それぞれの道
りっちゃん先生の説明の後、長い沈黙が生まれる。
できるのであれば、そんな彼らの苦悩を取り除いてあげたい…。この歯痒い感覚こそが子の成長を見守る親の気持ちなのかもしれない…。
それでも、教えないことに決めた僕は、自分の椅子から立ち…修行に備えて帰ろうとする。
すると——立ち上がった僕へ不安そうな表情を向ける玲緒奈とよーちゃん、梓がいる。
——強くならなきゃ…だからごめんね…?
心の中で自分を律して、教室を出ようとした時——
『なぜ、華を枯れさせようとするのじゃ。そもそも、修行なんぞ、この辺でいくらでもできるのじゃ』
——え、そうなの!?山に篭って手の中からカメハメの波を出す訓練や石に僕の名前を書いて、取ってこいとかしないの!?
『するわけないのじゃ』
——そ、そんな!?
「僕はきちんと毎日学院へ来るし、みんなときつものように登下校もするからさ…?安心してよ」
なんとか…
先程までのピリピリした空気は。よーちゃん達になくなっており、気軽に三人が、僕の机までやってきたので、僕も椅子へ腰掛け直す。
「あの、良ければ、梓は穂花がどんな神と契約したのか気になるです!!」
よーちゃんも玲緒奈も梓の疑問に同意見だったみたいで、前者は梓へウィンク、後者は、梓チラチラと見ながら僕の様子を窺うのスタンスらしい。
両者ともに、正反対の反応を示しているのが、彼女達らしくて、すごく愛らしい。
「僕の契約している神様は、最高神の一柱に君臨する愛と美と性を司る女神アフロディーテ様だよ」
はぁ…本当はこんな不貞をした女神に様なんてつけたくはないけど…仕方ないよね!!
肩をがっくりさせている僕と比べて、彼女達は三者三様の反応を放っている…。
「最高神の契約者って、いずれも名を残す未来の英雄じゃない!?悲惨な末路を辿る事が多いらしいけど…」
「え!?梓は尊敬よりも心配の方が上回ります…」
「…私も最高神と…契約して…穂花を守る…」
よーちゃんは星が宿っているのではないか? と錯覚してしまうほど、瞳を輝かせている。
梓はそんなよーちゃんとは真反対の心配そうな表情を僕へ向け、玲緒奈に至っては僕の隣に立って守る宣言をしていた。
——僕が君達を守る…んだよ!!玲緒奈に守られ…るのも悪くはないんだけどっ!!
『如月健斗の拳を月に庇われた時は、目をハートマークにしておったのじゃ』
——う、うるさい!!
そう言えば…りっちゃん先生へ告げた時は自身を思い詰めていたような表情をしていたっけ…?
この辺の認識は僕のエロ漫画とは少し異なる。そもそも、僕のシナリオ設定通りならば、『最高神の契約者』とは憧れの的である。だが、どうにもこの世界とはその辺の認識が食い違っているらしい、
——だとしても、ハッピーエンドを模索するためならば、どんな障害が来ようとも、抗うけどね。
「兎にも角にも…学院へ通うし、時間があれば、みんなとデ、デートなんかもしたいと思ってるから安心して、三人は神との契約を頑張って!!」
僕の言葉に安堵したのか…一緒に帰る準備をして、教室から出ようとした時——下駄箱の少し前で、りっちゃん先生に僕だけが、後ろから声を掛けられる。三人は、そんな僕に気づかずに、先に下駄箱へと向かった。
僕は後ろへ振り返り、りっちゃん先生に向き直す。
「黄泉さん…その修行、わたしも混ぜて頂く事は可能でしょうか?中位の神では頼りにならないかもしれませんが、もう一度、あの子が攻めてきた時に、前回と同じように荷物になるのは我慢なりません…」
りっちゃん先生の瞳を見ると、彼女なりの覚悟を決めた顔をしている…。玲緒奈以上の決意の表明だ…。
きっとその理由は、彼女が『エリス』の存在を知ってしまっているからだろう。
僕と一緒に修行するのは構わないのだけど…唯一の懸念点は彼女にそんな時間があるかどうかだと思う。
「弥生校長から、きちんと許可を得ました。それに今の一年生の教師は教える事が少ないです。他のクラスの教員達も私と同様、暇な時間を過ごしているでしょう。その分…私達は来年からはすごく大変なんですけどね」
『ふっふっふっ…妾の修行は茨の道じゃ…。じゃが…その目をしている限り、雲もついてこれるのじゃ』
アフロディーテは楽しそうに僕へ語りかけるが、それは無視して、彼女に了承の意を示した。
その後、よーちゃん達に軽く謝りながら、下駄箱で合流して、帰路へと着いた。
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