第三十三話 ダンジョンの町 二 宿での出来事

「んん~」


 軽く腕を伸ばしてのびをする。

 古びた窓からの光が入りオレをまさせた。


「今日は……そうだ。ダンジョンの町に来ていたんだった」


 いつもと違う雰囲気、いつもと違う臭い、いつもと違う風を窓から感じて体を動かす。

 すると「ん」という声と共に少しやわらかい感触がする。

 その方向を見ると両脇に女性が二人。


「あぁ……そうだ。ベットが無いからと言って全員で同じベットに寝たんだった」


 床で寝るという選択肢もあった。

 しかし、と思い床を見る。

 あまり掃除がされていない床だ。

 ほこりがたまり過ぎているのかあぶらぎっている。

 流石のオレもここまでひどくはない。

 この床で寝るくらいならベットに三人めた方がいいとマリアンが提案して全員が了解したんだっけ。


 そう思い出しながらも「朝だぞ」と二人をさぶり起こす。

 するとマリアンとエルジュが粗末そまつなベットをギシギシと音を立てながらも体を起こす。

 眠たそうに「おはようございます」と言いながら目をこすり、さだまらない目線で周りを見た。


「おう。おはよう」


 オレの声でマリアンは完全に起きたのだろう。すぐにベットから出て再度挨拶。

 いつもの事だがそんなにかしこまらなくてもいいのにと思いながらも窓の方へ行き太陽の光を浴びるマリアンを見た。


 それに遅れてエルジュも完全に起きたようだ。

 ダンジョンの町まで来た服と同じ服で寝たマリアンとは異なり今のエルジュは修道士の服を脱いでいる。

 しかし服同様黒い下着にガーターベルト。そして黒のニーソ姿の彼女は朝なのに官能かんのう的だ。


 眠そうな顔から一転し、ニコリと笑みを浮かべて挨拶を。

 オレが降りると彼女も降りた。


「今日は教会に行って、帰るだけだよな? 」


 と、黒い修道士の服に腕を通しているエルジュに聞く。


「ええ。何事もなければそれで今日は終わりになります」

「もし何かあったらどうするんだ? 」

「その時は話を一時的に保留ほりゅうにして違う町の教会に連絡をして聖国から支援を引き出しますね」

 

 着替えが終わったようだ。黒い修道士の服を身にまとったエルジュがオレの方を向いてそう言った。


「それはすぐに動けるのか? 」

「ここから聖国まで距離がありますので場合によります。周りの教会から一時的に不足分を借りて補填ほてんをし、後程支援した教会へ補填分をおぎなうような形をとることもありますので」

