ドラゴン定食屋~ドラゴン族が衰退したので定食屋を開いて意識改革目指します~

羽生零

一章 ドラゴン、定食屋をはじめる

プロローグ【開店休業】

グラミアの志

 オレ、ドラゴン。名前はグラミアミリヌス。今年で212歳。通称グラミア。

 職業、定食屋。

 今月の売り上げ、爪の先ほどの翡翠の欠片が一つ。来客数、三人。

 ……あ、来客数は、今月じゃなくて店を始めてからの総数だった。


 定食屋『シャイン・ショック・ドゥ』は、本日も開店休業です。




 そもそも、なんでオレが定食屋なんて儲からないもんを営んでるのか。これには深いワケがあった。ワケっていうか、こころざし

 まず、大前提としてドラゴン族には店ってもんがない。

 この世界、人族や魔族が入り乱れてるが、大半の種族は商売ってもんをやっている。そんで、デカイ国を持って世界を支配してるのは、そういう商売ができる連中だった。

 商売に必要なのは何か?

 イチにブツ、ニに信頼、サンに金だ。密かに仕入れた人間の商人が書いた書物を読んで学んでなるほどなぁと思ったもんだ。つまり商売が上手いヤツは、人が欲しい物を持ってて、人に信頼されているってことだ。そんで、強い国はそのバカデカイ版ってことだ。物を持ってて信頼されてて金がある。それを、一人じゃなくてみんなが集合してやってるってことだ。


 何が言いたいかってーと、オレらドラゴンにはそんなもんが無いワケ。


 信頼と金が無い。ブツだけはある。財宝を貯めこんでるヤツは大量にいる。実は金もある。別種族が持ってた金貨銀貨を山のように持ってるドラゴンは珍しくない。ただ、ドラゴンが金を使ってやり取りすることは基本無い。ドラゴン同士でも、他種族との間でも。

 そんで、ドラゴンの国ってのは世界的に見てメチャクチャ立場が弱い。

 千年ぐらい前の大戦が終わった後には本当に終わってる感じだった。いつの間にか領土が決まり、そこから出たら狩られても文句を言うなという法律がメチャクチャな国際法がまかり通った。

 ドラゴン族の古老はまあキレた、らしい。が、


『あ? じゃあオレらと戦争しヤッてカタ嵌めるか?』


 と、当時の和平交渉の場にいた人間の将軍に凄まれて引き下がった。

 ドラゴンは強い。個体的には色んな種族として一番強い。体も頑丈、力も強い、魔術も使えて知能も高い――とジジババ連中は自慢してる。が、千年前の大戦では惨敗だった。人族も魔族もドラゴン殺しの専門家ってもんがいた。昔から、ドラゴンってのはその強さで人様を虐げ、奪ってきた。そりゃあ自衛の手段、さらには攻め滅ぼすための手段も用意するってもんよ。

 ドラゴン殺しのヤバいヤツら。『竜狩り』『ドラゴンバスター』なんて呼ばれてるヤツらは他種族にとっては英雄で、オレらにとっては最も会いたくねー存在だった。

 でまあ、そんなヤツらの活躍でドラゴン族は大戦後の交渉テーブルの隅っこで小さくなってた。そんで領土も小さくなってた。そもそも『オレらの天下だぜ!』と言わんばかりに、気に入った山だ洞窟だを勝手に占拠してて領土の概念なんて無かったんだが、まあともかく勝手に線引きされて、そっから出るなよ、と。

 よくよく考えると檻の無い牢屋みたいな感じだが、いままでドラゴンがやってきたことを考えると、こういう扱いになるのもしょうがないと思う。


 とはいえ、その辺を飛ぶだけで殺されたんじゃたまったもんじゃない。ということで、空を自由に飛ぶのは許可制になった。オレは親のおかげで外に出られる。本も外の行商人から買ったもので、そのおかげでオレはドラゴン族の暗い未来に気づいたってワケだ。あの時の行商人のおっさん、あと本の作者さん、マジでありがとう。


 それでだ。オレは考えた。

 ドラゴン族はこのままだとマジ終了。国がどうこうの話じゃない。

 オレらはいま、絶滅危惧種だ。

 まず個体数が少ない。元から生まれる数が少ないのに、狩られまくったせいで全体の数は千どころか五百も無いって話だ。しかも、数を増やそうにもメシが無い。ドラゴンの巨体を維持するため、オレらがやってきたメシの食い方と言えば『その辺にいるヤツを食う』だ。

 その辺にいるヤツ。野生動物ならまだ良かった。が、ドラゴンは野生だなんだという区別をしてこなかった。家畜だろうが他種族だろうが肉なら何でも食っていた。そういうのもあって出国制限なんてもんができた。外に出て食料を確保できるヤツは限られるようになった。

 結果。人に恭順して権利をもらうヤツと、狩られる覚悟で勝手に国の外に出るヤツ、そしてドラゴンの国の中の限られた食料を奪い合うヤツとに派閥が分かれた。だいたい、二対三対五の割合だ。

 子供が生まれても食わせてやれない。自分たちのメシで精いっぱい。

 ヤバくね?

 オレらは他種族で言うところの『貧民』と一緒なんだぜ。

 けど、頭硬い老人連中は、生き方を改めるなんてできない。どんなに頑張っても、イヤイヤ他国からの出国許可を貰うぐらいのことしかしない。


 てなワケで、オレは定食屋をやることにした。


 オレが合法的に仕入れた肉を食えれば、誰から奪わず、みんな空腹になることも無い。

 それに、他の種族がやってる『商売』の概念をドラゴン族に持ち込めるかもしれない。


 ……そんな一縷の望みをかけての出店だったんだけど……。


 見事に失敗した。



 客ナシ、在庫アリ、そして――


「おい、表出ろ」


 ケンカ、アリ。

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