第10話 報酬アップ

 街道を歩くトレント、周囲の注目を浴びまくったが、大工たちが川に修理に行く途中と説明すると、護民官への通報は免れた。面倒なことにならなくてよかった。


 そのままトレントを川まで連れて行くと、そこで寝そべって貰い、基礎工事完了。


 約束の三日以内に橋を架けることに成功したわけであるが、ここからさらに報酬アップ事案。


 架けた橋に大工たちが細工をしてくれたのだ。


 まあ、それを狙って同行して貰ったのだが。


 大工たちは渡りやすいように巨木を平らに削り、通行人が落ちないように手すりを付ける。細やかな意匠も施し、二日で立派な橋に仕立ててくれた。


 それを見た依頼人の村長は、

「素晴らしい!」

 と、べた褒めし、報酬をアップしてくれた。


 金貨一〇枚からその十倍の一〇〇枚に報酬アップ。


 アップした報酬はすべて大工たちに渡すと、彼らは泣いて感謝してくれた。


「あんな酷いことをした俺たちにここまで慈悲を掛けてくれるなんて……」


「まあ、人間誰しも道を誤ることはあるさ」


 それ以上、恩着せがましいことはいわず、別れを告げる。


 新しく掛かった橋の通行人第一号だ。


 大工や村長たちは俺たちが見えなくなるまで笑顔で手を振ってくれた。


「いいことをしたあとは気持ちがいいな」


「そうですね」


 俺とフィーナはにこやかに旅を続ける。



 俺たちの目的は旧イシュタル王国にあるベナン地方。


 俺とフィーナが初めて出逢った場所に再訪するのが目的だ。


 夫婦が初めて出逢った場所で思い出に浸るのが主な目的であった。


 なかなかロマンチックでエモい計画であるが、難点なのはベナン地方がちと遠いことか。


「ベリー・ダーツで決めなければ良かった」


 と愚痴るが、あとの祭りである。


 とぼとぼと街道を北上すると、次の宿場町が見えてくる。


 最初に泊まった宿場町よりも遙かに大きい。どうやらこの辺の拠点となる宿場町のようだ。


 もちろん、泊まらない、という選択肢はない。


 なぜならばこの宿場町には温泉があるからだ。


「こんな序盤から温泉回を開けるのはありがたい」


 と漏らすと、フィーナは「なんのことかしら」と首をかしげた。

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