第忌譚【照る照る坊主】・戎参

ー一時久哉ー


 綠が階段を下りて行くのを横目で確認し、俺は改めて【首無し法師】と対峙する。不意打ちだった事もあり、最初の一発はみぞおちに決める事が出来たんだ。

 だが、その所為で【首無し法師】の俺に対する警戒と敵意が一気に高まってしまった。これじゃあ、迂闊に動けないな。


唵呼呂呼呂おんころころ 柂荼利摩登枳せんだりまとうぎ 娑婆呵そわか


 俺は、薬師如来の真言を呟き手にした黒い鉄の棒……棍棒に霊力を流し込む。綠が【憑き護】の体質なのと同じ様に、俺も他とは違う体質を持っている。

 母方の先祖が呪詛師じゅそしをしていたからなのか、俺は呪いに好かれやすい。普通、呪いに好かれるなんて不幸だと思うだろう。

 でも、俺は自分の体質を逆手に取る事にしたんだ。呪いは俺の霊力や血を好む。

 それを利用して、霊力や血を与える事で呪いを一時的にだが使役出来るようにした。叔父の都久志には、危険すぎるといつも怒られるが俺は俺の大事なモノを護るためなら利用できるものはなんでも利用する。


 亡き父に誓ったんだ。母や妹、そして友を護れる強い男になると……その為なら俺は何でもする。

 強く優しい父がずっと憧れだった。だから、俺は俺なりのやり方で父の様にみんなを護るんだ。


『じゃ、まを……するな ! 』

「っ……は、わりぃけど。お前の目的が、あいつらを傷つける事なら俺は容赦なく邪魔をさせて貰う」


 斬りつけて来た【首無し法師】の大鎌を棍棒で防ぐが、一撃が重く押し退けられそうになるのを耐えるので精一杯だった。押し返そうにも、ビクともしない。

 執念と怨念の重さとでも言うのか、棍棒に込められた怨念は【首無し法師】より強い筈だが霊力だけではこれが限界か……仕方ない。本当は、あまりやりたくはないがこのままでは全員こいつに殺される。


「はぁ、都久志叔父さん……今までにないくらい、怒るだろうな」


 そんな事を独り言ちてから、俺は【首無し法師】の背後に向かって叫んだ。


「今だ ! 綠 ! 」

『 ! 』


 驚いた【首無し法師】は振り返るが、そこには誰も居ない。その隙を突いて、俺は棍棒で大鎌を薙ぎ払った。

 こんな方法は、一回しか通用しないだろう。だが、それで良い。


「いっ、つぅ ! 」


 払った瞬間、俺は大鎌の刃に人差し指を這わせた。見事な切れ味で、一瞬のうちに指先が切れ血が滴る。

 俺は、その血を棍棒に垂らした。すると、一気に怨念が溢れ出す。

 一瞬でも気を緩めれば、棍棒の怨念に飲み込まれ正気を失うだろう。けれど、そんな事はさせない。

 そうなる前に、俺は【首無し法師】を仕留める。倒しきれなくても、せめて致命傷は与えてやるつもりだ。

 既に死んでいる奴相手に、致命傷とか可笑しな話だけどな。


『騙、したな。先ずは、……貴様から、殺す』

「出来るもんなら、やってみろ。俺は、そんな簡単に殺されないけどな」


 大鎌を振り上げる姿は、まるで死神の様だと一瞬思うが……袈裟を着た坊主の死神なんて笑えないな。

 恨み言を呟く【首無し法師】に対し、俺は余裕の表情で笑って見せた。すると、癇に障ったのか激高した【首無し法師】は更に声を荒げて襲い掛かって来る。

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