます。増額などはしばらくお付き合いをして貰い実績を積まれるか、はたまた保証人などを付けて貰うってとこになります。ご理解して頂けましたでしょうか?」




 納得いかない顔をしてる中山だが、わかりましたと言って帰っていった。それを見送った事務員さんはちょっと半笑いで、




「何?なんか昔やらかしてたの?」




 と聞いてきた。まぁ事務員さんもそれなりにこの業界のキャリアは長くなってきてるから、言わずもがななのだが。




 お金を借りられない、もしくは希望額を借りられないというのは単純明快な理由しかない。そう、信用が無いだけである。信用とは目に見えないものではあるが、ある程度は信用情報上で数字として可視化が出来る。




 ウチにおいて5~10万を貸す時は様子見の段階である事が多い。様子見というのは、まだ切羽詰まる所まで行ってないとか、自分の見立てで半年一年は問題も起きないだろうという予想の元、貸し付ける事が多い。中山の場合はこれに当てはまる。もちろんコンピューター審査などという物をウチは使ってない。あくまで自分の目と耳、勘を信じて審査する。




 中山のケースだと初めての申込であり、また申し込み用紙から読み取れるのは日払いしかないという事。それは月払いが借りれないという事を指す。月払いが借りれない理由としては、何回か整理してるか、不都合を掛けているという、だいたいこの二つが大きな理由。そしてそこに信用情報を照らし合わせると、こいつがどんな人間か浮かび上がってくる。中山の住まいは俺があまりいい思い出の無い郡部の市営住宅とある。この地域は他人の為に金は出さないが、身内の為に金を出す事もあまりない。口はアホほど出してくるのだが。そんな経験から6年前の整理は、おそらく身内が仕方なく出したんだろうけど、自分サイドの人間ではないって事は想像できる。おそらく嫁さんサイドだろうね。さらには貸禁願いまで出してるという事は、ほぼ身内はアテにならない。ここに月払いが借りれない訳もある。貸禁願いを出す場合、信用情報上で借り入れてる所を全て完済させなければならない。貸禁願いの期間は5年。延長しない限りは5年で有効期限が終わる。延長してたのなら自社ブラックリストに載せているはずである。しかし経験上、貸禁願いを延長したヤツなんぞ、1人しか知らんのだが。それが無いとなると、有効期限は切れたと見て間違いない。しかし月払いはこういったヤツに貸す事は少ない。月払いの傾向としては金額が大きい場合が多い。本人がダメになった時、身内が整理してくれる以外はほぼ貸し倒れになる。その事がわかっているからこそ、危ない橋を渡る事は少ない。




 以上が中山には様子見の10万しか投げれなかったという理由である。これからの支払いと他所の動向を見ながら、増額や書き換えは慎重に考えて行こう。




 翌日からは一応集金にはなってはいるので、そこまで警戒はしなくてもいいかなと思っていたが、中山はウチが出してから一週間も経たない内に他所へ借りに行っていた。他所からの問い合わせもあり、一応正直にまだ一週間経ってないっすと答えると、相手からはでっかい溜息が受話口から聞こえた。




 借りに行くスピードが少々早い事を懸念した俺は、社長に頼み込んで昼に一時間ほど会社で留守番をしてもらい、中山の店に行ってみた。




 鍵を開けて中に入ってみると、飲み屋独特の匂いがしてきた。




「ふむ。一応店は開けてるみたいだな。」




 そして今までの経験に従って、シンク、トイレ、グラスを置いてる棚、グラス、ボトル、床、などなど。後はお酒の在庫状況。ビールの空き瓶など。だいたいお金にルーズなヤツは水回りが汚い。掃除状況が悪いのもルーズなヤツに多い。グラスや棚、ボトルにホコリが被らないように拭いているか。飲み屋ではお酒を床にこぼす事も多い。その匂いなど。一通りチェックをして会社に帰った。帰ると社長が普通に昼寝をしてたのだが・・・。俺が帰ると保証会社でコーヒーを飲んでくると言い残し、さっさと帰っていった。その後、本店の西島さんに電話を掛けて、店の状況を報告した。




「お疲れ様です。中山の店ですが、あまり繁盛してないように思います。というか、一部の常連によって持ちこたえてるって感じでしょうか。掃除はまぁまぁ及第点だったのですが、何十本かはボトルキープされてたのですが、その内の大半はホコリを被ってました。取りやすい棚に置いてたボトルだけはホコリを被ってなかったんで、おそらくですが、常連以外はあまり来てないように思います。あとはビールの空き瓶ですが、そこまで多くなかったですね。」




「そうか・・・。次は括った方がえぇかもしれんな。」




 その時、店長の大きな溜息と俺の溜息がシンクロしてしまったのである・・・。













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