第46話 もう一人の女

 次の朝、ホテルの窓から少し空いた隙間から朝の光が差し込んでくる。その淡い朝日を浴びながら、真一郎は昨夜の激しいセックスを思い出していた。その相手の愛菜は、今自分に裸の肩を抱かれてうとうとしている。


 背中越しに見える彼女の乳房は光に反射して白く、まるで餅のようだった。その柔らかな乳房に触れてもまだ彼女はすやすやと寝入っている。その横顔は、昨日の激しいセックスの時に見たときの興奮した愛菜ではなく、化粧を落とした素顔はまるで少女のような寝顔だった。


 思わず真一郎は苦笑し、右手の人差し指で頬を撫でると、少し反応したが起きる気配は無い。


(やはり彼女はまだまだ子供だな)と思い、そっと掛けてある毛布を剥がすと、そこに横たわっている身体は子供の身体ではなかった。


 その若い肉体はプリプリとして弾けるようだった。その裸の尻を手で撫でていると(さむいよー)となにやら愛菜が言う。


 慌てて真一郎は毛布を掛けた。しかし、愛菜が起きる気配が無い。朝方まで激しく抱き合ったセックスで疲れたのだろうか。しかし、若くはない真一郎はいつもの時間には目を覚ましてしまう。



  ベッドの中でふと気になって起き出し、彼はホテルのガウンを羽織った。煙草を吸いながら会社の美人秘書の神崎沙也香の携帯電話に電話を掛けているが、まだ彼女は出ない。


 会社には早い時間なので出勤している時間では無い。それを思い出し直接彼女に電話をしたのだ。この時間ならまだ彼女は家にいるはずなのだが。

 秘書としての沙也香に、今日は午前中に少し用事があって、会社に出るのは昼過ぎだと伝えておくためである。


 沙也香は真一郎の秘書であり、彼の愛人となっていた。それは彼の義父である浦島慶次と、秘書の青木ひろみとの関係と同じであるのはなんとも皮肉だった。この義父と息子は血のつながりが無いとはいえ、女性関係ではいつも噂が絶えないのも、彼等には淫乱の血というものが引き合っているのかもしれない。


                 *


 沙也香と愛菜との関係が展開する前に、真一郎と秘書の沙也香との関係を、ここで見てみよう。


 沙也香は独身で、そのころワンルームマンションに一人で住んでいた。或る日、真一郎が執務の部屋で書類に目を通しているとき、いつものように沙也香がやってきた。

「おはようございます。部長」

 相変わらずセンス良く服を着こなし、姿勢が良くハキハキとした声と、栗色の長い髪の毛をキリリとまとめた沙也香はキャリアウーマンの見本のようだった。どこから見ても隙が無い。


「おはよう、沙也香。今朝の書類は?」

「今朝、お届けする書類は無いのですが、一つお願いがあります」

「おや、なんだろう、朝から?」

 沙也香からお願いされることなど珍しい。


「あの……部長は、今夜の予定はございますか?」

「それは、君が一番よく分かっているだろう。ないはずだよ。それがどうしたかな?」


「はい。そうでした。実は、今日はわたしの誕生日です。もし宜しければ家に来て頂きますか?」


「君の家に? 良いのかい?」

「はい。部長なら喜んで」

「分かった。いつも君には頑張って貰っている。勿論いくよ」

「えっ! 本当ですか……嬉しい」


 普段から冷静であまり喜怒哀楽を示さない沙也香だが、珍しく少女のように喜んでいた。もちろん、いつも頑張ってくれている彼女のために真一郎は承諾した。


 仕事が終わり、夕方になって彼は高級ワインを持って訪れた。彼女は上品で膝まであるスカートが似合う女である。頭の回転が早く、何事にも抜かりがない。真一郎にとっては優れた女なのだ。

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