第忌譚【照る照る坊主】・朽

 ? どうしたんだろう。……何かあったのかな ? 

 僕の前を進んでいた祖父も異変に気が付き、別の親戚に声をかける。


「どうした ? 早く進まんと、日が暮れてしまうぞ ? 」

「いや、それが……あれ」

「あれ ? なっ ! 」


 親戚が指さす先を見た祖父は、息を飲み固まってしまう。


「じいちゃん ? 何かあ、……っ ! 」


 祖父の背から覗き込むと、そこにはいくつかの地蔵が立っていた。しかし、その地蔵のどれもが首から上がない。

 首無し地蔵。それ自体は、全国的に探すと数多く点在しているから別段珍しくはない。

 だが、鵺霧村に首無し地蔵があるなんて僕は聞いた事がなかった。何より、驚いてる祖父の様子から察するに元々は首があったのだろう思う。

 すると、地蔵の前に立っていた都久志が口を開く。


「……皆様、この事は気になさらず。今は寺に急ぎましょう。

 雨脚が強くなっては、年配の方は御体に障ってしまいます。


 大丈夫。きっと、動物の悪戯か何かですよ」


 振り向いた都久志の顔には、何時もの優しい朗らかな笑みが浮かんでいる。でも、それが動物の仕業でない事は誰が見ても一目瞭然だった。

 しかし、その事を言及してはいけない気がして腑に落ちはしなかったものの僕は他の親戚や母たちと共に都久志の言葉に従い再び寺を目指して歩き出す他なかった。





 墓参りは何事もなく無事終わり、会食も済めば親戚たちはみな家へと帰って行く。残ったのは、僕たち家族と住職である都久志の家族だけになった。

 母は祖母と共に、都久志の妻・一珠ひとみを手伝い会食場所になった部屋の片付けをしている。祖父はと言うと、廊下で都久志と何かを話しているのを見かけた。

 険しい表情から察するに、おそらく斎場から寺に戻る途中で見かけた例の首無し地蔵の件だろう。僕は母を手伝おうとしたが、昨日の今日なので休んでいる様に言われ手持ち無沙汰になってしまっていた。

 何もする事がなく、窓辺で外を眺めていると後ろから足音が聞こえ振り返る。


「お疲れ様……昨日、倒れたって……久哉に、聞いたけど……大丈夫 ? 」

「え ? いつ聞いたの ? 」

「今朝……メッセージが、来てた」

「なるほど……てか、壱樹くんもお疲れ様。今日はありがとうね」

「お礼なんて、良いよ。寺の子として……当然の事、だし……あれから、もう……十二年が、経ったん……だね」

「……あっという間だった様にも感じるし、凄く長かった様にも感じる。

 なんだが、不思議な気分だよ」


 壱樹と二人で話していると、再び足音が近付いてきた。


「あ、ここに居たんだ。探したよ ? 」

「兄さん」

「零士くん……探してたって、僕の事 ? 何かあったの ? 」

「違う違う。何もする事なくて暇してるんじゃないかと思ってさ。

 あと、せっかく久々に会ったんだし話したいなと思ってね。まだ、時間かかるみたいだし奥の座敷で話そうよ ? 

 さっき、電話したら久哉も来るって言ってたし」

「わざわざ呼んだの ? 」

「まさか。


『綠の奴、大丈夫か ? また倒れたりしてないだろうな ? 』


 って電話が来たから


『大丈夫だよ。それより、今から三人で思い出話しでもしようと思ってたとこ。

 良ければ、久哉も来る ? 』


 って誘っただけだよ」


 っと話していると、ちょうど玄関の開く音がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る