〜エロ漫画家の男子高校生、自作品のヒロインになる〜

希望@百合専門

一章 月と太陽

プロローグ とあるエロ漫画家の独白

『オレ的速報!! 大人気エロ漫画の「女の子を堕とす程、強くなる奇跡の魔法で魔王を討伐します」が単行本二十巻を機に連載終了』



 一.ここからは名無しのAIPが送りいたします

 まじか…。何度も息子がお世話になりました。



 二.ここからは名無しのAIPが送りいたします

 ティッシュ代が浮きそうだな。



 三.ここからは名無しのAIPが送りいたします

 くぅ…俺達の女堕めすおちは不滅だぁ



 四. ここからは名無しのAIPが送りいたします

 それな



 五.ここからは名無しのAIPが送りいたします

 空条愛斗くうじょうまなと先生戻ってきてくれええええ




 ◆◇◆◇



 パソコンに映るネットユーザー達の悲痛な嘆きを視界に入れて…思わず、微笑んでしまう。



 何を隠そう、僕が空条愛斗くうじょうまなとだからだ。



 つまり…彼らは僕のエロ漫画のファン達だろう。



 しかし、ファン達の欲望の吐口にしていた漫画を男子高校生の僕が描いていた事を知ると、彼らはどのような反応をするのだろうか?




 ——絶望?

 ——歓喜?



 ——想像もつかない




 人気少年漫画の先生方は顔出しでテレビ等のインタビューに応じている事があるが、エロ漫画を執筆している先生方は僕のようにオープンにしていない事が多い。




 ——僕の独白が通常の人よりも多いのは、きっと…高校生の身で話題のエロ漫画を描いていたこともあるからだろう。




 勿論、インタビューなどを受けることによって、自身の作品の認知度を増す事ができるし、それこそ、学生で執筆をしている人ならば、友人などの支援も望める。



 だからと言って、必ずしも情報をオープンにしている方が有利とは限らない。



 むしろ、インターネットが当たり前となった現代の宣伝活動は、現実の交友関係よりもソーシャルネットワークのような幅広い不特定多数の方を対象にする方が有利なのではないだろうか? とさえ僕は考えている。




 ——話を変えよう。




 そんな僕が、『女の子を堕とす程、強くなる奇跡の魔法で魔王を討伐します』を略して『女堕めすおち』の筆を置いた要因は…数々の属性ヒロインを出してしまったせいである。つまり…新たな属性を発掘することができなくなってしまったのだ。




 ——ツンデレ、ヤンデレ、クーデレは当然として、強いのに弱い娘や弱いのに強い娘、他にもドジっ子先生や武士っ娘等、登場キャラクターのありとあらゆる属性や特徴を出し切ったと思う。




 タイトルの通りやヒロインの情報から承知の方が多いと思うが…敢えて宣言しよう。僕の手がけたエロ漫画は、巷で流行りの『異世界✖︎ハーレム』物だ。




 この作品は、単行本二巻をベースに一つのストーリーを完結できるようにしている。



 連載終了が二十巻…つまり、十個のストーリーがある。………要はキリのいいところで、連載終了に備えて、準備をしていただけだが…今は置いておこう。




 悲しんでいる彼らの事を思うと、僕の発想力の不足で筆を置いたことに少々罪悪感が湧いてしまうが、こればかりは、受け入れて頂くしかない。



 僕のようなモチベーションが低い状態で連載を継続してしまうと、手掛ける作品にも影響が出てしまう。



 現在、人気があっても…そのうち、人気が低迷すれば、出版社から、打ち切りの打診が迫られるのは自然だ。この業界は過程より結果を何よりも重視する。



 少し嫌な事を思い出して…パソコンの近くに置いていたブラックコーヒーを右手で持ち上げ、口に含み気分転換をする。その後、いつものように歯磨きを終え、青い布団に入って眠ろうとしたその時だった。




 突如として、頭痛に襲われたのだ。





 頭痛と聞いて、大多数の人は、ズキズキとした痛みをイメージするのかもしれないが…決して、そんな生易しい物では無い。例えるならば、ハンマーで一定のリズムで頭を思いっきり叩かれている感覚だ。



 不運な事に気分が悪くなり…酸っぱい胃液が込み上げて…口から出そうになったため、トイレへと駆け込む。



 二度あることは三度ある。頭痛、嘔吐に加えて、今度は、目眩まで舞い降りて来たのだ。




 ——助けを呼ぶにも意識が朦朧もうろうとしている。声にすがろうとしても呂律ろれつがうまく回らない。





 あぁ…でも…作品が完結した後、死ねるのならば、本望かもしれない。





 僕の可愛い作品の最後を描き切った。これこそ、東斗の拳の兄者の『我が生涯に一片の悔いなし』を体現しているのでは無いだろうか?




 そう思い、まぶたをゆっくり閉じた。



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