「周りの教会が応じるのか? 」

「お気になさらず。そう言う時の為にこうして聖職者階級の『司祭』が派遣はけんされているので」


 なるほど、と頷くマリアンだがオレはあまり仕組みが理解できないでいた。

 ま、ようは教会にも色々な仕組みがあるということか。

 オレは気軽きがるでよかった、と胸をでおろしながら準備を終える。

 すると見計みはからったかのように扉からノックの音がした。


「おはようございやす。あねさん」

「おうおはよう。すぐ行く」


 扉の向こうから聞こえてくる声にすぐさま応じた。

 だが返ってきた声はどこか困った声音こわねだった。


「あ~それなんですがね。今メシ作ってるんで待っていただけませんかね? 」

「ん? 宿に調理人がいなかったのか? ここは飯が出ると受付の時に言っていたが」

「あ~そうなんですが作る者が今動けない状態で」

「! 何か事故でもしたのか?! 」

「違います、違います。なんていうか~」

歯切はぎれが悪い! 直接降りる!!! 」

「あ、姉さん!? 」


 ギシギシと床を踏みしめバン! と扉を開けて、廊下に出る。

 下からいい匂いが漂ってくる中階段を降りて——事情をさっした。


 ★


「……殺してはいないだろうな? 」

「「「へい! 姉さん! 」」」


 一階に降りて見えたのはボコボコにされてなわしばられているこの店の客と店主だった。

 そしてオレが見えるとすぐに立ったまま頭を下げる強面達。


「お、お前がかしらだったのか?! 」

「あ“あ”? 頭じゃねぇが、仲間だ」


 そう言うとその状態のまま照れる野郎共。

 しかし縛られている奴らが騒がしくなった。


「こ、こんなことして許されると思うなよ! 」

「俺達が何をやった! 」


 わめいていると頭を上げているソルムが怒鳴り、場をしずめる。

 余程昨日の夜はボコボコにされたのだろう。一喝いっかつされただけで静まり返った。

 そしてソルムが説明を始めた。


「この者達は姉さん方を襲撃しようとしていたようで二階に踏み入れようとしたところを即座に抑えました」

「そいつが言っていることは嘘だ!!! 」

「黙れ下郎がぁ!!! 」


 抗議する男にヴィルガが殺気を乗せて怒鳴ると「ひっ! 」という声と共に気を失った。


「知らん相手よりも知っている仲間の言葉を信じるさ。で……店主。これはどういうことだ? つまりこの店自体がグルってことで良いんだよな? 」


 そう言い受付の男性に言う。

 すると苦々しい顔をして顔をらしてぼそりという。


「新人に教育をほどこす。これがこの町のルールだ」

「はっ! 誰が新人だ。オレ達はすぐに帰るぞ? 」


 そう言った瞬間、捕縛されているやつらの顔が固まる。

 そしてすぐに動揺どうようが走った。


「どういうことだ? 」

「え? なら俺達どうなるんだ? 」

「このまま帰るだと? なら何故ここに来た」

「目的はこの町の商売じゃないのか?! 」


 何やら不穏ふおんな言葉が聞こえる。


「その話、聞かせてもらおう」


 町の商売、という言葉にマリアンが即座に反応した。


 ★


「要するにこの町はダンジョンの町ではなく賊の町ということか」

「すぐにでも公爵閣下に連絡をしなければなりませんね」

「ダンジョンをえさに引き寄せられた冒険者を狩る場所、ね。領都から離れているとはいえよくもまぁこんな犯罪を思いつくな」


 出来上がった男飯おとこめしを食べて、ゆっくりと言う。

 しかし正面に座るスピルニは少し慌てているようだ。


呑気のんきに食事をしている場合じゃありませんぜ? 早速この町から出た方が」

「それはエルジュが役目やくめを終えてから、だな」

「しかし……」

「言いたいことは分かる。だがエルジュも引く気はないんだろ? 」


 そう言いつつ彼女の方を向くと深く頷くエルジュ。


「すぐにでも派遣はけんされている神官を移動させます」

「お、おい、貴様ら。俺等から奴をうばうってことか?! 」

「奪う? 元より貴方方の物ではないでしょうに」


 エルジュが言うと犯罪者が抗議してきた。

 

「この口ぶりだと違法奴隷売買とかもしてそうだな」


 と、軽く当てを付ける。

 すぐにマリアンから怒気どきのようなものがれるが、気にせず考える。


 ダンジョンから採れる素材は——ピンキリだが——非常に有用だ。

 ならばこいつらが潜らない理由にはならない。

 潜るのならば怪我をする可能性がある。

 そうなると町と聞いて設置し、派遣された教会の人が何かしら脅しをかけられ無料で回復魔法とかを使わせている可能性もある。


 町としてしられているくらいだから商人も来るのだろう。

 冒険者ギルドを通じてその商人に素材を売る、と。


「こうなってくると、この地の冒険者ギルドっていうのも怪しいな」

「恐らく正式に設置はされているのでしょう。しかし町が形成けいせいされていく段階でゆがんだ可能性はありますが」

「なら何故ガガの町の冒険者ギルドは何も言わない? 」

「……ギルマスが怪しい」

「裏でつながっていると? ヴィルガ」


 聞くと、軽く縦に振った。


「ヴィルガの兄貴。気分を悪くしないでくださいね? で、元からあまりガガの町のギルマスは良い噂が無いんですよ。姉さん」

「あぁ。そもそも俺達よりも荒れていたギルドだ。何があっても不思議じゃねぇ」

「……証拠も出ないので」

「誰か、さぐろうとしたのか? 」


 そう言うとヴィルガがまたもや頷いた。

 あの荒れていたやつらがこんなにも成長して!

 うれし涙が出そうだ。


 涙を軽く腕でぬぐい話を戻す。


「証拠がないから何も言えない、か」

「そうなるとガガの町の町長も怪しくなりますね」

「大規模犯罪じゃねぇか」

「ぐうのも出ません」


 沈痛な顔をしてうつむくマリアン。

 これは馬車を走らせた方が良さそうだ。

 だが町全体が敵かもしれないから、こいつらがいる前で言う訳にはいかない。


 よし、と立ち上がり移動の準備をし、外に出、馬車係に連絡を入れて、オレ達は教会へ向かった。

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